第117話 探索
一方、階下に落とされたアイリン達は――
「お婆様っ!」
アイリンは落下しながらも必死に身を翻し、とにもかくにもアルディラを抱きかかえた。
老齢のアルディラがこの高さを落ちて、床に叩きつけられでもしたらただでは済まないだろう。
自分が下敷きになってもアルディラを守るのだ、と自然と体が動いていた。
スタアァァンッ!
アイリンが着地をすると、乾いた音が周囲に鳴り響く。
幸いな事に、アルディラを抱えながらもなお、アイリンは綺麗に地面に降りる事が出来ていた。
錬金術師としてはあまり必要とされない運動神経の良さに、今は感謝するべきだろう。
「どわっ!?」
一緒に落ちたヨシュアは、一応着地を決めたが勢いを殺せずたたらを踏み、そして転倒してしまう。
「ヨシュアさん! 大丈夫ですか!?」
「おーいててて……ああ大丈夫大丈夫。しかしお婆さんを抱えた女の子が軽く着地してるのに、俺だけずっこけてるとはざまぁねえなぁ。恥ずかしいから見なかったことにしてくれよな」
と、軽口が出ているくらいだから大丈夫なのだろう。アイリンはほっとした。
「お婆様も大丈夫ですか?」
アルディラを立たせながら尋ねる。
「ああ大丈夫だよ――ありがとうねえ、アイリン」
「よかった。こんな時だけでも役に立てて」
「どうやら穴は閉じちまったみたいだな……」
と、天井を見上げたヨシュアが言う。
「そうみたいですね――」
「上はエイスがいるから、リコたちはきっと大丈夫だろ。むしろヤバいのは俺達だろうな――外みたいにあんなにゴーレム共に囲まれちまったら、まずいよな」
「そ、そうですね……早く合流しないといけませんね」
「ああ、君が強いってのは助かるよ。何とか協力して行こうぜ」
「はい!」
アイリンは緊張気味に頷いた。
ヨシュアはそれを見つつ、内心で呟く。
(……いくらこの子が強そうだって言っても、な――もしもの時は、いつまでもヘラヘラしてられねぇかもな。幸いリコはエイスの方にいるし、アレをやっても問題あるまい)
「……ヨシュアさん? どうかしましたか?」
「ん? ああいや、何でもねえ急ごうぜ!」
と言ったものの――
アイリン達が落ちた下の階は、縦長の円筒形の構造になっており――
「……でも。出口、ありませんね――」
「うわ、ホントだな。こいつは捕らえた賊を餓死させるまで入れとく拷問部屋か何かか?」
「そ、そんな――! きっとどこかに仕掛けが……!」
アイリンは何か無いか探そうと、壁際に移動する。
黒一色で殺風景な壁に触れた瞬間――
その部分から壁の表面に、複雑な魔術紋のようなものが光って浮き上がった。
「な……何!?」
アイリンが驚いている間に魔術紋が広がって行き、そしてその部分の壁が消滅した。
部屋の外への出口が現れたのだ。
「え……ええと――?」
アイリンは首を捻る。不可思議だった。
こんなに簡単に出口が見つかっていいのだろうか――?
もしかして、出口が無いように見えていたのは幻で、はじめから出口はあったのだろうか?
だとしたら、何故そんな仕組みなっているのだろう。そんな事をして何の意味が?
「何でこんな……?」
出られることに不満は無いが、大いに疑問はある。
まるで説明不能な、良く分からないとしか言いようのない事態である。
「まあ……運が良かったと思うしかないんじゃないかの」
「え、ええお婆様……でも――」
「ま、出られるんなら何でもいい。さぁ行こう、急がないとな」
アイリン達は部屋を出て、エイス達と合流すべく移動を始めた。
部屋を出た先は細い道が入り組んだ迷路のようになっており、進むのは中々に苦労した。
同じような風景、構造が続くので、自分がどう進んだかを把握するのが難しい。
しかし幸いなのは、かなり歩いても何にも襲われなかったことだ。
城の外で見た鎧兵士の一体も出てこないのだ。
城外より城内の方が警戒が緩いとはどういう事かと思うが、今はエイス達とは別行動だ。
あちらが派手に暴れているため、こちらに構う余裕がない――という事なのだろう。
ならばどこかから、エイスが暴れる大きな音がしてもおかしくは無い。
それを頼りにすれば合流できるはずだ。
アイリン達は耳を澄ましながら、入り組んだ通路を進んで行き――
やがて出会ったのは、エイスの居場所を知らせる戦闘音ではなく、下に下る階段だった。
「……下に続いてしまっていますね」
「微妙だなあ……俺達の方が先に落ちてるしな、普通に考えたらあいつらまだ上の方にいるよな――?」
「だけどエイスさんですから、普通じゃありませんし……」
「そいつは違いねえな。だから悩むよな、ここで降りるか、上に行く階段を探し続けるか……」
「上に行った方がいいかも知れませんなあ、向こうが上で待っている可能性もありますからのお」
「うーん、それもありますか――けど、上に行って行き違いになる可能性も……だったら下に行くのも手だよな。中心部分を目指せば最終的には合流できるだろうしな」
「そうですね。その方がいいかも――」
「二人がそう言うなら、私は従う他は無いね。多数決だ」
話がまとまり、アイリン達は見つけた階段を下って行った。
下に降りていけば『浮遊城ミリシア』の中央部分にたどり着けるだろう。
階段を下りた先の階層は、先程までとは違いさほど複雑には作られておらず、道幅も広く見通しがいい。
侵入者を囲んで殲滅するには最適なホールのような場所も通ったが、何も迎撃には出てこなかった。やはり全てがエイスの方に向かい、こちらが完全に無視される格好になっているのだろうか。
誰にも行く手を阻まれないまま、更に下へと続く階段を発見する。
「……こうなりゃ先行くよな?」
「そうですね――ここで止まる意味も、あまり――」
「よしじゃあ、ここも先に行こうか」
「はい」
「……しかし、先へ進めば進むほど警備が緩いってのはどういう事だろうな。このままじゃ、内心ビビってたのが拍子抜けだ」
予想外に何にも襲われないのが続くと、多少緊張も緩んでくる。
ヨシュアは肩をすくめて軽口を叩いて見せた。
「やっぱりエイスさんが……? だけど何も痕跡が無いのも変ですし――」
「君の腕も見てみたかったんだがな。強くて格好いいってリコが言ってたからな」
「いえそんな、わたしなんて大したことは――」
そんな話をしていたら程無く襲われそうなものだが、それでも何もないままアイリン達は先に進んだ。
やがて、ようやくと言っていいが、何か物音がするのが聞こえた。
直進していた通路の、右手奥からだ。
「何か音がしますね――」
「ああ、少し様子を見てみよう」
音のする方を避けて直進を続けることもできるが、あえてそちらに進んでみる事に。
その先に何かがあるのは確実だからだ。
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