第101話 ミリシアの巨人
複数の研究者達の共同施設となっている空洞を、イゴール先生の先導でリーリエ達は進む。歩きながら、左右にいくつもの鉄の扉が見えた。
「先生、あの扉がいっぱいあるのは何?」
「ああ。それぞれの研究者が用意した隠し通路だよ。私が学校の地下への通路を用意したようにね。ここは地下の巨大な空洞だからね。地上への抜け道を掘れば、いろんな所に繋げられる。皆が自分の便利なように通路を掘っているのさ。幸い我々はゴーレムの研究者であるから、土木工事はゴーレムがやってくれるわけだからね。まあ、掘らない手は無いな。時間は有効活用したいからね。ゴーレム研究以外の雑用にかかる時間を短縮できる」
「はは……つまりここって、先生みたいな人ばっかりって事なんだ――」
ユーリエの言葉は少々呆れ気味のものだったが、イゴールは意にも介さず大きく頷く。
「同じ穴の狢。類は友を呼ぶというやつだね! だがここにそういう人間が集まるのは、偶然ではない。皆ある一つのものに魅せられているのさ。それがこの奥にある」
地下空洞を進んでいくと、これまでのものとは比較にならないほど巨大な扉が鎮座していた。
イゴール先生が扉に寄り何やら操作をすると、重い音を立てて扉が開いて行く。
その奥には――
巨大な。とてつもなく巨大な、鎧に覆われた人型のモノの姿があった。
超巨大なゴーレム――と言っていいだろう。
その大きさは、リーリエやユーリエが見た体の大きい時のクルルや、地竜の比ではなく、大人の十数倍以上はありそうである。
ただし体の半分以上が岩壁に埋まったようになっており、見えている部分も長い長い時間が経ったが故の風化が進んでおり、かなり傷んでいるように見える。
だがその常識外れの巨体からくる迫力は、見る者を圧倒するものを今だに醸し出している。
それを見て、子供達は歓声を上げる。
「うわあぁぁぁ~! すっごーーーーーーいっ! おっきいねぇ!」
「本当……! こんな大きなゴーレムが作れるなんて……!」
「うおぉぉぉ~! コレに私の作った制御盤ぶっ差したいぃぃぃぃっ! こんなの動かせたら最高なのに!」
リコの言う制御盤とは、ゴーレムの部品の一つで動作を決めるいわば頭脳のようなものだ。これにリコが練習していた紋章を刻むことによって、例えば警護用だとか、荷運び用だとか、ゴーレムの基本的な動作を決める事が出来る。
「ふっ……リコ君、それは先生達が皆通ってきた道だよ。誰もが自作の制御盤をあいつに組み込んで、動かそうと試みて来たんだ。だが誰も成功しなかった。だからあれは未だににここにあるわけだ。先生達がここに集まっているのは、あれの――『ミリシアの巨人』の研究をするためでね」
「『ミリシアの巨人』って、『浮遊城ミリシア』と――!?」
「ああユーリエ君。関係あると我々は考えておるよ。この巨人はね、この地下空洞が発見された時以来ずっとここにあるんだ。我々の知識や技術では、動かすことも出来ずにね。だからすっかり忘れ去られた、風化した存在だが――『浮遊城ミリシア』は我々の知る限りずっと定期的にこの地にやって来る。それは、この地に何かがあるからだろう? それがこの『ミリシアの巨人』だと私は考えているよ。恐らく両者は非常に近しい関係にあり、未だに無事な『浮遊城ミリシア』は失われた『ミリシアの巨人』を探し続けている――そう考えると、『ミリシアの巨人』を動けるようにして、返してあげたくはないかい? 『ミリシアの巨人』を動かす事が出来れば、きっと何か、今まで我々が見た事のない光景が見られるはずさ」
「……すごい! それって世界七大遺跡の一つの謎を解き明かすって事ですよね!」
ユーリエはワクワクしながらそう応じる。
今まで誰も分からなかった事を、明らかにする――
それはどんな可愛い洋服や、綺麗な宝石よりも価値のある事だと思うから。
「そう! そして巨人の事がもっと分かれば、私達の作るゴーレムにその技術を還元できるわけだ! 巨人そのものを作ることも可能かもしれん! そうすればあのエイス殿すらも凌駕することが可能だ! 最強を超えた最強の力を我が手に!」
「あ、あのー……イゴール先生、もしその力を手に入れたらどうなさるんですか?」
「決まっているだろうアイリン君! どうもしないさ! 最強の力を生み出すことが目的であって、私はそれで満足! それを使ってどうこうするという事は考えていない。あえて言うなら、更に強い力を生み出すための研究材料になってもらうという事だな!」
「はぁ……先生らしいですね」
この人はある種子供のようなもので、誰が一番足が早いとか、石を遠くに投げられるとか、そんな打算の無いただ純粋に楽しむための競争心を持ち続け、それをゴーレム作成という難しい対象に適応しただけなのである。
子供っぽい大人とも言えるし、賢い子供とも言える。
そういう所は、アイリンとしては嫌いではなかった。
ただこの人自身に他意は無いのだろうが、悪意のあるものに利用されると危険――のようにも思えるが、だからこそそういう事を見越して学校の講師に招いたり、いろいろ目配りしているのだろう。
祖母の協会長アルディラの意図が今なんとなく分かった気がする。
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