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第107話 お披露目会

「これは冬に採れる野菜だ。普通、この季節にお目にかかれるものではない」

「んぉそーなの?」

「ああ。これはどうやって採ったのですか?」

「錬金術で作った肥料でな。この季節でも育てられるんだよ。裏の畑で作ってるよ」

「なるほどこれも錬金術の応用――」

「何でも錬金術錬金術だねぇ、この街は」

「ああ。便利だな……」

「ま、アルディラ婆さん達の努力の賜物ってな。あんたら、アルディラ婆さんの所に居候してるんだろ? お孫さんのアイリンちゃんに手ぇ出しちゃいけねえよ? 取っちまったら、婆さんが寂しがるからよ」

「その心配はありませんよ。これでも俺達はそれぞれ子持ちですので」


 俺は即答でそう応じる。


「おぉそうかい? アイリンちゃんはあの子、可愛いしいい子だからなぁ。いい歳の婆さんを心配して、一緒に住みに遠くから来てくれたんだからな。孫娘の鏡だぜ」

「そうですね」


 確かに、アイリンはこの店主が言う通りの娘だろう。

 甲斐甲斐しくアルディラさんの世話を焼く姿を見ているので、頷くことができる。

 早く一人前になってアルディラさんを安心させようと、夜な夜な遅くまで勉強をしたり実験をしたりしている姿を俺も目にしていた。

 その努力はまだあまり、実を結んではいないようだが――

 ただ、以前彼女に協力して作成した『封魔の水』という錬金術の薬は中々出来が良かったそうだ。

 二日ほど前にもう一度協力して欲しいと言われ、再び同じものを作ったのだが、詳細は俺にはよく分からないが、上手く行けば凄い研究成果が出るかもしれないとの事だ。

 それによって、アイリンが一人前の錬金術師として認められたりすれば結構な事だ。


「その上さ、あの子を見染めた貴族のボンボンが求婚してきてもよ、お婆様を一人にできないっつってキッパリ断ってんのよ。泣かせるじゃねぇか」

「いいねぇ、アイリンちゃん! それでこそだぜ!」


 感銘を受けたヨシュアは深く頷いている。


「俺もいい歳だからわかるけどよ、歳食ってそういう存在がいるって、ホントありがてえことなのよ。普通は育ったら育ちっぱなしで寄り付きもしねぇもんよ」

「確かになあ――おっちゃんの言ってることも分かるぜ」

「俺達にもいずれやってくる未来……か」

「お前はまだいいぜ。リーリエちゃんとユーリエちゃんは治癒術師になるんだろ? だったら年食って弱ったらさ、患者として側に置いて診てくれそうじゃねえか? ウチのリコにゃあそういうのは期待できんからなぁ。まあ、お前さんが並の人間のように年食って弱るかは知らねえけどさ」

「どうだろうな……あまり子供達に迷惑をかけたくないが――な」


 今はまだ、小さな可愛らしい天使達だが、いずれは大人になって行く。

 それと同時に俺は少しずつ年老いて、やがてあの子達を守る力も衰え、失われていく。

 その行き着く果てがどうなっているかは分からないが、アルディラさんとアイリンが寄り添って暮らしているのは、少々羨ましくは思う。


「まぁ婆さんに身寄りがあったなんて初めて聞いたがな。てっきり錬金術にかまけて独り身で通しちまったのかと思ってたけどよ。で、どうするビエルダイコン?」

「ええ、頂きます」


 俺はそう頷いた。これを使って夕食を作るとしよう。

 今日も子供達を、美味しいと笑顔にさせて見せる――!

 俺とヨシュアは、買い物を終えて店を出た。


「さて、と。エイス、他にもどっか行くのか?」

「いや夕食の買い出しは終わりだ。後は屋敷に戻って支度を――」


 そう言う俺に、遠くから呼びかける者がいた。


「エイスくーん!」

「エイス君ー!」

「エイスさんっ!」

「おじちゃーん! パパー!」


 子供達とアイリンだった。

 皆嬉しそうな笑顔で、少々興奮気味でもあった。


「うん? リーリエ、ユーリエ。皆揃って――今日はもう終わりなのか? いつもより早いな……」


 子供達は授業の後自由研究に勤しんでいるそうなので、帰りは夕方位になる事が多かった。だが今はまだ昼下がりといった程度だ。

 この時間に子供達が帰って来るならば――


「今から帰るなら、何かお菓子が食べたいだろう? すぐに作るから、材料を買って帰ろうか?」

「え! わ~い♪ じゃあわたし、パンケーキがいい!」

「私クッキーがいい♪」

「ちょっと待って二人とも! そうじゃないでしょ!」

「む? ユーリエはお菓子がいらないのか? ユーリエの好きなものも作るぞ?」

「た、食べたいけど、今はそうじゃないの!」

「あははは。そうだったそうだった」

「そーだよ、おじちゃんを呼びに来たんだったよね!」

「……何だ? イゴールさんのゴーレムが暴れて手に負えないとか、そういう事か?」


 その割には、子供達から危機感は感じないが――?

 と、アイリンが進み出て説明をしてくれる。


「いいえ違うんですエイスさん。実はその――エイスさんにお手伝いして貰って作った『封魔の水』を元にしてリーリエちゃん達が作った薬で、凄い研究成果が出たんです!」

「む……!? そうなのか、どんなものかはよく分からないが、二人ともよくやったな。俺も鼻が高い」


 と、俺はリーリエとユーリエの頭を撫でる。


「へっへっへー! ほんと凄いんだよ! 見たらエイスくんもびっくりするよ!」

「うんうん、絶対!」

「そうか。どんなものか見せて貰うのが楽しみだな」


 子供達の得意気な笑顔もまた、可愛らしい。

 俺も思わず頬が緩んでしまう。


「アイリンも、君の成果でもあるんだろう? 結果が出てよかったな。協力した甲斐がある」

「あ、ありがとうございます――何故だかエイスさんに手伝ってもらうと、安定して作りたいものが作れるんです。本当に助かりました」


 それはそれで少々不思議ではある。

 俺は手伝ったと言っても、彼女の側で防音用の結界を張っていただけなのだ。

 一度目も、二度目もそうだ。

 結果それで上手く行ったなら、それはそれで構わないのだが。


「それで、これから錬金術師協会の内部で、研究成果のお披露目があるんです。エイスさんもそれを見に来られませんか? ヨシュアさんもよろしければ――」

「願ってもない。行かせてもらおうか。買い物の途中だがな」

「あははは……エプロン姿ですもんね」

「ふんふん、興味あるし俺も行かせてもらうぜ」

「パパは完全におまけだけどね~」

「リーコー。お前だって役に立ってないんだろうが。手伝ったのはリーリエちゃんとユーリエちゃんだろ?」

「私は道具運んだり、リーリエとユーリエの応援してたりしたもん! きょーどーけんきゅうしゃってやつだよ!」

「うんうん、リコちゃんがいてくれると、いっつも喋ってくれるから楽しいよ!」

「はっはっは。お前は賑やかしだってよ、リコ」

「ぶぅ~! ちがうし!」


 ともあれ、俺は研究成果のお披露目会というものにお邪魔する事になった。

 ――エプロンに買い物籠を提げた、完全に主婦のいでたちで。

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