第109話 正式な錬金術師
「まずはこちらへどうぞ!」
イゴールさんはこの地下空洞の更に奥、巨大な扉の前に一同を案内した。
「ほ~物々しい扉だねぇ。何があるってんだ、こんな地下の穴倉によ」
「ん~ふふっ! すんごいのがあるよ! きっとびっくりするよ、パパ!」
とヨシュア達が言い合う中、イゴールさんの操作で巨大な扉が開いて行く。
その中のものが露になると、居並ぶ錬金術師達からおぉっと歓声が上がる。
「……これが、ゴーレムの研究者達がここに集まっていた理由か――」
俺もその光景には、少々圧倒された。
見上げるほどに巨大な、小城や砦に匹敵するような体躯のゴーレムがそこに鎮座していたのだ。
地竜の成体と並べても、比ではないような大きさである。
だがその巨体の大半は表面の装甲から朽ち果てており、機能は死んでいそうである。
しかし――人間でいうところの心臓に当たる部分。そのごく一部分だけは何か魔術紋のようなものが浮き上がり、朧げな光に包まれている。
「おいおいとんでもねぇモンが埋まってんじゃねーか……! だがこんなモノの事は聞いたことねえぞ? 『浮遊城ミリシア』は観光名所だってのによ」
「……恐らくだが、これまでずっと操作も修繕も出来ずに、この場に置かれ続けていたのでは……? だから表に出すことは出来ず、有名になる事もなかったんだろう」
「なるほどねえ。実際来ねえと分からんこともあるモンだ」
と、ヨシュアが頷く。
「あのね、エイス君。あれは『ミリシアの巨人』って言うんだって、エイス君の言う通りここで見つかってからずっと、動かすことも修理する事も出来ずにいて、イゴール先生達が研究してたらしいの」
と、ユーリエが教えてくれる。
「『ミリシアの巨人』か……」
「うん。『浮遊城ミリシア』に関係がありそうだからそう呼んでるんだって」
「なるほどな――」
と、イゴールさんも皆に向けて解説を初めていた。
「これまで我々は『ミリシアの巨人』を前に手を拱いているだけでしたが――巨人の胸の辺りをご覧ください!」
イゴールさんが指差すと、観衆達がざわざわと反応する。
「おお――ほんの一部だが、生きた魔術光の輝きが……!」
「私は何度か巨人を目にしているが――こんな事は初めてだ!」
「これはかつてない成果かも知れん――!」
それを聞き、イゴールさんはうんうんと頷き、先を続ける。
「あの輝きは、巨人の機能が一部再起動した証! そしてその機能とは、自己修復機能です! ですからこのまま時間が経てば、巨人は自らの機能で、万全な状態を取り戻すものと思われます!」
またおおおっ、と歓声。
「それは凄い……!」
「これが万全な状態になった時、一体どんな力を発揮するのか……!」
「楽しみですなあ――古代の神秘が現実に蘇るわけですから!」
「『浮遊城ミリシア』に続き、新たな観光名所になるやも知れん!」
「そうすればますます、この街も錬金術も発展が期待できますね!」
と、沸き上がる観衆を横目で眺めつつ、ヨシュアは少々表情を引き締めていた。
小声で俺に囁いてくる。
「街の発展、観光名所――ねぇ。そんな穏やかな話で済めばいいが……な。こんなバケモン、見るからに強大な力を持ってるだろうからなぁ。あのオッサンの事だ、暴走させて街をぶっ壊しやしねえかと不安になるな」
「……ならば、アレが直ったら性能実験と称して破壊しても構わんがな」
「おぉ!? エイス、お前あんなバカでかいのも倒せるってのか?」
「――不可能とは言わん」
「ははは……マジかよ――お前なら出来そうで怖いな」
と、聞こえていたのかアルディラさんが口を挟む。
「いやはやしかし、そうして頂いた方が面倒事が少なくていいかもしれませんのぉ。あれが強大な力を持てば持つほど、争い事の火種になりかねませんからのー」
「ええ……我々にその気がなくとも――復元した巨人の事が王侯貴族方に知れれば……これを他国との戦に使えなどと命令されることも考えられます。外部に知らせる前に、厳重に安全制御の仕組みを作っておく必要がありますね」
アルディラさんに続き、ルオさんも厳しい目つきで言う。
錬金術師協会の協会長と副会長がこういう意識を持っているならば、一先ずは安心していいかも知れない。
世紀の大発見とも言える事態にも浮かれず、それと背中合わせの危険性に目を向け気を引き締めているからだ。
「ねぇエイスくん? わたし達、悪いことしちゃった……?」
俺達の会話を耳にしたリーリエは、少々不安そうな顔をする。
「そんな事はないさ。これが凄い事なのは間違いないんだ。イゴール先生も喜んでいただろう? リーリエは素直に喜んでいい事なんだ」
「だけど凄い事過ぎるから、悪い事に使おうとする人もいるかもしれないって事よね?」
「ああその通りだ、ユーリエ。だが、それは巨人自体が悪いのではなく、使う人間の問題だからな。これだけに限らず、道具というものは使う者次第だ。道具自体が悪いわけではない」
「そうじゃリーリエちゃん、ユーリエちゃん。こいつを悪用させんというのは、私ら普段偉そうにしてる奴らが考えにゃいかん事でのー。まあ、任せておきなさい」
「……俺にも何か協力できることがあれば、させて頂きます」
「おぉ。でしたらいざという時も安心ですじゃ!」
「助かります、エイスさん!」
「ええ。どうも俺やこの子達も研究の手伝いをした事になっているようですし――他人事ではありませんからね」
これで巨人が悪用されるようなことがあれば、この子達が責任を感じて辛い思いをしてしまうだろう。
そんな事が無いように、子供達の純粋な心が傷つかないように、守ってあげるのは保護者たる俺の使命だ。
そのためにこの巨人自信を潰す必要があるとか、これを悪用しようとする国や軍隊を止める必要があるというならば、俺は躊躇わずそうして見せよう。
そんな事を考える俺を尻目に、出席者の一人がイゴールさんに質問をしていた。
「しかし一体どうやって――? これまで誰も、巨人の修復には手も足も出なかったというのに……」
「それは――ここにいるアイリン君と、あちらのエイス・エイゼル殿とそのご家族のリーリエ君とユーリエ君が作成してくださった薬品のおかげです! それを巨人に対して投与する事を私からお願いした所、先程も申し上げた通り巨人の自己修復機能の再生に成功したのです!」
「おお――あのアクスベルの軍神と呼ばれしエイス殿か……!」
「そのご家族が協力して下さっているとなれば、前代未聞の結果も頷ける――!」
「それにアイリン君も協力していたんだな。凄いじゃないかアイリン君!」
「ああ、よく頑張ったな!」
そういう声が次々に上がる。
アイリンは少々気恥しそうに、頭を下げていた。
それを受け、イゴールさんは大きく頷く。
「私としては――この成果をもちまして、これまで錬金術師見習いだったアイリン君を正式な錬金術師へと推挙したいと思います! 皆さん如何でしょうか!?」
「異議なし!」
「私も!」
「異議なーしっ!」
そう次々声が上がる。
「協会長――」
と、ルオさんがアルディラさんに視線を向ける。
数々の視線を受け、アルディラさんはふむ、と一つ頷く。
「皆に異論がないのならば、私としても異論は無いのお。アイリンや、今からお前は見習いを卒業して正式な錬金術師じゃ、よく頑張ったのお」
「お、お婆様――皆さん! ありがとうございます!」
アイリンは本当に嬉しそうな笑顔を浮かべると、周囲に深々と頭を下げる。
「わぁ――アイリンお姉ちゃん、よかったぁ!」
「うん! 早く一人前になりたいって言ってたもんね!」
「おねーちゃん、おめでと~!」
ぱちぱちぱちぱち! と子供達から起こった拍手が、アイリンを包み込んだ。
「お姉ちゃん嬉しそうだね!」
「うん、よかった!」
「二人とも、アイリンはとても嬉しそうだろう? それだけでも二人はいい事をしたと俺は思う。だから安心していい」
「「うんっ!」」
俺が二人の頭を撫でると、可愛らしい満面の笑みが返ってきた。
――さぁ、早く屋敷に戻って夕食の支度に取り掛からねば。
アイリンのお祝い用の料理も追加しないといけないからな。
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