第37話 ユーリエのゴーレム
「あっ! あれ見ろよ!」
暫く洞窟を進むと、ピートが前方を指差した。
「うわ~! 戦ってるね! あれが試験のモンスターだよね」
「ゴーレムね――!」
ユーリエの言う通り、粘土質のもので形成された土人形だった。
額の部分に合格の証が埋め込まれており、試験のために用意されたものだと分かる。
だが参加者の一人と戦っているそれは、片足片腕を溶けたような歪な形で失っていた。
まともに動作が出来ない状態であり、地面に蹲りながらなんとか片手だけで相手を迎撃すると言った様相である。
「すげえボロボロになってんなあ、あいつそんなに強いのか――?」
ゴーレムを相手取っている参加者の少年がとても強く、ゴーレムをここまで破損させたと考えるのが自然なのだが――
ピートの目には、そこまでの腕を彼が持っているようには見えなかった。
「きっとそうだよ! すごいね」
「うん……あんなに大きなゴーレムなのにね」
「だよなあ……見た目だけで意外と弱いのか? あれは――」
「わからないけど、でもユーリエならもっと強いゴーレムが作れるんじゃない?」
「どうかしら……」
「作ってみてよ! 次に同じの見つけたら、ゴーレム同士で対決!」
「わかったわ。何が出てくるか分からないから、護衛がいた方がいいしね」
「ゴーレムなんか作れるのか?」
「ええ。知啓と金の神アーリオストの魔術で――」
ユーリエは洞窟の壁に手を触れながら言う。
ゴーレムにとってまず一番大事なのは素材だ。
何の材質のゴーレムを作るかという事である。
最も手軽で一般的なのは、土だ。
その他の材質――例えば木であるとか、鉄であるとか、水であるとか。
そういったものでも可能だが、土のように簡単ではなく、それなりに難しい。
様々な材質でゴーレムを作るには、それなりの力量がいる。
この洞窟の岩は――それほど難しくはない材質だ。
これなら、かなり大きいものを作っても制御可能なはず――
ユーリエは精神を集中し、呪文を詠唱する。
「我が命ずる――かりそめの魂を宿し、我が盟約の友となれ!」
ゴーレムを作成する魔術だ。
ユーリエの魔術により、手を触れた洞窟の壁が大きく人型に削り出される。
人の二倍ほどもある巨体の岩のゴーレムが出現した。
表面の滑らかさや体型の整い方なども綺麗に出来上がっている。
ユーリエの実力の高さが窺い知れようというものである。
「す、すげえ――! これ絶対、あれより強いだろ!」
試験用のゴーレムよりも体も大きいし、材質も向こうは粘土でこちらは固い岩。
まともにぶつかったら、どう考えてもこちらが強そうだ。
つまりユーリエはこの昇級試験は余裕で合格できるという事だ。
「や、やっぱお前らって、エイスさんの家族だけあって凄いんだな……何か俺、自信無くなっちまうぜ――」
「そんな事無いよ。ピートくんのことも、エイスくんが凄いって褒めてたよ!」
と、笑顔でリーリエが言う。
「え!? ほ、ほんとか! よっしゃ俺も捨てたもんじゃねえんだな……!」
ピートの顔がぱっと輝く。
そんな事を言っていたっけ? とユーリエは思ったのだが――
リーリエはユーリエの視線に気が付くと、ピートに見えないように目くばせして来る。
ああ――と、ユーリエはその意図を察する。
ピートを元気づけるために、ちょっとした嘘をついたのだ。
何も考えていないように見えて、リーリエはこういう気遣いが出来るのだ。
こういう人をよく見た機転は、ユーリエから見て凄いなと思う。
そうこうしているうちに、戦っていた参加者の人がゴーレムから合格の証を斬り出していた。そうすると、ゴーレムは動きを止めて動かなくなる。
「よっしゃー! やったぞー! これで合格だ!」
喜び勇んで戻ろうとするその冒険者を、ピートが呼び止める。
「なあ、あのさあ!」
「んん? 何だよ?」
「あのゴーレム大分傷ついてるけどさ、あんたがやったのか?」
「そうだぜ――と言いたい所だけど違う。初めから手と足が片方無かったぜ。何かよく分からないけどラッキーだよな」
「そっか。ありがとう、おめでとう」
「おめでとー! お兄さん!」
「おめでとうございます」
「ありがとう! 実は試験三回目なんだ。今度こそ合格できてよかったよ――」
その参加者は、嬉しそうに証を携えて戻って行った。
「よし、俺達は進もうぜ」
「うん」
「ええ」
三人は更に洞窟を奥へ。
それに付いて、巨大な岩のゴーレムもやって来る。
ドシン。ドシンと巨大な足音が響いた。
「何か後ろから来られると、踏み潰されそうで怖いな――」
「大丈夫だよ。ユーリエのゴーレムなんだから、そんな事しないよ」
「気になるなら、ゴーレムに乗せてもらう?」
リーリエがそう言うと、ゴーレムは立ち止まって岩の手を地面に差し伸べる。
「ほら、これに座って」
ユーリエに促されて三人がゴーレムの腕に座る。
するとゴーレムはひょいと腕を持ち上げて、三人を腕に座らせたまま歩き出す。
「すげー。自分で歩く必要ねえじゃねえか――」
「ふふっ。そうかもね――」
「あ、二人とも見て! みんな逃げて来るよ!」
確かにリーリエの言う通り、向こうの遠くに見える通路の奥から、三人の冒険者が顔を引き攣らせて逃げて来るのが見える。
参加者は八人で、二人はもう証を手に入れて戻って行ったのを見た。こちらは三人。となれば残るは三人。今見えるのは残りの参加者の全てだ。
一体何が――? その疑問はすぐに解消した。
彼等を追いかけて通路の奥方向から、巨大な青いスライムが姿を見せたのである。
もしかして、あれに追われていたのか――
「うわぁ! 凄いおっきいスライムだよ!」
「うん。お化けみたいね!」
「あれも試練のモンスターなのか……!?」
ならば戦う――!
巨大なスライムを前にしても臆さず、三人はそう決意するのだった。
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