第98話 ポーション!?
翌日――
「わぁ! ほんとだここに書いてる! ありがとうアイリンさん!」
学校に着いた後、アイリンはユーリエが探していた大人になる薬の書いてある場所を教えてあげた。
こうやって嬉しそうにしてくれるのはいいが――尊敬の眼差しにちょっと申し訳なくなる。
本当は自分が見つけたのではなく、エイス達が偶然見つけたのだ。
だが、本は見ていない事にして欲しいと言われたので、それをユーリエには言えず……
結局アイリンが発見した事になってしまったのである。
「それから、リーリエちゃんには『封魔の水』ね。学校の備品より強力なものになっているはずだから」
「おおお~! これならわたしのポーションが作れるんだね!? ありがとうお姉ちゃん、頼りになるー!」
これは昨夜相当苦労して、何度も研究部屋を爆発させながら作ったものなので、喜んでもらえて嬉しい。
音に驚いて駆けつけ来たエイスに、手伝って貰ってしまったが――
ただ、主に夜中に大きな音が立ってしまうのを防止するため、防音用の魔術壁を張ってもらうというのが主だったので、これを作ったのは自分だと胸を張れなくもない。
「ううん、わたしなんてまだまだ……だけど頑張って作ったから使ってみてね」
「うん! きっといいポーションができるね!」
とにかく、何とか使えるものが出来上がって良かった。
エイスには手伝いの代わりにと、女性になる薬のための材料として髪の毛を何本か欲しいと言われて渡したが、自分のもので役に立つのだろうか?
錬金術師として、自分はまだまだ未熟だ。
素材の容量や製法はきっちり守っているはずなのに、原因不明の爆発や暴発が多発してしまうのである。
今回に限った事ではなく、錬金術師として何をやってもそうなってしまいがちなのだ。
エイス達と初めて会った時も、後で確認してみると実は参照する手順が間違っていたのではなく、合っていた。
それなのにアイリンの作ったゴーレムは暴走してしまった。
実は――あまり認めたくはない事ではあるが――自分には錬金術師の才能が無いのかもしれない。
早く一人前になって、祖母のアルディラを安心させてあげたいのだが――
「そうね。そうだといいな――」
最近ちょっと自己嫌悪に陥り気味ではあるが、この子達の明るさや可愛らしさには救われる。いい仕事を回して貰えたな、と思う。
この子達が学校に通ってくれている間は、自分も一緒に楽しい日々を過ごせるのに違いない。
そしてつつがなく授業が終了した後の学校の実験室――
リーリエは早速新しい『封魔の水』を使ってポーション作りを試す事にした。
ユーリエはアイリンに教えてもらった薬の材料を備品の中から探している最中で、リコは昨日の続きでゴーレムの制御盤に組み込む魔術紋を書き取りしている最中だった。
二人とも自分の作業の手を止めて、リーリエの方に注目する。
もちろんアイリンも、三人に付いて様子を見守っていた。
「よーし、ポーション作るよ~!」
「頑張れ~リーリエ!」
「これで成功したらもう自由研究終わり? いいなー遊べるじゃん!」
「へっへ~! 大丈夫だよ、終わったら手伝ってあげるから」
「やったー! じゃあ頑張って成功して!」
「リーリエちゃん、十分注意してね。昨日みたいに蒸発するかもしれないから」
「うんわかった。じゃあ――行くよ!」
リーリエは一つ大きく息を吐き、『封魔の水』に指先を浸す。
そして愛と水の神アルアーシアの治癒術を発動した。
前と同じく、『封魔の水』自体が柔らかな光を発した。
「……」
前回はここで水が蒸発してしまったが――?
リーリエは少し身構えながら様子を伺う。
やがて、光は収束して薄まって行き――
ボゴッ! ボゴボゴボゴボゴッ!
いきなりどす黒く変色し、ぐつぐつ煮立ったような音を立て始める!
「!? え、ええぇぇぇぇっ!?」
リーリエはびっくりして手を引っ込めたが、黒いボコボコは瓶の中で止まらずに蠢いていた。
「うわぁ何ソレ凄い体に悪そうな色してる!」
「な、何これ……!?」
「ね、ねえユーリエ、ポーションってこんな変な色してるの?」
「ぜ、絶対違うわよ! 何かおかしいわよ、これ! アイリンさん、これは何……!?」
「ご、ごめんなさいごめんなさい! わたしにも何が何だか――! と、とりあえずそれはそこに置いて、少し離れて様子を見ましょう……!」
リーリエはどす黒い液体の入った瓶を置き、その場を離れる。
実験室にいた他の生徒たちも、何事かと注目していた。
暫く遠巻きに眺めていると、ボコボコ煮立つのは収まって静かになった。
「し、静かになったね――?」
「だ、だね――ポーション出来たのかな……?」
「いや出来てないと思う……もっとこう、キラキラした色だと思うし――」
「と、とにかくわたしが様子を見てみるから、リーリエちゃん達はそこにいてね」
アイリンは意を決して、黒い液体の入った瓶に近づいていく――
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