第33話 特別訓練
改めて、俺はロマークさんとピートへの気と気孔節の使い方講座を始める事にする。
リーリエとユーリエ。それにネルフィは見学だ。
子供達もネルフィも魔孔節を持つ魔術師である。
気や技能の話は専門外だ。
魔孔節のみを持つ純粋な魔術師が、下手に気孔節を身に着けてしまうとむしろ弱くなる。
この話は聞いておくだけにした方がいいだろう。
「ねえねえ、この後何を食べに行きたい?」
「わたし、お肉と甘いもの!」
「あたし、お魚とお野菜!」
――聞いているのかも怪しいが……
まあ構わないだろう。彼女達には必要のない事だ。
ここの所、救護室の関係で子供達がネルフィと接する時間は多い。
そして今日一緒に買い物に行ったことで、ますます打ち解けて仲が良さそうだ。
「ではこちらはこちらで、話を始めましょう」
「ああ、エイスさん」
「はいっ!」
「まず基本を確認しておくと技能とは人の持つ気を守護紋の力で変換・錬成したものとなる。その効果は技能によって様々だ。戦いに向くもの、向かないもの。その種類は様々だ」
これは今更言うまでもない、当たり前の事である。
技能を操るものなら当然知っている。
ロマークさんとピートは黙って頷く。
「技能を発動させる瞬間、俺達は気孔節から気を体外に放出している。それが守護紋に伝わってそれぞれの技能の効果となる。つまり気とはあくまで原材料であって、それ自体では意味を持たない――」
再び二人は頷く。
最初に言った事を多少補足したに過ぎない。
常識的な事だ。一般論である。
「――というのが間違いだ」
が、俺はそれをひっくり返す。
「えええぇっ!?」
「マジかよ――聞いた事ねえぞそんな話は……!」
二人とも驚いて声を上げる。
常識として信じられている事を否定されたのだから、無理もない。
「と言いますが、実際技能を使うではなく気のみを放出して見た事はありますか?」
「……いや、ねえな。というか出来ねえ」
「ああ。技能を使おうと思ったら、勝手に気が吸い出されるって感じだもんな」
「そう。技能の使用と気の放出は、基本的に一体になっている。俺達にとってはそれが自然。本能的なものだと思われる」
そこで俺は、自分の掌の気孔節から気のみを放出して見せた。
俺の掌から、黄色系に光る靄のようなものが沸き立った。
「だがそれを制御し、純粋に気のみを放出して身を覆うと――微弱な身体能力の活性化の効果がある」
「身体能力の活性化? 気装身のようなか!?」
「だ、だったら戦士の神の守護紋持ちの奴に張り合える!」
しかし俺は首を振る。
「いや、単に全身から気を放出して体を覆っても、それは気装身の足元にも及ばない。半分の力も出ないだろう」
「ええっ!? だ、だったらダメじゃんか!?」
「落ち着けピート。エイスさんが何とかなるって言ったんだ。ここで終わる話じゃねえ。その先がある。そうだろ?」
「ええ。全身を覆うではなく、一点に全身分の気を集中して強度を高めます。そうすれば――」
と、俺は自分の右足に気を集める。
その上で、右足で床を蹴る。俺の体は高く、天井に頭が当たりそうなくらいに飛び上がった。集中した気が、俺の右足の能力活性化させた結果だ。
「このように、一点のみで言えば気装身に勝る事も可能になる」
「おお――すげえっ!」
「つまり、動きに合わせて気の集中点を自由自在に操りながら戦うって事か――それってとんでもねえ事なんじゃねえか……!? そもそも技能なしで気を体の外に出すことも出来ねえのに……」
「ええ。超人的な制御力です。俺も今のような単純な動きならできますが、戦いの中で動き回りながら的確に集中部位を制御するのは無理です。ただ、先日も言いましたがそれを可能としている者もいる」
「ああ――そうだよな。不可能ではねえんだよな……」
「エイスさん、それ誰なんですか?」
「バッシュ・ボールドルと言う男だ。白竜牙騎士団の副団長の一人だ。君と同じで商売人の神の守護紋しか持っていない」
「えええぇぇぇぇっ!? それで白竜牙騎士団の副団長にまでなれんのかよっ! すげえええぇっ!」
ピートの瞳が、未来への希望でキラキラと輝いていた。
我が家の子供達もそうだが、こういう表情はいいものだ。
側で見ているロマークさんも嬉しそうな顔をしていた。
「というわけだ。まずは技能を使わず気を体の外に出す訓練から始めよう。どちらが先に出来るか競争だな」
「はいっ! よっしゃあ! こんなおっさんには負けねえぜ!」
「言ってろガキが! 親父の威厳ってもんを見せてやる!」
こうしてロマークさんとピートの新たな修行が始まった。
二人で同じ訓練をするのだ。親子の仲もより深まるだろう。
一通りの訓練の仕方を教えると、俺達家族はネルフィとロマークさん親子とさらにタラップさんも加えて共に食事に出かけた。
俺達がギルドを出る直前にタラップさんに出くわし、そういう流れになった。
大通りは水神様の祭りが近づいてきている事もあり、賑やかなものだった。
あちらこちらに、蛙の頭をした水神様の人形が飾られ出しているのも目に付いた。
乗り物として大きな青いスライムに乗っている姿が目に付く。
これが水神様の乗り物らしい。
水神様の祭りが終われば、俺達は『浮遊城ミリシア』を見に行くためにこの街を発つつもりである。
この街での出来事や出会った人は、子供達にもいい思い出になるだろう。
出発の時は、少々名残惜しい気持ちになるかもしれないな――
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