第114話 騒音は一回でいい
「やれやれ。これでは観光名所にはならんな……」
と俺がため息を吐くすぐ後ろで、皆は周囲をきょろきょろと見渡していた。
「……あ、あれっ? ここどこ!? 街の中じゃないよ?」
「えっ!? あ……うわぁ高い! ここ『浮遊城ミリシア』の上!?」
「うぉぉ~! ほんとだめっちゃ高い! いつの間に移動したんだろ!?」
「お、おいエイス……お前が?」
「ああ。魔術で運ばせて貰った」
「驚きですわい、瞬きすらした覚えは無いんですがのぅ……」
「少々急ぎました。時間が無いですから」
と、俺はアルディラさんに応じる。
「な、何が何だか……本当に凄いですね――」
アイリンも呆気に取られていたようだが、不意にその体がぐらりと揺れた。
「あ……っ! ううぅっ……」
立ち眩みだろうか? ともあれ俺は、アイリンが倒れてしまわないように体を支えた。
「大丈夫か?」
「は――はいっ! ごめんなさい、何だか立ち眩みがして……も、もう大丈夫です」
「そうか――無理はするなよ」
「はい、ありがとうございますっ!」
アイリンは少々顔を赤らめ声を上ずらせ、俺の腕の支えから離れて自分で立った。
もう大丈夫のようだが――?
「アイリンや、無理せず戻ってもいいんじゃぞ」
「もし体調が悪いなら、下に送り届けるが?」
別に大した時間を喰うわけでもない。その位はいいだろう。
「いいえ大丈夫です。行きましょう!」
それを行動でも主張するように、アイリンは先陣を切って歩き始める。
俺はそのすぐ後ろについた。合わせて全員が動き出す。
上部にある城のような構造物の内部へ繋がっていそうな城門は、真正面のやや遠く。
迷う事は無い。真っすぐ行けばいいだろう。
少し歩いて――特に何も、周囲に変化は無かった。
下の方からは、街を覆う結界が魔術光の砲撃を防ぐ音が遠く響いて来ている。
どうやら『浮遊城ミリシア』は街への攻撃を継続しているようだ。
「……静かだな。こっちはお咎め無しかよ」
「あの砲をここに撃てば、自分自身も損傷するだろうからな」
「だったら打つ手なしってか? そんなザルみたいな警備なわけ――」
「……ないだろうな」
ヴィイィィィン!
俺が言うのと同時、高く振動するような音が響く。
と、同時にいつくつもの影が、辺りの地面からせり上がるようにして現れる。
その数は十ではきかず、二十か三十か――
その姿には見覚えがある。この間アルディラさんの屋敷で見た。
イゴールさんがけしかけて来た研究中のゴーレムである。
『浮遊城ミリシア』で発掘したものを改造していたと言っていた。
ならば、これが大量にいても不思議ではないだろう。
「――噂をすれば影というやつだ」
「ど、どういう意味!? ユーリエ?」
「その人の噂話をしてると、その人が現れるって事!」
「えー!? じゃあパパが噂してたからだ! もーパパだめじゃん!」
「やれやれ、子供は暢気でいいねえ――こちとらこいつらどうしようか必死こいて考えてんのによ……!」
と、携えた剣を抜いて構えながらヨシュアが言う。
「別に構わないさ。この子達に指一本触れさせる気は無いからな。さぁ行こう。立ち止まる時間は惜しい」
俺は現れた『浮遊城ミリシア』の鎧兵士達には目をくれず、歩き出す。
「お、おいエイス……! かかって来るぞ! 何してんだ!?」
「た、戦わないと……! エイスさん!」
と、ヨシュアやアイリンは緊迫した表情を見せるが――
「大丈夫だ。問題ない」
俺の発言に怒ったわけではないだろうが、鎧兵士達が一斉に動き出す。
「うおぉっ!? 数が――!」
「来ます……!」
が――俺達に攻撃を加えようと突進した後、一斉にぴたりと止まる。
「お……!?」
「な、何ですか!?」
「結界だ。奴等にこれは破れん」
既に俺達の周囲には、境界と盾の神デューセルの防御結界を展開していたのだ。
鎧兵士達の集団はそれ以上近づけず、結界にびたりと張り付いて表面を叩く事しかできない。
このまま放っておけばいい――今はまだ。
「どうした? 早く来てくれ、結界の縁に当たるぞ」
「お、おお……! 古代の神秘もお前さんにかかっちゃまるで子供扱いなわけな……」
「いや、それは違う――」
「ん?」
「これは、子供のように可愛らしくは無いな」
「いやそういう問題じゃねえっての。論点がずれてるぜ論点が」
「あははは……」
「ほほぉ……いやーエイスさんの強さを見るのは、いい冥途の土産になりますのお――こんな枯れた年寄りでもワクワクしますの」
「やーい、ここまでおいで~!」
「リーリエ、あんまりふざけてちゃダメよ」
「これ一体改造して欲しいなぁ。いっぺん倒して、私の制御盤挿せば動くかなあ――」
「後で残ったものがあれば、持って帰ればいいさ」
「わ! おじちゃんありがと~!」
と話しながら、俺達は城門へ向けて歩を進める。
ヴィイィィィン!
「おおっ!? また沸きやがったか!」
「恐らく、それぞれどの位置に敵が来たら起動するか決まっているんだろうな」
ヴィイィィィン!
「エ、エイスさん……! ま、また増えましたけど……!?」
「ああ。放っておいていい」
「は、はい……!」
ヴィイィィィン!
その後もある程度進むごとに鎧兵士達が追加される。
ヴィイィィィン!
その数はもう、百を超えているかもしれない。
ヴィイィィィン!
まだまだ、在庫は尽きないようだ。
そして城門の近くまでやって来ると――
「おいおいこんなにゾロゾロ引き連れてどうすんだこれ!? 前すら見えねえぞ!」
もう蟻一匹通す隙間の無い程に、鎧兵士達が結界を取り囲んでひしめき合っていた。
「ん……そうだな。もういいだろう。皆、一応耳を塞いでいてくれ」
一拍置いて――猛烈な爆風が防御結界の外側で発生した。
自由と風の神スカイラと怒りと炎の神イーブリスの守護紋の力を動員した爆裂魔術だ。それを秩序と光の主神レイムレシスの魔術全増幅で増幅している。
広範囲殲滅用に割とよく使う手だ。
耳を劈くような轟音と共に、鎧兵士達がが一斉に吹き飛び周囲の視界が良好になる。
吹き飛ばされた鎧兵士達はそのまま動かなくなるか、『浮遊城ミリシア』の外まで飛んで落下していくか、どちらかだった。
「「「「……」」」」
ヨシュア、リコ、アイリン、アルディラさん達が言葉を失っていた。
「わ~。エイスくん今日も絶好調だね!」
「リコが自由研究で使う用に、壊れすぎてないのがあればいいね」
我が家の子供達は慣れたものだった。
「――よし。片付いたな。あまり何度も大きな騒音がするのも考えものだからな。もし子供達が耳を傷めでもしたら大変だ」
「はは……ご親切にどうも――」
「いや、礼には及ばんさ」
俺達はもう城門と思しき扉の目の前まで来ていた。
巨大な扉はきっちりと閉じられ、俺達の行く手を阻んでいる。
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