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第1話 婚約拒否

 それから数日が経った。

 その日、俺は副団長達と共に次なる魔物討伐の計画を打ち合わせていた。

 そんな中、王都郊外の騎士団駐屯地にある俺の執務室を、王の勅使が訪れたのだった。

 勅使を任されていたのは、宮廷魔術師筆頭の初老の紳士マドック・マイヤーである。

 宮廷魔術師筆頭が勅使とは、これは只ならぬ事態である。

 何事かと身構えながら、俺やその場にいた副団長達は勅使の言葉に耳を傾けた。


「エイス・エイゼル殿! 国王陛下よりのお言葉をお伝え申す――!」

「……ええ。お願いします」


 俺は跪き、そう応じる。


「『エイス・エイゼルにおいては、これまでの多大なる功績は天下に並ぶ者が無く、余人をもって代え難き存在と、最大限の評価するものである。その忠誠に報いるため――貴殿と我が王女ヒルデガルドとの婚礼を認め、王家に迎え入れるものとする。明後日の正午、婚約の儀を執り行うため、アークス大聖堂に参集されたし』」


 宮廷魔術師筆頭はそう述べ、俺に正式な書状を手渡して来た。

 俺は一応それを受け取り、一礼で応じる。

 勅使の任を終えたマドック・マイヤーは一息をつくと、俺に笑顔を向けてくる。


「おめでとう、エイス殿! 貴殿の実力ならばこれも当然の事であろう。心から祝福をさせていただく。これで我が国の未来もますます明るいというものだ、そうであろう?」

「いやはや全く! これで我が白竜牙騎士団もさらに箔がつくってもんでさぁ! もう白竜牙の副団長ってだけで、お城の夜会から街の酒場から、どこ行ってもおネェちゃんにモテてモテて……! 団長のおかげで助かってますぜぇ、へへへへッ」

「バッシュ殿、こんな時に何て下世話な事を……! 団長! 本当におめでとうございます! 団長にお仕えさせて頂く身として、鼻が高いです!」


 副団長のバッシュもセインも、喜色を満面にさせていた。

 レティシアだけは、目が合うと一礼しただけだった。

 俺の気持ちを分かってくれているのかも知れない。


「……やってられんな――」


 俺は皆に聞こえぬ小声で呟いていた。

 まさか無いだろうと思っていたが、こんな事になろうとは。

 マルチナさんが話していたことが、現実のものとなってしまったのだ。

 王家に連れ子で婿入りなど、できるはずがないではないか。

 あの娘達を里子に出せとでも? 誰がそんな事を出来るか。

 これはもう、家に帰ってすぐに家族会議が必要だ。

 そしてその前に――


「ん? どうしたエイス殿?」

「いえ……俺は平民出身です。それが王家に入るなど、嫌がる者も多いでしょう」

「それが並の者であればな。貴殿の場合はそのような尺度は超越している。ある意味、貴殿の能力はこの世界のどの王家の血よりも尊いとも言えよう。特に魔術師などをやっておればな……誰しも貴殿の見ている世界に憧れ、その高みに登ってみたいと思うものよ。尊き能力と尊き血が交わる事、結構ではないか。私は祝福させてもらうぞ」


 宮廷魔術師マドック・マイヤーは、熱っぽく語った。

 好意的であるのはありがたいのだが――


「……お言葉有難く頂戴します。マドック殿」

「うむ」

「では戻って国王陛下にお伝えください――」

「うむうむ」

「このエイス・エイゼル――此度の縁談はお断りさせて頂く、と」

「相分かった。エイス殿は此度の縁談をお断りに――ってえええええぇぇぇぇ!?」


 マドック殿は死ぬ程驚いたらしく、滑って尻もちをついてしまった。


「「「ええええええええええっ!?」」」


 三人の副団長達も大声を上げていた。

 何がおかしいのだろう?

 家族が一番大事なのは、誰だって一緒だろう。

 娘たちと一緒にいるためには、当然の選択だ。

 迷う余地など一切ない。


「ば、馬鹿なエイス殿っ! 貴殿正気なのか……!?」

「無論です」

「し、しかし団長! 王家ですぜ王家! 逆玉ですぜ、逆玉!」

「バッシュ。金なら既に使い切れんほど稼いだ。別にいらん」

「団長! 国王陛下に王子のおられない以上、ヒルデガルド王女の伴侶こそ次代の国王の第一の候補です――後世の歴史に名を残す事にもなるのですよ!?」

「セイン。王になり歴史に名を残したいだけなら、どこぞの土地でも切りとって、自分の国を作った方が手っ取り早いだろう? やろうと思えばすぐにできる」

「だ、団長――! その……私は団長がご家族を思ってそう言われるのは、決して間違っていないと思います!」


 レティシアだけは何故かちょっと嬉しそうな、興奮気味の表情である。

 俺が王家を蔑ろにするような判断をするのが、面白いのだろうか。


「そうか? 分かってくれるか?」

「ですが少し心配です。王家からの縁談を断るなど――面子を潰す行為ですから、この先どんな仕打ちを受けるか……それでも、お断りになるのですか?」

「ああ、それでもだ」


 レティシアの言う事は恐らくその通り。

 縁談を断っておいて、何事もなくこの先もいられるとは思えない。

 それが故に、俺は早く家に帰って家族会議を催す必要があった。


「それではマドックどの、そのように陛下にお伝えください」

「し、しかしエイス殿……悪い事は言わぬ。考え直せ――!」


 マドック殿は俺の説得を試みた。

 しかし俺も頑として譲らない。譲れない。

 小一時間の問答の結果――マドック殿がついに折れた。


「わ、分かったエイス殿――確かに伝えよう。本当にいいのだな?」

「ええ。構いません」

「……それでは、私はこれで失礼させて頂くよ」


 そう言って、マドック殿は執務室から退出して行った。

 俺も執務室を出るべく、立ち上がり副団長達に告げる。


「悪いが今日は俺は早退する。緊急に家族で話し合う事がある。後を頼めるか?」

「了解でさぁ」

「承りました、団長」

「後はお任せください」


 副団長達は、口々に頷いてくれる。

 俺は彼らの好意に甘え、執務室を後にした。

 すぐに家に戻り、リーリエとユーリエと話し合うのだ。

 ――これからの、俺達家族の生き方を。

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