第18話 名声
ネルフィに暫く待つように言われた俺達は、言われた通りに座席に座って待機する事にする。
娘達は興味深そうに辺りをキョロキョロ見回していたが、やがて現在募集中の依頼が張り出された掲示板に目を止める。
その前には冒険者達が人だかりを作り、じっと内容を見たり、あるいはどの依頼を受けようかと話し合ったりしている。
仕事なので当たり前だが、皆真剣な表情である。
「あそこにどんな依頼があるか張っているのね。ねえエイス君、見て来ていい?」
「ああ、行っておいで」
と、俺はユーリエに頷く。
「やった! 行ってくるね!」
「あ、待ってユーリエ、わたしも~!」
と、リーリエも付いて行く。
二人は人だかりの後方に並んで掲示板を見ようとするが、前には大人が立っているので当然見辛い。
必死に背伸びをしたり、ぴょんぴょん跳ねたりして見ようと試みるのだが、やはり見れない。
ユーリエがリーリエを持ち上げて見ようと試みたりもするが、よろめいてしまい断念。
なんて可愛らしい姿だろうか――思わず頬が少し緩んでしまう。
だが喜んでばかりもいられない、俺は立ち上がる心の準備をする。
直後、二人が俺の方を見て、何か物悲しそうに視線で訴えてくる。
まあ、何が言いたいのかは分かっているし、そうなるのも分かっていた。
俺は立ち上がると娘達の側に行く。
「エイスくーん……」
「見れないよぉ~」
そして声を揃える。
「「抱っこして~」」
喜んで!
「ああ、いいぞ。二人とも肩に乗るか?」
俺は屈むと、左右の方にそれぞれ娘達を載せて立ち上がる。
「わぁ! 高ーい!」
「ありがとうエイス君! これで見れるよ!」
という事で、俺達は並んで掲示板の内容に目を通す。
「ええと……薬草採取、荷運び、あははっ。魚釣りもあるのね」
「この街が湖の湖畔にあるからな。薬草採取と同じくらい、当たり前にあるんだろう。そればかりやっていると、魚屋と変わらんが」
このあたりの初級クエストは、等級に関わりなく誰でも受ける事ができる。
基本的に、常に人手が必要な雑用という感じのものが多い。
このあたりだけをやるならば、あまり危険はないだろう。
初めはこのあたりからにして欲しいものだ。
「わたし、かっこよく魔物をやっつけたいな~そういう依頼はないのかな~?」
「あるみたいよ。だけど条件が――一番低いものでも第六等級以上ね」
冒険者ギルドの等級は、特等級が頂点でその下に第一等級から第七等級まである。
計八段階という事になるが、新入りは無論第七等級からの出発となる。
そこから実績を積むと受けられる進級審査を通る事によって、等級が上がっていく。
依頼には等級の制限もあるため、受領可能な依頼も増えて行く。
第七等級では魔物の討伐に関わる依頼は受けられない。
これは、未熟な冒険者が身の丈に合わぬ無茶をしないように、という安全への配慮だ。
「せっかく入って来た新人に無理して怪我をされては勿体ないからな」
「ふぅん……じゃあ薬草取りからかなー」
「あたし、魚釣りの方がいいかも――魚釣りってやった事ないし」
「えー……! わたし生きたお魚触れないよ~。キモチ悪いもん~」
「あたし平気だもん。触れないなら釣ったらエイス君に取ってもらえば?」
「エイスく~ん……」
「ああ大丈夫だ。取ってあげるからな」
家族で薬草採取も悪くないし、釣りも悪くない。
この子達の興味が赴くまま――それが一番。それが楽しい。
と、依頼の受付カウンターの奥から大声が聞こえて来た。
「ばっかも~~~ん! お前何も知らんのかっっ! 何たるご無礼をっ――!」
「わーーー!? ご、ごめんなさい! ごめんなさいいいぃぃっ!?」
先ほどのエルフの受付嬢ネルフィがこっぴどく叱られていた。
ネルフィをやや恰幅のいい中年の男性で、彼はネルフィを伴い一目散に俺の所に飛んで来た。
そして、体が直角になるくらいに頭を下げるのだった。
「無知な職員が大変失礼をいたしまして申し訳ございません……! 私は本支部のギルドマスターのタラップと申します――!」
――どうやら、やはりまずかったらしい。
ネルフィの反応で安心していたのが、エイス・エイゼルの名がここでも通じてしまうのか……
中々面倒な話だ。とはいえわざわざ偽名を使うのも、あまり気持ちのいいものではない。
今回はもうバレてしまっているので、またの機会に考えるとしよう。
「どうも。別に失礼などとは思っていません。そんなに謝らなくても結構です」
「あ、ありがとうございます……! ささ、どうぞどうぞお話は別室でさせて下さい。お子様方もどうぞご一緒に」
「……長くなりますか?」
子供達は早く冒険者カードを貰って依頼に出かけたいようなのだが……
「ああいえ手短に! お子様方にはお菓子も御座いますので……!」
「えっ!? お菓子? 食べる食べるーっ!」
「すぐお菓子に釣られるんだから」
「ユーリエがいらないなら私が食べてあげるね?」
「い、いらないとは言ってないし!」
どうやら二人ともお菓子が欲しいようだ。
「分かりました、それではご一緒します」
「おお! ではこちらへどうぞ――」
「ええ」
俺達はタラップさんに付いて行く事にした。
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