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第20話 初の依頼《クエスト》

 最下位である第七等級の冒険者カードを受け取った俺達は、早速依頼(クエスト)を受ける事にした。

 子供達の念願の初依頼(クエスト)である。

 第七等級では地味な下積みの依頼(クエスト)しか受けられないため、選択肢は多くはない。

 薬草摘み、魚釣り、荷運び、清掃、商店の店番など――基本的に人手が足りない仕事の穴埋めが持ち込まれているような印象だ。

 地域の需要を吸い上げる冒険者ギルド本来の機能としては、別に間違ってはいないが。

 魔物を倒したり、迷宮を探索したりするばかりでなく、何でも屋なのである。

 限られた選択肢の中から俺達が受けたのは、リーリエの意見で薬草摘みとなった。

 どちらの意見を優先するかは、公平にじゃんけんで決めた。

 明日はユーリエの意見を聞いてあげる事になる。


 街を出て丘を一つ二つ越えた所にある林に、薬品の材料となる薬草ミルニルが生えているらしいので、俺達はそれを摘む事にした。

 依頼(クエスト)を受領すると一度宿に立ち寄り、クルルを連れて街の外に出た。

 街中を連れて歩くと目立ってしまうので、部屋で待っているように言い聞かせたが、ちゃんと言う事を聞いていた。

 翠玉竜(エメラルドドラゴン)というのは随分と賢く、飼いやすいドラゴンのようだ。

 ただし、体を小さくする魔術を常時維持できる環境が前提だが。


 薬草ミルニルだが、これは切り傷などに使用する塗り薬の材料になるものだ。

 あるいは魔術的に処理するならば、ポーションの材料にもなるはずだ。

 こういう部門は錬金術師と呼ばれる魔術師達の専門分野になるので、俺もそこまで詳しいわけではないが。


 さて、我が家の娘達はギルドで預かった大きな籠を背後に置き、いそいそと薬草を積んで行く。


「よいしょ、よいしょ。早くかっこよく魔物退治したいから、頑張らなきゃ!」

「ふぅ~この籠大きいわね、なかなか薬草が溜まらないし」


 彼女達は知らないのだ――

 籠に背を向けた瞬間に、クルルが籠の中の薬草を食べている事を。

 薬草摘みに夢中になる余り、背後に注意が行っていない。

 どうやらクルルは、この薬草ミルニルが好きらしい。

 大人しく留守番していて偉かったし、もう少し見逃してあげようと思う。


「よいしょ、よいしょ! よーし、いっぱい取ったよ!」

「あたしもよ!」


 二人がどっさりと籠にミルニルの束を入れる。


「まだまだー!」

「うんっ!」

「クルルゥーー♪」


 ムシャムシャムシャムシャ。


 その微笑ましい光景は、結局クルルがお腹いっぱいになるまで続いたのだった。


 結局、夕方近くまで俺達はその林で時間を過ごす事になった。

 薬草集めが終わると、子供達とクルルの遊びが始まったからだ。

 一緒に駆けまわったり、クルルに乗せて貰って空を飛んだり。

 特に、自分の魔術では空を飛ぶことのできないユーリエは喜んでいた。

 空を飛ぶ魔術は、自由と風の神スカイラの守護紋(エンブレム)があれば扱えるが、ユーリエはそれを持たないのだ。


「さて、そろそろ戻る事にしようか。あまり遅くなるとギルドの窓口が閉まってしまう」

「うん、お腹も空いたしね! 帰ろう!」

「楽しかったよクルル! また乗せてね!」

「クルルゥ!」


 俺達が帰り支度をしていると――


「きゃあああぁぁぁーーーーー!?」


 林の外側から、女性の大きな悲鳴が聞こえて来た。


「む……!?」

「悲鳴だよ!?」

「近いわ!」

「二人とも、少し離れて付いて来るんだ」


 俺達は悲鳴の聞こえた方向へと向かう。

 林を出て行き当たる丘の麓に、牛頭の魔物がいるのが目に入る。

 筋肉で盛り上がった堂々たる体躯に、凶悪そうな人相いや牛相。

 ミノタウロス――ドラゴン程ではないが、相当に凶悪な魔物だ。

 それがこんな街の近くに現れるとは――


 そしてミノタウロスに襲われ、尻もちをついて恐怖の表情を浮かべているのは――

 先程の冒険者ギルドで俺達の手続きをしてくれたエルフの受付嬢、ネルフィだった。


「ネルフィ!?」

「あっギルドの綺麗なお姉さんだ!」

「大丈夫っ!? お姉さん!」


 声が届いたか、ネルフィがこちらに顔を向ける。


「ああっ! エイスさん! 助け……」


 とネルフィが言い終える前に――

 その場に爆発したかのような轟音が響いた。


 ブモオオォォォォォーーーーッ!?


 ミノタウロスの体が、大きく水平に吹き飛んで行く。

 地面を擦った跡を轍のように残しつつ、目にも止まらぬ速度で遥か彼方へ。

 その立派な体躯は、遠く離れた丘の斜面に激突する。

 そして余りの衝撃により、いくつかに分かれて四散していた。


「……てくれてありがとう――」


 ネルフィはポカンとした表情で礼を言った。

 知らぬ仲でもない人間の命がかかっているのだ。

 危機を除くのに、何も手加減する必要もあるまい。

 また子供達に凄惨な光景を見せるのも憚られるため、死体を見えないくらい遠くまで吹き飛ばす必要もあった。

 だから全力で突っ込んで拳を叩き込んだのだが――

 その動きは、ネルフィには見えなかったらしい。


「いや、大した事でもない」

「な、何が何だか――今の、何をやったの?」

「単に突っ込んで殴っただけだ」

「そ、それであんなに……!? 凄い……! や、やっぱりアクスベル王国の筆頭聖騎士のエイスさんなんだ……!」

「もう昔の話だ。あまり人には言わないでくれ」

「う、うんっ。了解っ」


 こくこく、と頷くネルフィだった。

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