第35話 昇級試験
昇級試験を受けられるとなれば、子供達が受けないと言うはずもなく――
彼女達は翌日の昇級試験を受けることになった。
朝、昇級試験の参加者が窓口に集められた。
そこにはロマークさんとピートの姿もある。
「おっ! エイスさん! 双子ちゃん達も、おはようさん!」
俺達はそれぞれに挨拶を交わす。
「ロマークさんも今日は付き添いですか?」
ロマークさんは第四等級だ。第六等級への試験を受ける必要はない。
俺は第七等級だが、単にまだ貢献度が足らず参加できないのだ。
なので付き添いである。
「ああ。まあな、気になっちまってさ」
「俺は一人でいいって言ったんですけど……恥ずかしいし」
「ええっ? そうかなあ、わたしエイスくんが来てくれると嬉しいよ? ねえ?」
「そうね。安心よね」
「そりゃお前達は子供だからそう思うんだよ!」
「えーっそんな事無いよ! ピートくんだって子供だし!」
「うん、お父さんを恥ずかしいなんて可哀想だわ!」
「いや……うーん、分かったよ悪かったよ」
「へへっ生意気なお前も双子ちゃんには形無しだなぁ」
「仕方ねえだろ! 女相手だし――」
他にも参加者は何人かいる。
いずれも年若い、駆け出しの冒険者たちだ。
その中でも娘達は一番若く、その次に若いのはピートだが。
と、その場にタラップさんとネルフィがやって来た。
「やあ皆さんこんにちは。今日は昇格試験への参加をありがとうございます。さっそくだが試験の内容を今から発表します」
と、タラップさんがネルフィを見る。
ネルフィは頷いて説明を開始する。
「今から皆には、試練の洞窟に向かって貰います。その中に試験のために用意したモンスターがいるから、それを倒してその証を持ってきて下さい。ちなみにこういうものね」
と、ネルフィが見せたのは冒険者バッジにもなっている水神様を象った紋章だった。
「わぁ魔物退治だ! 冒険者っぽいね!」
ユーリエが喜んでいた。
「第六等級になったら、魔物討伐も請け負えるようになるからね。ちゃんと戦えるって事を、この試験で証明してもらうのよ」
「よーし、がんばろ! ユーリエ!」
「ええ、分かったわ!」
「おーっと、洞窟に入ったら、紋章付きのモンスターとは、みんなそれぞれ一人で戦ってね。他の人の手助けはダメよ? 自分の力を証明して貰わないといけないからね」
「なるほどな――よし、やってやる!」
「では、皆さん。試練の洞窟に向かいましょう」
タラップさんの先導で、俺達は試練の洞窟に向かう。
その洞窟はエスタ湖畔にあるようで、港から少し街外れに出た所に入り口があった。
エスタ湖の地下に広がる洞窟なのである。
「はい、中は暗いから松明を持って行ってね!」
参加者は我が家の双子とピートも含め、八人程だ。
「リーリエ、ユーリエ。無理はするんじゃないぞ。危ないと思ったらすぐ引き返すんだ」
「うん、大丈夫だよ!」
「ええ、心配しないで!」
二人ともやる気満々のようだ。
二人の能力を考えれば、第六等級への昇級試験程度で手こずるはずは無いのだが――
やはり心配ではある。
子供達が危険な目に合うくらいなら、自分が代わりたいのが親心と言うものだ。
「クルルゥ……」
俺と一緒に見学に連れてきたクルルも、心配そうにしていた。
ちなみにクルルは人懐っこい性格をしており、救護室で愛嬌を振りまくため、冒険者ギルドの冒険者の間ではすっかり人気者になっていた。
今ではクルルを見るためだけに救護室を訪れる者もいるくらいだ。
「では試験を開始します! 皆さん頑張ってください!」
タラップさんがそう宣言し、松明を持った参加者たちが一斉に洞窟に入って行く。
「よっしゃ! 一番乗りだぜ!」
勇んでピートが入り口に走るが――途中でこけてしまった。
「……ったく、大丈夫かねえ……あいつは」
ロマークさんが額を押さえて頭を振っている。
「じゃあ行ってくるねー! エイスくん!」
「心配しなくても大丈夫だから!」
二人が手を振りながら洞窟に入って行く。
「……俺ももっと依頼をやっておくべきだったな。そうすれば一緒に出来たんだが――」
数日に一度の剣術教室では、毎日救護室で働いている彼女達には功績が敵わないのだ。
「そんなに心配しなくても大丈夫よ、エイスさん。初めての昇級試験だから、そんなに強いものじゃないし、人に大怪我させないようにしてあるから」
とネルフィが言ってくる。
「そんな事が出来るとは――中に配置してあるのはゴーレムか?」
ゴーレムならば、生み出した者がそのように指令すれば可能だ。
ただし複雑な命令に耐え得るゴーレムは、力量の高い術者でないと作れない。
「ご名答。もし参加者が大怪我したり気絶したりしたら、救助して戻って来るわ」
「それは、相当な術者が生み出したゴーレムだな。かなり高いのでは? よくそんなものを使えるな」
「ふふふっ。ちょーっとね、安く仕入れる伝手があるのよ」
ネルフィが悪戯っぽく笑った。
それならば少しは安心できるか――
とにかく、早く帰って来て欲しいものだ。
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