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第118話 アイリンの秘密

 慎重に様子を窺いながらそちらに行くと、大きな広場を見下ろすような場所に出た。

 大きな四角い空間を見下ろす、バルコニーのような場所だ。

 そして眼下の広間には、城外で見た鎧兵士達が大量にひしめき合っていた。

 それぞれが透明な囲いに入れられ、その中には魔術紋の光に包まれた細長い蜘蛛の足のようなものが蠢いており、それが手のようにガチャガチャと動いては、鎧兵士達の体を組み立てているのだった。

 そして完成したらしい鎧兵士は、すっと足元に穴が開きその奥に吸い込まれて消えていくのだった。

 そしてまた、新しい鎧兵士の部品が集められては組み上げられて行く。


「な、何だぁ……? ここは――」

「きっとあの鎧兵士生産する工房ですね……」

「こいつは凄いねえ――誰もいないのに勝手に組み立てられていくよ。今の私達には及びもつかないような高度な設備だよ……前に『浮遊城ミリシア』を調査した時には、こんなものはまるで見当たらなかったよ。これが古代文明の真の姿なんだね――出来るなら隅から隅までゆっくり調べたい所だのぉ」

「ふむ――イゴールのオッサンが見たら興奮してぶっ倒れそうですね」

「そうですなあ。しかしあやつでなくとも、研究者たるものこれには心を動かされますでのお――」

「こういう重要そうな施設があるって事は、恐らく中枢部に近づいて来てるって事ですかね?」

「かも知れませんのお」


 そうなると、やはりお咎めなしでここまで素通りできてしまっているのがますます頷けないが。

 完成した鎧兵士はそこにあるのに、全くヨシュア達に反応しないのである。


「ま、一先ずここは置いておいて、先に進みますかね――」


 中枢部を目指し、エイス達との合流を果たさねばならない。

 三人は来た道を引き返し、更なる奥へと踏み込んでいく。

 そして今度は、巨大な円筒形の空間に出た。

 その壁に沿うように設置された螺旋階段の一番上部に三人は行き当ったのだ。


「……こりゃあ凄い、俺にでも分かるぜ」

「ここが恐らく中枢部なのでしょうのお――あれがこの『浮遊城ミリシア』を動かしておるんですな……」

「す、凄い……」


 皆、その光景には圧倒されていた。

 巨大な円筒形の空間である中枢部には、中心に巨大な円柱状の構造物が鎮座しており、その表面は半透明。そしてその内部には、超巨大な魔水晶と思われる物体がゆっくりと回転をしながらふわふわと浮いている。

 巨大な魔水晶は全面にびっしりと細かく光る魔術紋が浮き上がっていた。

 古代の魔法文明の技術の粋――それが今目の前にある。


「お、下りてみるか――」

「ええ。ですのお」

「行って見ましょう……」


 三人は息を呑みながら、螺旋階段を下って行く。

 魔水晶を収めた中枢部に近づくにつれ、アイリンは奇妙な感覚を覚えていた。

 何故だかとても、懐かしい気がするのだ――

 こんな所初めて訪れるのに、何故かその感覚はどんどん強くなる。

 と、同時に懐かしさと半面の恐怖感も芽生え始める。

 何か、自分が自分で無くなっていくような――

 意識が朧になっていくような――


 螺旋状の階段を空間の底部まで下りると、中枢部の巨大な魔晶石はもう目と鼻の先だ。

 そこで、アイリンは先に進むことが出来なくなってしまった。

 これ以上進んではいけない、と強く感じたのだ。

 先程から感じていた恐怖感が、限界を超えて膨れ上がっていた。

 足を止め、その場にぺたんと座り込んでしまう。


「? どうした? アイリン」

「震えてるよ、アイリン。何かあったのかい?」


 ヨシュアとアルディラが、心配そうにアイリンに声を掛けた。


「お、お婆様――何だかとても……怖いんです。これ以上、あれに近づいてはいけない気がして……」


 アイリンは小さな子供が怖がってそうするように、アルディラに抱き着いていた。


「分かった、分ったよアイリン。じゃあここを離れようかね」

「アイリンを連れて、上に行ってて下さい。ここは俺が残って調べますよ」


 ヨシュアがそう申し出る。


「済みませんのお。お願いします」


 アルディラはアイリンを支えて、また階段を登ろうと足を踏み出すが――


「それはいかん……! いかんなあぁぁァ――!」


 太い男の声が、中枢部の空間一杯に響いた。


「!? 誰だ!? 何処だ!?」


 ヨシュアは何度も周囲を見渡すが、声の主の姿は確認できなかった。


「ここだあぁぁ! よおぉぉぉく見るがいい――!」


 巨大な魔晶石を収納した円筒と、ヨシュア達との間の床底から、ぬうっと男の顔が生えてた。

 年齢は壮年くらいで、厳めしい印象。如何にも武人といった風体だ。

 先程までの四神将と名乗った者達と動揺に、顔には光る文様が浮き上がっている。

 その姿がせり上がって全身が露になると、背が常人を遥かに上回って高く、体格も立派である。

 背に光る翼のようなものが見えるのも、先程までの敵達と同じだった。


「四神将が四! 大将軍マポレフスキンなーりぃぃぃっ! 古の盟約により黒き巨人を抹殺するべく目覚めし男よ!」


 腕組みをして堂々と名乗りを上げる様は、本人は勇猛果敢さを見せたいのかも知れないが、ヨシュアから見ると滑稽にしか見えなかった。

 どうもそれまでの二人とは、雰囲気が違う感じがする。しかも変な名前だ。

 だが本人曰く、四神将の最後の一人、大将軍だと言う。

 三番目はどうしたのだろうか――? 既にエイスが倒しているのだろうか。


「の割にこんな簡単に本拠地まで乗り込まれていいのかね? ここまでとんでもないザル警備だったぜ」

「ハッハァ! 笑止! 愚かなる人間は、そんな事にも気づかんのかっ!」

「あん?」

「乗り込まれたのではない、通しただけだよぉ! 折角戻って来た者をなぁ! 愚か者の部下共は気づかなんだようだがあぁぁッ――」

「何を言ってる!?」


 ヨシュアには、このマポレフスキンの言う事は理解不能だった。


「……!」


 だがアルディラは、厳しく表情を引き締め、息を呑んでいた。


「四神将が三が抜けている事に気づかんかあぁん? それがどこにいるのか――と!?」

「それは確かに思ったが……」

「ではあぁぁぁっ! 教えてやろうではないかああぁァァ!」


 パチンとマポレフスキンが指を弾く。

 すると空中に波紋を残すように光が広がり――アイリンの身体へと吸い込まれて行った。


「あああああぁぁぁぁぁっ――!?」


 光に包まれたアイリンは悲鳴を上げる。

 間もなく、その体に変化が現れる。

 顔や手足の――肌の表面に光る文様が浮き上がり、背に光る翼のようなものが現れる。

 それはマポレフスキンや他の四神将と名乗る存在と同じ特徴だった。


「なっ……!? 何だこりゃあ!? まさか――!」

「ああ……! あ、アイリン! アイリーーーーンっ!」


 驚くヨシュア達に構わず、マポレフスキンは満足気に頷く。


「ようし――! よおおぉぉぉく戻ったああァァァッ! 四神将が三番目の将よ!」

「…………」


 アイリンは無表情な人形のようになり――声を発さずマポレフスキンに深く一礼した。

 その体がふわりと床から浮き、そのまま滑るようにマポレフスキンの隣に並んだ。


「あ、アイリン……!」


 アルディラの呼びかけにも一切そちらを見ず、返事を返すことも無い。


「これが答えよオォォ! さぁ――この天空城塞は貴様なしには真の力を発揮せぇぇぇぬ! 火器管制を司る貴様なしにはなあぁぁ! さぁ可及的速やかに黒き巨人へと最大威力の裁きの雷を――! いやその前に! 一つ命令だ……! 今こそ命じようッ! そこな侵入者を排除するのだあアァァァァァッ!」


 命を受けたアイリンは、無表情にヨシュアとアルディラに掌を翳す。

 そこから見る見る光が膨れ上がり、巨大な光の矢が撃ち出された。


「うおおぉぉっ!?」


 ヨシュアはアルディラを抱えて何とか避けようとするが、迫る光の矢は高速でとても間に合いそうになかった。

 まずい! と目を閉じかけたが――


 バシュウゥゥンッ!


 ヨシュア達の目と鼻の先で、不意に光が弾け飛ぶ。


「……これは一体――?」


 寸前で割って入り割って入ってヨシュア達を守ったエイスも、さすがに戸惑いの色が隠せないようだった。

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