第103話 研究の日々
それから、リーリエやユーリエ達はイゴールの研究の手伝いをする事になった。
学校が終わると、イゴールの抜け道で例の地下空洞に行くという流れだ。
本来の自由研究もここで行う事にした。
まず第一に、巨人に対して効果のあったあの薬をもう一度作ろうとしたのが――
数日に渡り繰り返して試しても、その後一向に同じものが出来なかった。
今日もアイリンが作った『封魔の水』にリーリエが治癒魔術を込めると、何故か赤い液体が完成していたのだった。
「う、うーん……また違うのになっちゃった!」
「あはは……明らかに見た目から前のと違うわよねぇ――はぁ」
と、アイリンはため息を吐く。
何にせよ期待されているものに応えられないのは申し訳ないと思う。
「あたしも試してみる!」
と、ユーリエも残っていた『封魔の水』に対し、治癒魔術を試みる。
――今度は、濃い青色の液体が出来上がった。
いずれにせよ、目当てのものでない事は明白である。
「うーん――何でだろ? あたしがやったらポーションにしかならないのに……」
とユーリエは首を捻る。
ここに至るまでの何日かの間に、既にユーリエが自分で作成した『封魔の水』にリーリエやユーリエが治癒魔術を込めるのは試した。
すると薄水色のキラキラとした液体が出来上がり、それを傷に振りかけると、治癒魔術のような傷を癒す効果を発揮した。
ちゃんとしたポーションの出来上がり、である。
これをもってリーリエの自由研究については完了という事になる。
一方ユーリエの課題はまだ未終了だった。
アイリンに教えて貰ったおかげで材料は判明したのだが、その中に『水晶花』というものがあった。
それはつまり、浮遊城ミリシアにあるという『水晶の花園』に咲いている花の事だ。
イゴール先生に聞いたところ、現在では入手手段は浮遊城ミリシアに行くしかないとの事である。学校の備品にも無いし、個人的に持ってもいないそうだ。
なのでユーリエの自由研究は、浮遊城ミリシアがやって来るまでおあずけという事になる。
イゴール先生の研究の手伝いは、浮遊城ミリシアを待つ間に取り組むには丁度いい。
頭を悩ませているユーリエ達の近くでは、リコが鼻歌を歌いながらゴーレムを組み立てていた。
「ふんふ~ん♪ 右手にドリル~左手にもドリル~右足にも左足にも頭にもドリル~♪」
ここはゴーレム研究者達の集まる共同研究施設であるから、ゴーレムに関する資材はそこらにゴロゴロしている。
ゴーレムに興味津々の子供に対しここの人達は優しく、気前よく資材を分けてくれるし聞けば何でも教えてくれる。
おかげでリコのゴーレムの制御盤は既に完成し、高性能の魔素槽も手に入れ、こうして本体の組み立てに移っているのだが――
リコの趣味か、気付があちこちが尖った、見るからに凶悪そうなゴーレムが出来上がろうとしていた。
「んふふ~ここにも隠しドリル~♪」
と、山盛りの部品の山に手を突っ込んで――
「っ!? いたぁ~~指切っちゃったぁ……」
見ると、リコの指先に血が滲んでいる。
「あっ! リコちゃん大丈夫――?」
アイリンは慌ててリコの側に駆け寄る。
「大丈夫大丈夫! ねね、リーリエユーリエ、そのポーション使ってみていーい?」
「うん、いいよ!」
「うん。そのためにあるんだしね」
「ありがと~!」
と、リコはポーションの瓶を手に取り、中身を傷口に振りかける。
指先の切り傷程度なので、あっという間に塞がって消えてしまう。
「おぉ~すごーい! やっぱポーションだ!」
とリコは喜びの声を上げる。
実際リーリエとユーリエが作ったポーションはかなりの品質であり、相当な高額でも売れるようなものだった。
一応物の価値は教えておいた方がいいと、イゴールがそれを二人に伝えていた。
当然と言えば当然かも知れないが、二人ともそういう話にはあまり関心が無いようで、別にお金が欲しいわけではないと口を揃えていた。
そういう清らかな精神の持ち主にこそ、強い治癒魔術の力が宿るものなのだ――
二人を見ていたアイリンとしては、そう思う。
「やあ済まないね君達、戻ったよ」
と、席を外していたイゴールが戻って来た。
そして、組み立て途中のリコのゴーレムを見て感想を述べる。
「ほう――中々趣味的な装備だね。要人暗殺用か何かかな?」
「えぇ~!? 違うよー先生! ウチのパパ弱っちいから、依頼とかでケガしないように護ってあげるやつだよ!」
「警護用かい!? だったらそれなりの装備にした方がいいんじゃないかい?」
「……た、確かに――」
と、アイリンは苦笑する。
リコが好きなように作っていたら、とてつもなく物騒なものが出来上がりそうだ。
「そうだねえ、それすっごく痛そうだもんね――」
「身を護ってあげるなら、大きな盾とか付けてあげたら?」
「おーそれいいね! そうしよーっ!」
「それに、もっといいものも付けられるんじゃないかい?」
と、イゴールは何かいい案がある様子だった。
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