第17話 冒険者ギルド
二人の食べたい物を買ってあげてお腹を満たすと、俺達は冒険者ギルドに向かった。
先程の男に教えて貰った通り、大通りを突き当たって右に曲がると大きな看板が見え、すぐにその位置は分かった。
「わぁ~冒険者ギルドだぁ! とうとう来たね! 冒険者になれるよ!」
「そうね。千里の道も一歩一歩よ! 頑張ろう、リーリエ!」
「ユーリエ。千里の道も一歩から、だぞ」
「にゃっ!?」
と赤面するユーリエ。
ユーリエはよく本を読んでおり、難しい言葉を好んで使いたがるがまだ八歳だ。
間違って覚えている事も多いので、俺が教えてあげないといけない。
そして教えてあげるとこのように可愛らしい反応が返って来るので、俺としては彼女の言葉の隅々までを検証して間違いを正してあげたくなってしまう。
ユーリエのこんな顔が見られるのも、こんな時くらいなのだから。
「あはははは。やーい間違えたー」
「う、うるさいわねっ! とにかくしっかりやろうねって言いたかったの!」
「うん分かってるよ。ミルナーシャ様みたいな、凄い治癒術師になろうね!」
「うん! これはその始まりの一歩なのよ!」
燃えている二人の顔もまた、天使だ。
俺は二人の様子を微笑ましく思いながら、冒険者ギルドの扉を開いた。
「さあ、入ろうか――」
俺は扉を開けた。
そして二人を促し、中へと誘う。
そこは冒険者ギルドと酒場が一体になった場所になっており、右手側に冒険者ギルドとしての依頼斡旋用のカウンターが複数並んでいた。
そして左手には酒場としての座席が多数。今は昼時なので、大分賑わっている。
野太い男達の威勢のいい声があちこちから飛び交い、活気を生み出している。
俺達は依頼斡旋用のカウンターへの待ち行列の後ろに並ぶ。
それ程な額は待たず、俺達の順番がやって来る。
「はい、次の方どうぞー」
空いたカウンターから、声がかかる。
声の主はまだかなり若い少女だった。
――それも、耳がツンと長く尖っている。
エルフだ。こんな所で働いているのは珍しい。
彼等は魔素が豊富な美しい森の中に集落を作り、そこに暮らすのを好むが。
長命な種族なので、美しい少女の見た目だが、実年齢は俺より上だろう。
「わー。エルフのお姉さんだー。きれーい」
「本当ね――」
娘達は屈託無くエルフの受付嬢に喜んでいた。
それが聞こえた向こうも、笑顔を返して来る。
「ふふふっ。ありがとう。ネルフィよ。宜しくね」
「リーリエです! こんにちは!」
「ユーリエです! よろしく!」
「今日はお父さんかお兄さんの付き添いかな? 退屈かも知れないけど、少し我慢していてね」
「ううん、違うの~!」
リーリエが首を振る。
「あたしたちが冒険者になるの!」
と、ユーリエが宣言する。
「えぇっ!? あなた達が!? いいんですか? こんなに小さいのに」
と、俺に訊ねて来る。
「年齢制限は特にないはずだろう? 危険な事はさせないから、登録を頼む」
「は、はあ――ちょっと待って下さい……ええと年齢についての制限はと――」
と、カウンターに置いてある冊子をパラパラと捲る。
この仕事の経験が短いのか、規則を確認しつつ、という感じのようだ。
「ああ、確かに特にないですね。では新規登録の手続きをしますね。この子達お二人で構いませんか?」
「ああ、それからこれを――」
と、俺は冒険者用のカードを取り出す。
まだ俺が辺境のニニスで、エイミー姉さんと暮らしていた頃に持っていたものだ。
錬金術師が造ったもので、ここに氏名や等級、達成した依頼の履歴などが魔術的に記録されている。
これを持って行けば、どの土地の冒険者ギルドでも自分の等級に応じた依頼を斡旋して貰えるのだ。
十年以上昔のものだが、冒険者としての等級はそこそこに上がっていたし、失効していなければ使おうかと思って持ってきたのである。
問題はこの冒険者カードに刻まれた、エイス・エイゼルの名だが――
確かに、これを見せたら大騒ぎになりはしないだろうかという懸念もある。
だが先日のあれは、アクスベル王国内でのこと。
ここは国境を越えた先のスウェンジー王国だ、アクスベルとは事情が違うはず。
それに、そんな些細な事を気にして、エイミー姉さんとの思い出が詰まったこの冒険者カードを使わずに置いておくのは、姉さんに悪い気もした。
思い出を否定するような気がして、俺にはできなかったのだ。
だから内心、騒ぎになってくれるなよと願いつつこのカードを差し出したのだ。
「大分昔のものだが、まだ使えるだろうか?」
「どれどれ――お預かりしますね……」
と、ネルフィはカードを見て、一瞬訝しんだような顔を見せる。
それから、難しい顔で俺に返事をしてきた。
「うーん済みませんが最後の依頼の履歴が十年以上昔ですから、失効しちゃってます。新しく作り直すことは可能ですが、等級は一番下からになってしまいます」
特にエイス・エイゼルの名には触れられなかった。
良かった、取り越し苦労のようだ。
自分の名前が知られ過ぎているかも知らないなど、自意識過剰だったかも知れない。
全く恥ずかしい話である。だが、助かった。変に騒がれても困る。
「なら、作り直して貰えるだろうか? それからこの子達の登録もお願いする」
「分かりました! ええと、リーリエちゃんにユーリエちゃんよね? 姓は同じエイゼルさんで構いませんか?」
「ああ、リーリエ・エイゼルとユーリエ・エイゼルで頼む」
「はい了解しました。ではお作りしますので、あちらでお座りになってお待ち下さい」
エルフの受付嬢ネルフィは、そう言って笑顔になった。
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