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第119話 マポレフスキンの恭順

 俺と子供達は、ヴォルダという四神将を撃退した後、アイリンやヨシュア達を探して下へ下へと降りて来た。

 道中は不気味な程に静まり返り、何にも襲われずこの最下層まで辿り着いたのだ。

 ここに足を踏み入れた瞬間、ヨシュア達が魔術による攻撃を受けているのが目に入ったため、咄嗟に螺旋階段の最上部から飛び降りて割って入ったが――

 よく見ると、ヨシュアとアルディラさんを攻撃しているのは、アイリンだった。

 しかも、その様子は明らかにおかしい。

 顔や手足に光る文様が浮き上がり、背にはキラキラとした輝きで形成された翼のようなものが見える。

 これではまるで、四神将と名乗っていた者達と同じだ。


「……これは一体――?」


 しかしアイリンは、こちらを見ても何の反応も示さない。

 ただ無表情に突っ立っている。

 まるで生気を失っており、人形のような無機質さを覚える。


「アイリンお姉ちゃん!」

「お、おかしいわ……! あの姿――!」

「おねーちゃん! どうしたの!?」


 先に飛び降りた俺に次いで、子供達はリーリエの魔術で飛びながら降りて来た。

 様子のおかしなアイリンを見て心配して呼びかけるが、それに対してもアイリンは無反応だ。


「おっ――エイスか! 悪いな助かったぜ!」


 と、ヨシュアが声をかけてくる。


「ああ。しかしこれは、何があったんだ――?」

「……そこの大将軍サマとやらに言わせると、アイリンは四神将のひとりなんだとよ!」

「何だと……? 何故そんな事になる。アイリンは錬金術師として頑張っていただろう」


 四神将とやらは、普通の人間がその資質を開花させて覚醒するものなのか?

 例えばその資質が世代を超えて遺伝しているだとか――?

 だが他の者の様子からは、そのような感じは受けなかったが……

 長い間この『浮遊城ミリシア』と共に休眠していたような口ぶりだったはずだ。


「んなもん俺に言われても、分からんよ!」

「エイス君! アイリンさん、リードックの街に来る前の事は何も覚えてないって言ってたわ! だから――」


 と、ユーリエがそう教えてくれる。

 アイリンは子供達だけには、そういう事を話していたのだろう。

 子供達が学校に通わせてもらうようになって、仲が良さそうにしていたが、その見た目通りの関係性だったのだろう。

 ともあれ、アイリンと家族として暮らしていたアルディラさんは、何かを知っているはずだ。それは間違いないだろう。

 俺の視線を受けて、アルディラさんが口を開く。


「……私達錬金術師協会は、『浮遊城ミリシア』がやってくるたびに内部の調査を繰り返していましての――例年は空を飛ぶ古びた城でしかありませんでしたから、安全に調査が出来ていました……で、前回の調査の事です。私はこれまで見た事のない区画を発見し、そこであの子を見つけました……そして、何も覚えていない様子のあの子を私の孫娘として連れ帰りました。この事は私や副協会長など、ごく一部の者しか知りません。知ればあの子に対して良からぬ事を企む輩もおるかも知れませんからの……」


 古代の遺跡に眠っていた、人を超えたような力を秘める少女だ。

 確かに見る者が見れば絶好の研究対象となりえる。

 ごく一部の人間だけの秘密にしておく、という判断は正しいだろう。

 思えば、家族であるアルディラさんだけでなく、ルオさんまでアイリンにとても期待して成長を見守るような態度だったのは、アイリンの経緯を知っていたからだろう。


「なるほど、そんな事が……」


 アイリンには強い魔力と素質がありそうに思えたのに、何をしても結果が安定せず錬金術師として上手く行っていなかったのは、アイリンが元々常人ではないからなのだろう。

 普通の人間用に組み上げられた理論や術式が、アイリンの波長に合わなかったというわけだ。


「皆さま方も知っての通り、素直で心の優しい子で――研究ばかりで身寄りのなかった私には、本当に心の安らぐ日々でした。もうあの子なしの暮らしは考えられない位に……」


 その気持ちは、俺にはよく分かった。

 俺とてリーリエやユーリエと出会ってからは、もうこの子達なしの人生は考えられないからだ。その存在が俺の人生に、この子達の成長を願い見守るという生き甲斐と喜びを与えてくれるのだ。

 それは今までに感じた事のなかったもの。幸せというものだ。

 人によって、感じ方は違うだろう。

 だが俺にとってはそうで、アルディラさんにとってのアイリンもそうなのだ。


「……理解できます。では、アイリンを元に戻して連れ帰りましょう」

「おお――あ、あありがとうございますエイスさん! お、お願いしますですじゃ!」


 アルディラさんが深く深く、俺に頭を下げた。


「そうだよね! アイリンお姉ちゃんがいなくなったら、お婆ちゃん可哀そうだもん!」

「うんうん! 頑張ってエイス君!」

「やっちゃえ! おじちゃん! 私が許すっ!」


 俺の意見に、子供達も賛成のようだ。


「……というわけだ。済まんが潰させてもらうぞ」


 俺はアイリンの隣に立つ四神将の大男にそう宣言する。


「フッ――」


 俺が視線を送ると、大男はにやりと笑みを見せた。


「それは御免被るぅぅぅーーーーッ!」


 無駄に大きく良く響く声だ。子供達が驚いて顔をしかめている。


「……お前の部下らしき奴等も、似たような――」

「いいぃぃぃぃや! それとは話がちがあぁぁぁぁァうっ!」


 似たような事を言っていた、と言おうとしたのだが大声で遮られた。


「……何が言いたい? 言い残した事があれば早く言え」

「では申し上げるッ! このマポレフスキン、あなたと争う気はなぁぁぁぁいッ!」


 言い辛くそして変な響きの名前だ。

 ともあれそのマポレフスキンは、勢いよく俺の前に跪くのだった。


「む……?」


 想定外の内容だったので、俺も少々虚を突かれた。

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