第108話 家庭的な最強騎士
俺は子供達とアイリンに連れられて、街の地下へと案内された。
子供達の通っているアルケール学園の校舎の地下室へ行き、そこから更に地下深くの通路へ。そこはかなり大きな地下空洞になっており、ゴーレムの材料と思われる資材や、様々な実験器具が揃っていた。
古くからある地下空洞を利用した、ゴーレム研究者達の共同研究施設らしい。
つまりイゴールさん達の根城、というわけだ。
「お~。すっげえなあこりゃ――」
「ああ、街の地下にこんな施設があるとはな」
「どうもゴーレムの研究してるオッサン共はやべぇヤツが多そうだからなぁ、地下に押し込めときゃ、地上でゴーレム暴走させるよりはマシだろ。丁度いいんじゃねえか?」
「そのためにこの地下に研究施設がある――と?」
「じゃねーの?」
言いつつひょいと肩をすくめるヨシュアに、アイリンが苦笑いで応じる。
「あはは……確かに否定できない面もあるかも知れませんけど、そういうわけではないんです。この地下空洞には昔からあるものが埋まっていたそうで、それを研究するためにゴーレムの研究者が集まったそうなんです」
「……と、いう事はここにあったのはゴーレムだという事だな。前にイゴールさんが俺にけしかけたような、古い時代のものか――」
「その通りです、エイス殿! よくおいで下されました!」
と、俺達を出迎えたのはイゴールさんだった。
これから研究成果のお披露目だからか、いつもより立派なローブを身に纏っている。
「ええ、イゴールさん。子供達がいつも学校でお世話になっています」
と、俺はイゴールさんに一礼する。
ゴーレムに関しては見境が無いが、こう見えて学校の教師としてはちゃんとしているらしい。授業も面白いと、ユーリエが言っていた。リーリエはわかんなーいとあっけらかんと言っていた。
曰く、ユーリエに後で教えてもらうのが一番分かりやすい――のだそうだ。
そして、ユーリエが楽しそうに授業を受けているから、自分も楽しいと笑顔だった。
そう言われてしまうとユーリエとしても強くは言えず、学校から帰って夕食の支度を待つ間は、リコも交えて三人で学校の授業の復習を毎日しているのだった。
その光景を台所で料理をしながら横目で眺めるのは、ここの所の俺の日々の楽しみでもある。
「いやいやこちらこそ、リーリエ君とユーリエ君のおかげで、長年停滞していた研究が大進歩をしましてな! 本当にこの子達が学園に来てくれてよかった! それにエイス殿自身も、アイリン君の手伝って下さったそうで、本当にありがとうございます!」
「いえ、俺は特に何も――」
「はっはは! ご謙遜ですなあ。まあアクスベルの戦神と呼ばれたあなたからすれば、本当に何もしていないに等しい事だったのかも知れませんが――」
「……」
本当に近くにいてほぼ見ているだけだったのだが、そう言われてしまうとどうしようもない。
「ともあれ、おかげさまで素晴らしいものをお見せできそうです! さ、すぐ始めますので、あちらでお待ちを!」
と、イゴールさんが指差した先には、既に何人ものローブ姿の人間が集まっていた。
錬金術師協会の錬金術師達がよく纏っているものだ。
「ええ分かりました」
俺とヨシュアと子供達はイゴールさんとアイリンから離れ、その場で待つことにする。
しかしアルケール学園の制服を着ている子供達はまだしも、俺とヨシュアは完全に部外者である。彼らが奇異に感じてか、視線を向けてくるのが分かる。
「エイスさん。ご足労頂き有難うございます」
だが待機している錬金術師達の中には、協会長のアルディラさんや副協会長のルオさんの姿もあり、俺の姿を認めるとルオさんが声をかけてきた。
「ああルオさん。子供達がお世話になっています」
「いいえ。しかしその格好は一体――?」
「? 何かおかしな点でも?」
「ああいえ。大した事ではありませんが、そのエプロンは一体――?」
「これですか? 夕食の材料の買い出し中だったもので」
そう応じるとアルディラさんがルオさんの横から顔を出し、笑いかけてくる。
「やあやあ、いつも済みませんのお。エイスさんの料理は愛情たっぷりで美味しいですからの。私もつい毎日楽しみにしてしまいましてのぉ」
「ええ。今日もいい野菜が買えましたよ。これで煮込みを作ります」
と、俺は買い物籠を掲げてアルディラさんに見せる。
「おうおう。楽しみですのぉ」
「きょ、協会長! エイスさんに家政婦の真似事をやらせているんですか……!? それは余りにも礼を失するのでは……?」
「ほぇ? そうかの?」
「そうですよ!」
「いや、そんな事はありません。楽しんでやらせてもらっていますよ。騎士をやっている頃には、やりたくても時間的に難しい事でしたから。任せて貰って感謝しています」
「は、はぁ……そ、そうですか」
「ほれみぃ! エイスさんはこのなりの通り家庭的なんじゃよ」
「まぁそれは……その姿を見れば、そうですが――」
「それに、エイスさんが家事を引き受けて下さっているおかげで、アイリンが家におる時に研究や勉強に専念できておるでの。二人だとどうしても、あの子は率先して動こうとしおる。エイスさんがいて下されば、日中外に出ている間に家の事は完璧になっておるからの。アイリンの成長という面でも大助かりなんじゃぞ?」
「ま、まぁそういう見方も出来はするかもしれませんが――」
ルオさんは脱力したようにそう言うだけで済ませていた。それが少々意外だった。
割と生真面目で神経質そうな性格をしているという印象だっただけに、関係のないアイリンの話を持ち出されて怒るかと思いきやこの反応である。
ルオさんも余程アイリンに期待して、成長を願っているという事なのだろうか。
彼とアイリンとは、別に家族でも血縁でもないのだが――
ああ見えて意外と優しい人なのかもしれない。
「ふふっ。そういう意味では、少し役に立てたかもしれませんね。今回の研究成果とやらには、特に何かをした覚えもありませんが――」
「はっはは! じゃが、あの子もあなた側にいると何か研究が上手く行くと言っておりましたでの~。単にあなたに気に入られたくて、一生懸命になっただけかもしれませんが。あの通り器量と性格は良い娘ですでの、嫁候補になどどうですかの~?」
「いやいや、アイリンはここらの貴族のご子息からの求婚も断ったと聞いています。それはあなたと一緒に暮らすためでしょう? でしたら彼女にその気はないでしょう」
「なんのなんの。それは相手によりますじゃろ? あの子があなたを見る目が普段とは違うのは、この婆にはよく分か――」
「お婆様っ! 今エイスさんに変な事を吹き込んでいたでしょう!?」
イゴールさんと共に再び現れたアイリンが、怖い顔をしてアルディラさんを睨んだ。
「おっほっほっほ。まあまあ、年寄りの戯言だからのう。大目に見ておくれ」
「もう……お婆様ったら――」
「さあさあ、お集まり頂いた皆さん! お待たせしました、始めましょうか」
と、イゴールさんが音頭を取り、お披露目会が始まった。
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