第100話 秘密基地
「待ちたまえ、君達!」
と、アイリン達に声をかけた者がいる。
振り向くと、実験室の入り口にイゴールが姿を見せていた。
「あ。イゴール先生――」
「見せて貰ったよ、興味深いものが出来上がったようだね!」
「でも、ポーションを作るつもりだったんですが――きっとわたしが作った『封魔の水』に何か問題が……」
「新たな発見に想定外は付き物だよ! それでいいのさ、ただどういう手順で何をやったかは覚えておくべきだがね。後でまとめておいてくれたまえよ」
「は、はい!」
「で、その出来上がったものの実験だが――私もぜひ混ぜてくれないかね!? どうしても試してみたい物があってね! あの小さな蜘蛛は大丈夫だったようだが、生物に試すにはもう少し実験した方がいいだろうし、リコ君のゴーレムはまだ未完成だろう? それにここで何かあっては大変だから、場所も移した方がいい」
「え、ええ――わたしは構いませんけど? リーリエちゃんは?」
「いいよー。イゴール先生の事だからゴーレムに使いたいんだよね? 喋るゴーレム見てみたいし! ね、ユーリエ?」
「うん。生き物じゃないものに試したらどうなるか気になるしね」
「おもしろそうだね~! やろうやろう!」
皆特に異論は無かった。
イゴールは嬉しそうにうんうんと頷く。
「おお、ありがたい! では行こう、ついて来てくれたまえ!」
と、イゴールはアイリン達を連れて実験室を出る。
そして向かったのは、学校の地下室。備品倉庫だった。
ひんやりとした空気が充満している。
「イゴール先生、ここにゴーレムがあるの?」
イゴール先生の事なので、行った先に絶対ゴーレムが置いてあると思ったのだが。
「いいやこの先だよ。さぁこっちだ」
イゴールは地下室の隅に皆を案内する。
そこには鍵穴の付いたがっしりとした金属製の扉があった。
「ちょっと待ってくれ――」
イゴールはカギを取り出し、扉を開ける。
その先は更に地下へと続く階段となっていた。
「わぁ。何かすごーい!」
「凄い下まで続いてるわね……」
「秘密基地っぽいね! こういうのワクワクする!」
子供達は目の前の光景に興奮気味だ。
「先生これは――?」
と、アイリンはイゴールに尋ねる。
「地下通路さ! ゴーレムの地下実験場への近道だ。直接学校に来られるように近道を用意した! ゴーレム以外に余計な時間はなるべく使いたくないのでね!」
「はははは……これ、学園長の許可は取ってあるんですか?」
「無論だ。元々学園で働く条件として認めて貰ったものだからね。私はあまり興味はなかったが、アルディラ協会長が学園の講師をやれと煩くてね」
「そうだったんですか。でもお婆様は正しいと思います」
「ああ。意外と向いていたのかも知れないね。あの人の人を見る目は確かだ。だから、君も自信を持っていいんじゃないか? あの人が君を錬金術師にと考えているんだからね」
「は、はぁ――でもわたしは……」
「まぁ今回のこの薬の効果が認められれば、君をアルディラ協会長の七光りだとか、お孫さんだから贔屓されているとか、陰口を叩く者も減るだろう。チャンスだよこれは」
「は、はい!」
確かにイゴールの指摘はその通りで、錬金術師協会にとってはぽっと出のアイリンに対して、そういう感情を持っている者達もいる事は感じていた。
それだけに、そういう人間関係と何の関わりも無い子供達のお手伝いというのは、心の休まるお仕事だった。アルディラはそういう事も見越して、自分をイゴール先生の助手にやったのかも知れない。
そういう祖母を、早く一人前になって安心させてあげたいものだ。
「さぁ着いたよ。ここを開ければ、すぐそこだ」
階段を一番下まで降りると、また扉があった。
今度は先ほどのものより更に大きく頑丈だ。
それをイゴールが開くと中は広大な空間になっていた。
そこに様々な機材やゴーレムの材料と思われる資材などが、所々に積まれている。
目につくのが、机や本棚などが一定の間隔で点在していることだ。
一人でこれを使うのだろうか?
「うわぁ~ひろ~い!」
「本当に秘密基地って感じよね……」
「おぉぉぉ~そこらへんにゴーレムの部品がいっぱい転がってる!」
「ここは街の地下空洞を利用した研究施設さ。ゴーレムの研究者達が何人も集まって共同で使用しているんだ。危険度の高いゴーレムの実験は、街中ではできないからね。基本的には地下でならやっていいという事になっている。エイス殿に関しては特例で、あの人の近くならばどこでも構わないとの事だ。世界最強の呼び声高い彼に止められないものは他の何を以てしても止められないからね。ならばどこでやっても同じだろうというわけだ」
「ははは……でもエイスさんの強さなら、確かにそうかも知れませんね――」
「ああ。彼の強さは噂には聞いていたが、私の想像を遥かに上回るようだ。戦闘用のゴーレム研究者にとって究極の目標だよ。だがね、そんなエイス殿といい勝負が出来そうなものの心当たりが、私には一つだけあってね……それを今から君達に見て貰おうと思う。こっちだよ」
イゴールはそう言って、地下空洞の奥へと歩を進めた。
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