第23話 バッジのためなら湖を割る
「ほんと!? ありがとうエイスくん!」
「どうやるのかしら――」
俺は自由と風の神スカイラの魔術で軽く宙に浮く。
「ロマークさん。少し船をここから離して頂けますか?」
「お、おう――構わねえぜ」
俺の願いを聞いて、ロマークさんの操る船は少々その場を離れて行く。
これで巻き込むことは無いだろう。
「よし――」
俺は水面にしゃがみ込むと、水面にそっと手を触れる。
そして――
「はああぁぁぁっ!」
掌で水面を、強く押し込んだ。
その衝撃により、まるで地震のような振動が発生した。
波紋が広がるような円形に水面に穴が開いて行き――湖底が見えるまでになった。
そしてぽっかりと円筒状に湖に開いた穴は、そのまま安定して戻らない。
衝撃で湖に穴を穿った状態を、知啓と金の神アーリオストの魔術【状態維持】で維持したのだ。
これで、ゆっくりと湖底の探索が出来る。
「す、すげえ――さ、さすがアクスベルの軍神と呼ばれたエイスさんだな……!」
「わあああ~! 湖に穴が開いちゃった! すっごーーーーいっ!」
「こ、これがエイス君の釣り……!?」
船上の三人が驚いていた。
「ほら、これで沢山魚が取れるだろう」
泉の底では、水が無くなり泳げなくなった魚が大量に、ビチビチと跳ねていた。
これを集めればいいのだ。釣り竿で釣るより簡単である。
魚釣りというよりは漁になってしまうが。
「それに、落ちたバッジも探せる」
俺は船上から魚を入れる桶を取り、湖底に降りた。
「わたしも~!」
「あたしも~!」
俺について二人も湖底について来た。
「バッジバッジ~~~! ああっ! あった! よかったああぁぁ!」
「よかったね、リーリエ! それに、お魚がいっぱい~!」
「これで取り放題だ。さあ集めよう」
「これって釣りとは言わないと思うけど――でも凄いね! エイス君!」
バッジを発見し、魚も桶に満載した。ついでにロマークさんの分も満載した。
これで、依頼の達成には十分だろう。
「はははっ。とんでもねえなあ――湖を割って魚を取る奴を初めて見たよ」
魚の満載された桶を受け取ると、ロマークさんは呆れたように笑っていた。
「周りを驚かせるので、余り褒められた事ではないですが。ですが落ちた冒険者バッジを探すためです。この子が気に入っていましたので――魚はついでに」
リーリエのためなら、俺は湖の一つや二つ割って見せる。
俺が幼い頃から鍛えて身に着けた力は、この子達のためにあるのだ。
「エイスさん、あんた親バカだねぇ」
「そうですか? 俺は厳格な父親のつもりなのですが?」
「いやいや、どこがだよ――」
ともあれ、俺達は無事依頼を終えた。
冒険者ギルドに戻って報告である。
「はいお疲れ様っ! 依頼達成ね、はい報酬をどうぞっ!」
と、ネルフィは一人十枚ずつの銅貨をカウンターに置いた。
俺、リーリエ、ユーリエ、ロマークさんの分だ。
子供達に、自分で働いてお金を稼ぐ事を覚えて貰うのも悪くは無い。
俺は依頼の報酬は彼女達にそのまま渡す事にしていた。
俺の取り分である銅貨十枚では一日の宿代食事代には足りないが、王都の館から持ち出した路銀はまだまだあるので何の問題もない。
途中の村で村の復興資金のためにいくらか出費したが、まだまだ家族三人が一緒暮らせるだけの貯えではある。
冒険者ギルドでの依頼は、彼女等の社会勉強という所が大きい。
子供達は『聖女ミルナーシャ』のようになる第一歩だと思っているようだが。
「やったぁ! ねえねえユーリエ、これ持っててね」
「うん。いいわよ」
どうも二人の間では、しっかり者のユーリエが二人分のお金を預かって管理しているようである。
二人の間の役割分担に俺が口を挟む事は無い。
微笑ましく見守らせてもらおう。
「さて、そろそろ昼食時か。二人とも、何か食べに行こうか」
「うん! 甘いものが食べたい!」
「お刺身が食べたい!」
「じゃあ俺もご一緒していいかい?」
と言うわけで、俺達は冒険者ギルドに併設された食堂で昼食を摂った。
そして、それを終えると――
「さあまた次の依頼に行こう!」
「ええ、行きましょう!」
「おおやる気だねえ、お嬢ちゃん達!」
「そんなに急がなくても依頼は逃げない。今日はもう終わりで、遊びに行っても構わないんだぞ?」
「ううん、やりたいの!」
「うん、やりたい!」
二人とも目がやる気に満ち溢れていた。
そういう事ならば、俺が反対する理由もない。
再び依頼受付カウンターのネルフィの元に向かった。
「おっ? まだ依頼をやってくれるの?」
「「はいっ!」」
二人が元気よく、手を挙げて答える。
「じゃあ、次は何をやってくれるのかな?」
「うーん、やってない事をやってみたいなあ」
「そうね……」
「そう? じゃあ、第七等級で受けられてまだみんながやっていないのは――ギルドの店番はどう? こんなに可愛い看板娘がいれば、きっとお店も繁盛するわ」
「……間違いないな。この娘達を見て可愛らしいと思わない者はいないだろう」
「えへへっ♪」
「うふふっ♪」
「ははは、エイスさんって親バカよね」
ネルフィに苦笑いされた。
「俺は厳格な父親を努めているつもりだが?」
「どこがよ――」
ネルフィはやれやれ、と首を振った。
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