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第15話 天使の心

 村長は村人達を窘めるように、呼び掛ける。


「この人達には、何の落ち度もないじゃろう? 火を消して下さった恩人なのは明らかなのに――ドラゴンの子を奪おうなどとは人の道に反するぞい。それに賛同する者も同じじゃぞ! 皆が恨むべきなのはこの方ではなく、このワシじゃ――! ワシさえこのドラゴンの事を知っておれば、冒険者ギルドに依頼(クエスト)など出さずに済んだ。そうすればこのドラゴンの子が襲われる事も無く、暫くしたら去って行ったんじゃろう――だから怒るならワシに怒れ! 罵るならワシを罵れ! 気が済むまでな!」


 その村長の言葉で、村人達は水を打ったように静まり返った。

 俺はこの老人には、感謝をしないといけない。

 村を焼かれた側でありながら、自分が悪いと失態を認めて引き取り、道理を説いてくれた。俺が同じことを村人に説いていても、あまり効果は無かっただろう。

 この人がこう言うから、その言葉が村人にも響くのだ。


 家を焼かれた者達はがっくりと肩を落とし、座り込んで呆然とする者もいたし、その場で泣き出す者もいた。

 もう事実を受け入れるしかないと悟った瞬間の、人それぞれの姿だ。

 元々は、何の落ち度も無い人々だ。

 気の毒と言えば気の毒だが――自分達のためであれば、何の落ち度もない子供からペットを奪って殺す事を黙認するような性根である。

 今回は被害者だが、時と場合によれば簡単に人を虐げる側に回るだろう。

 俺としてはあの性根を見せられては、余り同情ができない話ではある。

 村長は別だと言ってもいいとは思うが――

 しかし――


「エイスくん――」

「お話があるの」


 リーリエとユーリエは、真剣な顔をして俺の袖を引くのである。


「どうした? 二人とも」

「あのね、お耳貸して――」

「ああ」


 俺は屈んで、二人と目線の高さを合わせる。

 二人は俺に耳打ちしてこう言う――


「お小遣いをね、前借りさせて欲しいの」

「お願い、エイス君……!」

「前借りして、それをこの人達にあげるのか?」

「「うん!」」


 二人とも真剣な顔で頷いて来る。

 俺は思わず、その真面目な顔に目を細めてしまった。

 子供のお小遣いが、家の建て直しにどれ程の役に立つのだろう。

 だがそれを笑ってはいけない。子供なのだから、お金の感覚が無いのは当たり前だ。


 見るべきはその気持ち――俺は村人の性根が透けて見えてしまい、同情の余地を感じず金を出してやるつもりにはならなかった。

 だが子供はもっと単純で素直なのだ。

 困っている人がいたら助けるのだ。

 それがどんな人間かは、彼女達は気にしていない。


 それが、打算なく本当に人を慈しむ態度なのだろう。

 俺に彼女達と同じ心があれば、とっくに金を出してやっていたはずだ。

 無い袖は振れないが、振れる袖が俺にはあるのだから。


 金額の多寡は問題ではない。

 彼女達の聡明さ、優しさが俺には誇らしい。

 やはり我が家の天使達は、天使だ。

 俺に出来るのは、彼女達がその素朴な善意を貫き通せるよう、物理的にも精神的にも、勿論金銭的にも、支えてあげる事だけだ。

 俺の力は、そのために神に授かったのだと言い切れる。

 大丈夫。金ならまた稼げばいい。

 俺の腕ならば、一生遊べるだけの金を稼ぐのも容易いはずだ。

 この娘達のためなら、俺は何だってできる。


「そうか。では、来月のお小遣いはナシだぞ? それでいいな?」

「「はいっ!」」


 二人が頷くので、俺は幌馬車に戻って、鍵付きの箱を開ける。

 中には屋敷から持ち出して来た金貨や宝石類がぎっしり入っていた。

 その中から、金貨の詰まった袋を一つ、取り上げる。

 そして馬車を出て、村長に袋を手渡した。


「これを村の建て直しの資金にしてください」

「そ、そんな……ぅああああああああーーーっ! 何ですじゃこれはああああっ!?」


 袋にぎっしり詰まった金貨を見て、村長は大声を上げて腰を抜かしていた。


「これでは足りませんか?」

「ば、馬鹿なことをおっしゃいますな……! こんなちっぽけな村など、十回立て直してもお釣りが来ますわい――!」

「お……おおおおお――金貨だ! こんな量見た事ねえぞ……!」

「す、すごい――これなら余裕で村を立て直せるぞ」

「な、なんていい人なんだ……!」


 村人たちも村長の周りに集まり、声を上げていた。

 先程までとは打って変わって、生気を取り戻した表情になっている。


「あ、ありがとうございますですじゃあ――! 本当に、本当に――!」

「いいえ大した事では……礼なら我が家の娘達に。正直、俺一人ならばこうしてはいませんでしたので」

「そうですか……お嬢ちゃん達。本当にありがとうのぉ――あんなに怖い思いをさせたのに、ワシらを助けようとしてくれたんじゃの……済まなかったのぅ」


 村長に手を握られると、二人は笑顔で応じていた。


「いいえ!」

「どういたしまして!」


 その笑顔の元に、他の村人たちも集まって来た。


「済まない、お嬢ちゃん。もう遅いが謝らせてくれ」

「怖い思いをさせて悪かった。俺達はどうかしてたよ」

「自分達が恥ずかしいよ……」

「本当にありがとう。君達のおかげで、俺達の家は直りそうだよ」


 我が家の天使達の清らかな心に触れて、少しは悔い改めてくれればいいが。

 そして――まだやっておくことが一つ。

 俺は冒険者のダッカとコタールを二人纏めて縛り上げた。


翠玉竜(エメラルドドラゴン)を襲ったまではまだ手違いと言い張れるが、強盗まがいに人を襲って奪おうとは言い逃れできん。暫く牢屋で頭を冷やせ。これに懲りたら、もうあくどい真似はよすんだな」

「ヘイヘイ。分かりましたよっと」

「チッ……!」


 二人にまるで反省の色は見えないが、悪質な冒険者を放っておくわけにもいくまい。

 仮にも元白竜牙騎士団長としての立場もあるし、子供達への示しもある。

 俺は村長に、捕縛した二人を役人に突き出すように頼んでおいた。


「では俺達はこれで。二人とも、行こう」

「「はーい」」


 幌馬車に戻ろうとする俺達を、村長が呼び止めた。


「お待ち下され――! 皆様の事を、永遠に残るよう村に石碑を設けたいと思いますのじゃ――どうか名を教えて下さらぬか!?」

「エイス・エイゼルですが」


 俺は何気なく応じてしまったが――それが失敗だった。


「「「「えええええええええぇぇぇぇっ!?」」」」


 村人達から、これまでで最大の絶叫があがったのである。


「エイス・エイゼルって、あの白竜牙騎士団長のエイス様か!?」

「な、なんでこんな所に――!? まさか抜き打ちのご視察か何かか――!?」

「い、いや……本物と限ったわけじゃねえだろう、同姓同名の別人かも――」

「いや! ま、間違いねえぞ――俺どこかで見た事あると思ってたんだ――! 王都の式典を見に行った時に、近くで見た事あるんだ……!」

「お、俺もモンスター退治に来なさった時に見た事ある! 強すぎて周りの奴が戦いの準備をする間に、モンスターが全滅してた……!」

「火事をあっさり消したり、剣もまるで通じなかったり――エイス様ならあの強さも頷ける……! この国最強の、筆頭聖騎士様の力だ――!」

「ほ、本物だ……! 本物のエイス様だぞ――!」

「あわわ……あわわわわ……!」


 最後は村長が泡を吹いて腰を抜かしてしまっていた。


「「「「済みませんでしたあぁぁっーーー! お許しをおおぉぉぉーーーーっ」」」」


 全員に土下座で頭を下げられてしまった。

 反省の色の見えなかった冒険者のダッカやコタールまで含め――だ。


「うわぁ――エイスくんって偉いんだねぇ~」

「そりゃあ、そうよ。白竜牙騎士団長って、国王様とお姫様の次に偉いんだから」


 訳知り顔のユーリエが、えへんと胸を張っていた。


「……」


 俺としては、白竜牙騎士団長で筆頭聖騎士の立場はもう棄てたものだ。

 それでこんなに畏まられては、困ってしまうのだが――

 騎士団長をやっている時は、周りが顔見知りの中で仕事をしていただけだった。

 そのため、このように市井の人々の反応を見た事が無かったのだが――

 エイス・エイゼルという名は、どうも想像以上に影響があるようだ。

 何気なく日々の務めを果たしていただけだったのだが……


「それはもう昔の話だ――今はただの家族旅行中なんだ。だから気にしないでくれ。それでは失礼する」


 俺はもう振り返らず、娘二人とクルルを幌馬車に乗せ出発した。

 先を目指そう――隣国スウェンジーとの国境は、もうすぐだ。

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