第38話 乱入者
三人の参加者が、リーリエやユーリエの方に逃げて来る。
だが――それを追う巨大なスライムの身体の一部が、触手のようになって彼らの足を絡め取った。
「「「うわああああっ!?」」」
彼等は一斉に倒れて、悲鳴を上げる。
スライムの触手の力は強く、捕らえた彼等を簡単に持ち上げてしまう。
そして、地面に強烈に叩き付けるのだった。
「「「ぐああああぁぁーっ!?」」」
あれを何度も受けると大怪我をする。下手をすれば命も危ない!
「ああっ! 危ないよ! 助けよう!」
「よし! 行くぜ!」
ピートは勇敢に、ゴーレムの腕から飛び降りる。
リーリーエとユーリエもそれに続いて降りた。
「ゴーレム! 行って!」
ユーリエの指示に従い、岩のゴーレムは巨大スライムに突進していく。
その巨体の割にゴーレムの動きは速く、途中でピートを追い抜いた。
そして、三人の冒険者を捕らえていた触手を引き千切って開放した。
「いいわ! そのまま蹴り飛ばしちゃえ!」
ゴーレムはユーリエの命令通りに、巨大スライムを蹴り飛ばした。
ドォン! と洞窟を揺らすような振動と共に、スライムが壁に激突する。
「おい、こいつら足を怪我してるみたいだ!」
解放された冒険者達に駆け寄ったピートが、声を上げた。
「リーリエ! 治せる!?」
ユーリエ自身はゴーレムの操作に集中しないといけないので、手が離せない。
「まかせて!」
リーリエは冒険者たちに駆け寄って、足の怪我を治療して回った。
「あ、ありがとう――!」
「な、何なんだよあいつは……!」
「あれが試験のモンスターなのか――!」
口々に恐れを口にする参加者たち。
確かに、リーリエ達から見ても、この巨大スライムは、かなり凶悪なように見える。
しかし――
「見ろよ、あれ! あいつの体の中に合格の証があるぞ!」
ピートがスライムの体の中を指差す。
中には粘土質の土塊と、合格の証が三つも埋まっていた。
「ほんとだ! 三つもあるよ! じゃあ三人で戦っていいって事じゃない?」
「そ、そうなのか……!? よく分からねえけど――」
だが合格の証を見つけた以上は、見逃すのは惜しい。
「お、俺達はゴメンだぞ――!」
「ああ!」
「お前らも逃げた方がいいぞ!」
助けた三人は逃げ去ろうとする。
「なあ! 上に行ってホントにあれが試験のモンスターなのか聞いてくれよ! 何か変だ強過ぎる気がする!」
「わ、わかった!」
そう返事が返って来たので、ピートは巨大スライムに向き合う。
今はユーリエが呼び出したゴーレムが、それを殴りつけて抑え込んでいた。
岩のゴーレムの打撃は強烈で、巨大スライムを叩きのめすのだが、決定打にはなっていない。スライムの軟体の身体は、打撃を受けても変形するだけで効果が薄いのだ。
倒す必要は無いが、何とか体から合格の証を抉り出したいところだ。
そうすれば試験に合格できる。
「ようし――俺が!」
ピートは剣を抜き、ゴーレムと格闘する大スライムに近寄る。
ゴーレムがスライムを弾き飛ばした追い打ちにと、突進してその勢いの突きを放つ。
だが――ブニッと弾力に満ちた手応えに剣先が弾かれる。
「くっ!? こいつ――!」
ついてダメなら斬って見ても、結果は同じだった。
ピートの剣では、このスライムの身体を傷つける事が出来ない。
そして、接近してきたピートを敵も見逃すはずは無く――
触手が何本も伸びて来て、ピートの手足に絡まりついた。
「ピート君! ゴーレム、助けて!」
ゴーレムがその触手を引き千切りにかかる。
その隙に、スライムは体ごとゴーレムの脚部に巻き付いた。
そして――ジュウッと音を立てて、ゴーレムの脚部が溶け落ちるのだった。
強力な酸だ。それによりゴーレムの脚が失われてしまった。
体の安定を失ったゴーレムは立つこともできず、蹲ったまま手だけでスライムに対抗しようとするが、もう手遅れだ。
手にも軟体の体を巻き付けられて、酸で溶かされる。
片手片足を失ったゴーレムの姿――それは三人とも見た事があった。
試験用の粘土のゴーレムと同じなのだ。
つまり、試験用のゴーレムもこれにやられた――?
ならばこのスライムは、全くの偶然でここにいて、襲ってきているだけ――?
そう考えつつも、ユーリエは何とかピートの救出だけは成功させた。
片手片足を失いながらも、ゴーレムがスライムの触手を引き千切ってくれた。
しかしゴーレムはもう立てない、戦えない。
ユーリエは魔術を解く。するとゴーレムの身体が完全に崩れ落ちてただの岩になる。
「リーリエ! もう一回ゴーレムを作るわ!」
「うんじゃあ、その間はわたしが――!」
ユーリエは新しいゴーレムのために詠唱。
リーリエは自由と風の神スカイラの守護紋の魔術を唱える。
生み出された突風は巨大スライムを吹き飛ばすまでは行かないが、動きを止める事は出来た。その隙に、ユーリエに再びゴーレムを出してもらうのだ。それからピートにも安全に離れて貰える。
「ピートくん! 今のうちに離れて!」
「無理しないでね!」
「あ、ああ――! 悪いっ!」
二人の足を引っ張るような形になり、ピートは悔しかった。
自分はこの二人よりも遥かに劣る――そう意識させられてしまったからだ。
本当に、自分は何もせず遠巻きに眺めている方がまだマシなのかも知れない。
そうすれば、少なくとも足は引っ張らないで済むから。
「い、いや俺だって――!」
そんなに簡単にめげてたまるか、と思い直す。
自分が守護紋に恵まれないのは分かり切った事。
だが限界などない、とエイスが希望を見せてくれたのだ。
必ず力になる。出来る事をしよう。ピートはそう強く思った。
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