第27話 天使とドラゴンの救護室
さて剣術教室の翌朝――俺達は朝食を済ませると冒険者ギルドにやって来た。
今日の俺は、布に覆われた手提げの荷物を携えていた。
子供達を救護係とするタラップさん提案の特別依頼なのだが――
その事について、この荷物の中身も含め相談があった。
「あっ! エイスさーん! リーリエちゃんユーリエちゃんおはようっ!」
受付嬢ネルフィがカウンターの中から手を振って俺達を迎えた。
彼女はエルフだが、本当に明るくて賑やかだ。
エルフと言えば知的で物静かであり、静寂を好むという印象があるのだが――
彼女はまるでそれに当てはまらない。
「おはようネルフィお姉ちゃん!」
「おはようございます!」
「二人とも、体痛くない? 私昨日のエイスさんの剣術教室のせいで筋肉痛でね~……」
「ううん? 平気だよ! ね? ユーリエ」
「うん。元気よね!」
「え~いいなぁ。流石若いと、回復力が違うのねー」
「えぇ? お姉ちゃんだって若いよぉ?」
と首を傾げるリーリエに、ユーリエが耳打ちをする。
「しっ! エルフって長生きなのよ? だからネルフィさんは見た目よりずっと年上なのよ」
「えっ!? そうなんだ、どのくらいなの?」
「それは知らないけど……だけど女の人相手に年増だとか、おばさんだとか言っちゃダメよ。失礼だから」
「うん分かった」
「ユーリエちゃん、聞こえてるぞぉー?」
「わあっ!? ご、ごめんなさい!」
「ふっふーん。エルフは耳もいいのよ? ひそひそ話はもっと離れてやる方がいいわ」
尖った耳が、誇らしげにピクピクと動いている。
「おはようネルフィ。済まないがタラップさんはいるか?」
「ええいるわよ。読んで来るわね。と――その前にその荷物は何なの? 何かもぞもぞ動いてない?」
「ああ、後で見せる。ここでは目立つから、どこかの部屋の中でな」
「? 分かったわ、とにかくギルドマスターを呼んで来るから」
という事でネルフィがタラップさんを呼んでくれた。
「やあ皆さんおはようございます! お待ちしておりましたよ。お見せしたいものがございますので、どうぞこちらに」
タラップさんは愛想良く俺達に挨拶すると、早速別室へと俺達を案内する。
今日は先日の貴賓室のような場所ではなく、その隣だ。
一緒に付いて来たネルフィも含め、皆でその中に入った。
「……これは?」
「わぁ広い~!」
「綺麗……新品みたい」
中には清潔なシーツに覆われたベッドが四床。
それに書き物のための机が二つ。
それに子供用のものと思われる、やや小さめの揺り椅子も二つある。
その他にも長椅子や通常の椅子などもいくつか。
部屋を暖める暖炉も備えられている。とはいえ季節柄、暖炉は必要ないだろうが。
「救護室を作りました。急ぎましたので寄せ集めですが依頼で傷ついた冒険者をここに来させますので、治癒魔術で治して頂ければと! これをリーリエさんとユーリエさんへの特別依頼として依頼したいのですが、構いませんか?」
「はい、やりますっ!」
「頑張りますっ!」
二人は興奮気味に、手を挙げて返事をした。
「ねえタラップおじさん! あの椅子に座ってもいい?」
「構わないよ。二人のためのものだからね」
「「わーい!」」
娘達が揺り椅子に座り、それを揺らして遊び始める。
「わざわざこんな部屋まで済みません」
俺は保護者として、タラップさんに礼を言っておく。
子供の社会勉強としては、いささか本格的過ぎる設備だからだ。
「いえいえそれだけ治癒術師は貴重ですし、備品はギルドに元々あったものですから。まあ、あの子供用の椅子だけは買いましたが――差し上げますので、街をお発ちになる際はお持ち下さい。邪魔にならなければ――ですが」
「ありがとうございます。代わりと言っては何ですが、依頼の報酬は無しでも構いませんので」
「いえいえそこまでご厚意に甘えるわけには……! 無論ちゃんとお出ししますよ! ただ申し上げにくいのですが、一般的な治癒術師への報酬にはまるで見合いませんが……」
治癒術師は数が少なく希少なため、殆どの場合は王侯貴族のお抱えとなる。
逆に言うと、王侯貴族でないと抱えられないほど人件費が高いのである。
このギルド支部でそれと同額を用意するのは、確かに厳しいかも知れない。
「済みません、予算が厳しいもので……」
「いいえお気になさらず。あの娘達はまだまだ遊び半分です。将来のための貴重な体験をさせて頂ける事を感謝します」
俺はタラップさんに一礼をする。
そこに、子供達が椅子を降りて俺の元にやって来る。
「ねえエイスくん、もうあの話をしていい?」
「そろそろ出してあげないと――可哀そうだから」
「ああ。そうだな。タラップさん、特別依頼は勿論お受けしますが、こちらからも一つお願いが――」
「ほう? 何でしょうか?」
俺は手に提げていた荷物を床に置く。それがもぞもぞと動き出す。
ユーリエが俺を見て言う。
「エイス君、もう出してあげていい?」
「いいぞ」
「よしっ! 出ておいで~♪」
リーリエが荷物の包みを取り払うと――
「クルルゥーー♪」
クルルが顔を出し、高い声で一声吠えた。
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