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第24話 ロマークの息子

 数日後――

 俺達は冒険者ギルドの隣の商店にいた。

 冒険者ギルドで斡旋している店番の依頼(クエスト)である。

 二人はこの依頼(クエスト)が気に入ったようだ。

 ここ数日で何度かこれをやっている。


「いらっしゃいませー。こんにちは~!」


 初対面の人間にも屈託なく接する事が出来、お喋り好きのリーリエが店頭に立ち接客。


「ええと、銀貨一枚に銅貨八枚です。どうもありがとうございます」


 一人だけだと多少人見知りな所もあるが、賢く計算も得意なユーリエが会計を。

 二人がそれぞれに、向いている係でしっかり店番をこなしていた。

 タラップさんやネルフィが言っていたが、娘達が店番をしていると普段より売り上げがいいらしい。

 確かに店に訪れる客は、みんな笑顔になって帰って行くのである。

 俺はそんな様子を見守りながら、商品を補充したり、二人の手が忙しい時にその穴埋めをするように手伝っていた。


「やあ、エイスさんにお嬢ちゃん達!」


 物資を満載した荷車を押し、ロマークさんが店を訪れた。

 これもギルドの荷運びの依頼(クエスト)だ。

 そして、彼だけでなく、荷車を押すのを手伝っている少年がいた。

 年齢は十二、三歳と言った所だろうか。負けん気の強そうな眼差しをしている。

 さっぱりとした短髪で、なかなか爽やかな印象だった。


「ああ、ロマークさん」

「店番頑張っているようだな。補充の商品だぜ!」

「どうもありがとう。で、こちらは」


 俺が少年に視線を向けると、少年が緊張気味に口を開いた。


「こ、こんにちは! 俺ロマークの息子のピートです!」


 がばっと頭を下げられた。


「悪いなあ、エイスさん。こいつ、エイスさんにどうしても会いたいって言うもんでさ」

「は、はい! エイスさん、隣の国の人だけどスウェンジーでもめちゃくちゃ有名ですから! 北方のネフェウス軍の一万人を一人で追い返したりとか、各国の騎士や将軍を集めた御前試合で何年も連続で優勝してたり、街を滅ぼしたほどの魔物の群れを一撃で全部倒したり! エイスさんより強い奴はこの世界にいないって、みんな知ってます!」


 興奮気味な視線が、真っすぐに俺に向けられた。

 白竜牙騎士団に入って来た見習いの騎士が俺を見る目に似ている気がする。

 こういう目で見られるのは苦手――とまでは行かないが、少々居心地の悪い気はする。


「それは言い過ぎだろう。俺より強い奴など、世の中にいくらでもいるさ」

「え? 誰ですか?」

「いや――特には思いつかないが」

「やっぱりエイスさんが最強ですよ!」


 そう瞳を輝かされても、俺自身別に最強である事に拘りなど無いので、少々困る。

 少年のうちは、そういう話が好きなものなのだろうが。


「探せばきっといるはずさ。世界というものは広いはずだからな」

「なるほど! そうやって常に自分に満足せずに自分を鍛え続けるんですね! 勉強になります!」

「いや俺は――」


 俺は自分を鍛え続けようなどとはしていない。

 娘達とその成長を見守っていられれば満足なのだが――

 どうもこのピート少年は、俺を買いかぶっている様子だ。


「俺は自分の強さには興味がない。ただ幸せな家族旅行が出来ればそれでいいんだ」

「なるほど! 身近な守る人のために戦うって事ですよね! 勉強になります!」


 やはりうまく伝わっていないようだ――

 と、俺にロマークさんが耳打ちしてくる。


「こいつ舞い上がっちまって、自分が何言ってるか何言われてるかも分かってねえんだ。ガキなんだよ。まあ適当に相手してやってくれよ」

「ああなるほど。分かりました」


 そういうものなのかも知れないな。


「さあ、荷を下ろして店に商品を補充しないとな」

「おうさ。手伝うぜエイスさん」

「お、俺も手伝います!」

「どうもありがとう。助かります」


 俺達は店の商品を補充し、営業を続ける準備を整えた。

 俺達の依頼(クエスト)の担当時間はもうじき終わる。

 交代が来た時にも、これですんなり店を続けられる。


「これでよし――」


 と、店に次の店番の担当がやって来た。

 王都の俺達の屋敷で働いてくれていたマルチナさんを思い起こすような恰幅の女性だ。


「こんにちは、小さな看板娘さん。交代にやって来たわよ」


 もう何度か店番はやっているので、この女性とも顔見知りだ。

 およそ冒険者らしくない風体だが、それもそのはずで普段は主婦らしい。

 冒険者ギルドというのは、万人に開かれたものだ。

 冒険者として登録しておき、このような店番だったり、荷運びだったりの依頼(クエスト)を受けて日銭を稼ぐのも構わない。


「ご苦労様です。リーリエ、ユーリエ。店番は終わりだぞ。ギルドに報告に行こう」

「うん!」

「あたし達、今日も頑張ったね!」

「ロマークさん、では俺達はこれで――」

「ああ……! ほらピート、お前エイスさんにお願いしたい事があるんだろ?」


 と、ロマークさんが息子の背中を押していた。


「ん? 何か?」


 ピート少年が前に進み出て申し出る。


「あ、あの……エイスさん! もしよければ、俺に剣術を教えてくれませんか!? 時間のある時に、ちょっとだけでいいんで……!」

「剣術を……?」


 正直、気乗りはあまりしないのだが――

 ピートの横で密かにロマークさんが、手を合わせてぺこりと頭を下げている。

 子供のために頭を下げるこの人を見ていると、同じく人の保護者である身としては断り辛い。しかし、娘達を置いて他人のために時間を割くのも――


「あ、じゃあわたしも習うー!」

「そうね。エイス君に習ってみたいし、適度な運動は美容にもいいわ」

「うんうん! いっぱい運動すれば、いっぱい甘いものを食べても平気だよね!」

「リーリエ、甘いものの食べ過ぎでお腹がぷにぷにしてるもんね」

「やだやめてよ~! ユーリエのばか!」


 まあそれならば、娘達を放り出すという事にはなるまい。


「分かった。ではみんなでな。それでいいか?」

「は、はい……! ありがとうございますっ!」

「しかし、どこかちょうどいい場所はあるのだろうか」

「それなら冒険者ギルドの中に訓練場がある。冒険者の昇級試験とかにも使うんだ。そこを使わせてもらうってのは?」


 と、ロマークさんが提案して来る。


「なるほど――」

「今から行って、使わせて貰えるか交渉してみねえかい?」

「そうですね、では行ってみましょう」


 俺達はギルドに行き、ギルドマスターのタラップさんに交渉してみた。

 彼は二つ返事で頷くのだった。


「おおそれはいいですな! エイスさん、もしよろしければ他の希望者にも教えてやって貰えませんか? 冒険者の技量が向上するのは、ギルドにとって良い事ですから。エイスさんには特別依頼(クエスト)としてギルドから報酬を支払いますので……! あのアクスベルの守護神エイス・エイゼルの剣術教室となれば、皆入りたがりますよ!」

「しかし、そんな大事には――」

「毎日とは言いませんので、三、四日に一度で構いませんから! 是非ともお願いしますエイスさん!」

「いいんじゃな? 賑やかな方が楽しいよ? エイスくん!」

「うん。あたしもそう思う!」


 こうなってしまっては、乗り掛かった船か――


「……分かりました。ではそうしましょう」


 俺は観念して頷いたのだった。

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