第8話 うちの子天才!
『浮遊城ミリシア』は、隣国スウェンジーに毎年停泊をしに来るそうである。
なぜそうなのかは誰も知らないが、そういう動きをしているのは有名だ。
古代王国の神秘。世界七大遺跡の謎である。
それを解明しようと躍起になっている者達も多い。
スウェンジーはアクスベル王国の西方に位置しているため、俺達は当然、王都を出て西に向かう事になる。
王都アークスはアクスベル領内では西寄りに位置しているため、国境は比較的近い。
荷馬車は荷馬車でも、牽いているのは伝説の名馬八足馬のビュービューである。国境までは十日もかからないだろう。
途中の街道も整備されており、旅路は順調。
現在は王都を出て五日目だが、宿場で宿を取って眠るのと、馬車の中で夜を明かすのとは半々である。
王都での生活とは環境が一変したが、リーリエもユーリエも元気そうで楽しそうだ。
四六時中彼女達といられて、俺としても言う事がない。最高である。
今も二人は、山間の沿道の風景に目を輝かせていた。
七色に輝く綿毛をつけた花が、群生していたからだ。
それが風に揺られて、綿毛を宙に飛ばしていた。
まるで虹が、地面から上に伸びて行くような不思議な光景だった。
「わー! ねえねえ、エイスくん! あれは何て言うの!?」
「プリズムツヅミ――だったと思う。昔は山でよく見たな」
比較的高原の、空気の澄んだ場所に咲く花だ。
花自体は白いのだが、綿毛になるとそれが虹色なのである。
エイミー姉さんもこの花が好きで、山で群生しているのを見かけた時は、一緒になって綿毛を飛ばして遊んだ記憶がある。
「エイス君! 降りて触ってきていい!?」
「うん、行きたい!」
二人とも目を輝かせていた。
「ああ。構わない。行っておいで」
俺はそんな二人を微笑ましく思いながら、頷く。
今のうちビュービューを休ませておくとしよう、丁度近くに小川もある。
ビュービューに水を飲ませながら様子を見る俺の視界の中で、二人はプリズムツヅミの綿毛の畑に飛び込んでいた。
子供達の歓声と共に、虹色の綿毛が散って、空に舞う。
慎ましく、可愛らしい遊びだ。
俺と姉さんはああいうのを見たら、風の魔術で全部吹き飛ばして遊んでいた気がする。
ビュウウウウーーーッ!
ああ――突風が吹いたな。
その中に、魔術によって操られた魔素の流れを感じる。
あの子達――と言っては可哀想か。あれは姉のリーリエだけの仕業だな。
風を操る魔術は、自由と風の神スカイラの力。
スカイラの守護紋を持っているのはリーリエの方だ。
治癒術師だったエイミー姉さんの血を引く二人は、治癒術を担う愛と水の神アルアーシアの守護紋こそ共通で持っているが、他のものはそれぞれ違う。妹のユーリエの方はスカイラの守護紋は持っていないのだ。
二人とも、現状で三つずつの守護紋を持っている。
子供のうちは後天的に守護紋が増える事もあるので、まだ分からないが――現時点でも、将来アクスベル王国の聖騎士や宮廷魔術師になれる位の才能があるのは間違いない。
守護紋は普通は一人一つ。
二、三個持っていたら国家の重要戦力級である。
プリズムツヅミの綿毛を飛ばしてケラケラ笑い合っているが、ああ見えてあの無邪気な天使達は天才なのである。その才能を正しく伸ばしてあげるのも、親の、俺の務めだ。
二人とも将来はエイミー姉さんと同じ治癒術師に憧れているようだから、愛と水の神アルアーシアの守護紋の力を主に磨いていく事になるだろう。
そんな事を思いながら彼女達を眺める俺の前で、プリズムツヅミの綿毛は風でどんどん飛ばされて行く。リーリエが魔術の突風を連発していた。
――なかなか容赦がない。さすが俺と姉さんの血を引いているな。
豊かな虹色の畑のようだった光景は、すっかり吹き飛ばされて殺風景になっていた。
だが次の瞬間、俺は目を疑う。
二人が手を合わせながら何やら魔術を使うと、プリズムツヅミの綿毛が一気に復活し、元の虹色の光景に戻ったのである。
「! 何だと……!?」
飛んで行った綿毛を再生した?
しかしそんな魔術、俺は知らなかった。
治癒術の一種になるのだろうか?
治癒術は俺は専門外なので、理解の範疇を越えていた。
そもそも治癒術と言うのは、愛と水の神アルアーシアの守護紋の力に属するのだが、他の魔術と違い女性にしか扱えないという特性があった。
しかもずば抜けて高い魔力が必要となるため、扱える者は相当に希少である。
そもそもアルアーシアの守護紋自体が、二十六種の守護紋の中でも三番目に希少で、少数の者にしか現れないというのもある。
俺は二十六種の守護紋を持っているが、やはりアルアーシアの治癒術だけは使えない。猛き祝福のような他の魔術は扱えるが――
治癒術師が治癒術師とわざわざ専門的に呼ばれるのには、そういう理由がある。
ただその治癒術もケガ等を治すものである。
植物を再生するようなものでないはずだが――?
俺ですら知らない、未知の魔術をこの年齢で操っているとは――
「お待たせーエイスくん。じゃあ先にいこっ!」
「ちゃんと元通りにしてきたよ? あたし達、偉いよね?」
「ああ……偉いな」
俺が頭を撫でると、二人は嬉しそうに笑っていた。
「「えへへー」」
可愛らしい事この上ない。俺は思わず目を細めていた。
「さっきの魔術は何だったんだ? よく綿毛の再生なんてできたな?」
「んーとねえ。何かユーリエと力を合わせればできるんだよ」
「そうなの、一人だと出来ないんだけど――手を合わせて、一緒にやると出来るの」
「アルアーシアの治癒術は治癒術なのか?」
「「うん」」
双子ならではのもの――という事なのか?
本当に『樹上都市バアラック』の魔術研究施設にでも行って、詳しく調べてみるのもいいかも知れない。
これは恐らく新種の魔術の発見となるのではないだろうか。
現在存在する魔術とて、初めからあったわけではない。
魔術研究の長い歴史から編み出されてきたものだ。
うちの子供達が新種を発見する事もあり得なくは無いだろう。
親としては、鼻高々である。
嬉しいではないか――うちの子天才! というやつだ。
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