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第28話 深夜の来客

 荷物から顔を出したクルルを見ると、タラップさんとネルフィが吃驚していた。


「うわあああぁぁっ!? ド……ドラゴンですか!?」

「で、でも小さいわね。子供……!? あれ? けどこれ翠玉竜(エメラルドドラゴン)じゃないの!? 子供でもこんなに小さくは無いと思うんだけど……!」


 ネルフィはエルフだけあり、翠玉竜(エメラルドドラゴン)を見知っているようだ。

 秘境に生息する翠玉竜(エメラルドドラゴン)と静かな森を好むエルフは、棲み家の好みは似通っているのかも知れない。

 きっとエルフにとっては、俺達にとってよりも、翠玉竜(エメラルドドラゴン)は身近な存在なのだ。


「魔術で身体を小さくしています。それは常時維持できますので、安心して下さい」

「ま、まあ……エイスさんがそう仰るのであれば……」

「こうして見ると可愛いわね」


 ネルフィはクルルの前にしゃがみ、つんつんと指先でつつく。


「クルッ♪」


 クルルは大人しく、それを受け入れていた。


「タラップさん、お願いというのはこのクルルの事なんですが――」

「何でしょう?」

「これまでこちらに来るときは宿で待たせて、依頼(クエスト)で街の外に出る時には連れて行っていたのですが――こちらに詰めるのであれば、ずっと宿に置いておくのも可哀想なので、ここに連れて来る許可を頂けないものかと」

「き、危険はないのですよね?」

「ギルドマスター。翠玉竜(エメラルドドラゴン)は大人になると何も食べませんし、子供でも草食性ですから、誰かに噛みつくとかはしませんよ。大人しいんです」

「な、なるほど――」

「旅の途中で怪我をしているのを見つけて、この娘達が治癒魔術で治療したのですが……その後懐かれてしまったようで、連れて行く事になったんです」

「へぇ~? 恩を感じてって事よね? 義理堅いのね、クルルだっけ?」

「うんそうだよ~。わたし達が考えたの!」

「恐らく親とはぐれてしまったのだと思う。何とか返してやりたいんだが、翠玉竜(エメラルドドラゴン)の棲み家を知らないか?」

「え? うーん……それ私に聞く? 私ただの受付嬢なんだけど」

「だがエルフだろう? エルフなら知識も豊富かと」

「エルフにもいろいろいるのよ……私人里暮らしの方が長いし――まあエルフの集落に行って長老に聞けば……? 何だったら今度案内するけど――」

「頼めるのか? ではいずれ頼む」

「ええ」


 とネルフィは頷く。これは、いい手がかりになるかも知れない。


「よかったねクルル!」

「お家の場所がわかるかも知れないって!」

「クルルゥーー♪」

「タラップさん。このクルルを、この子達がここにいる間は同じ部屋にいさせてやっても構いませんか? 必ず娘達か俺が見ているようにしますので」

「ええ。見たところ大人しそうですし、この大きさであれば可愛げもありますからな」


 タラップさんの許可が降りた。


「どうもありがとうございます」


 俺が頭を下げると、子供達もそれに続いた。


「「ありがとうございますっ!」」


「うんうん。きちんとしていて偉いね、二人とも」


 タラップさんも二人に目じりを下げていた。


「いやあ、この子達を見ていますと、私も孫に会いたくなりますなあ。ちょうど同じ年くらいなのですよ」

「そうでしたか。この街にお住まいに?」

「いえ王都に。私もここのギルドマスターですから、なかなか街を離れられませんので、滅多に会えないのですが……」

「そうでしたか。偉くなるのも考え物ですね」

「はははは……! エイスさんに言われるとは――! あなたは私など及びもつかぬ大役を負っていたではありませんか。あのアクスベル王国の筆頭聖騎士だったのですから」

「ああ――そういえばそうでしたね」

「ふふふっ! 不思議よね。エイスさんってすっごく偉かった人のはずなのに、そんな感じがしないもの。もちろんいい意味でね」

「元々平民出身の成り上がりだからな。高貴な世界にはずっと馴染めずにいたな」


 宮廷の儀礼や作法は苦手で、その面では貴族の家柄で育ちのいいレティシアによく面倒を見て貰っていたな。俺だけでなくバッシュもだが。

 セインも貴族出身なので、そこはそつなくこなしていた。

 三人の副団長達は、その後元気にやっているだろうか。

 何事も無ければ良いのだが――

 いずれ手紙を書いてみるのもいいかも知れない。


「さて、ではこれより救護室を正式に開くことにいたしましょう。怪我人がこちらにやって来ますから、対応のほうお願いしますよ」

「あ、私が救護室担当の職員としてお手伝いをするから、何かあったら言ってね」


 こうして、天使とドラゴンの待つ救護室が冒険者ギルドにオープンした。

 二人は朝救護室にやって来て、夕方まで怪我人がやって来たら治癒魔術で対応するという毎日になった。

 俺も基本的には娘達と一緒にいて、剣術教室の時間は娘達も連れて行う事にした。

 その間に怪我人が出たら、娘達はネルフィと救護室に戻るという対応にしておいた。

 俺の見える範囲に二人がいない時間は極力作りたくないのである。

 娘達は救護室で俺は剣術教室。それぞれこの街でやる事が出来た。

 出発の目途と考える水神様の祭りまでの日々は、穏やかに過ぎ去って行きそうだった。


 そんなある日の夜中の事――

 子供達もクルルも寝静まり、俺は一人窓際から星を眺めていると――


 コンコン コンコン


 ドアをノックする音である。

 こんな夜更けに誰か来たのだろうか――?

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