表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/127

プロローグ1 最強の騎士

プロローグ1のみ三人称です。

次回分からは主人公の一人称となります。

 アクスベル王国は、スラナイ山地付近――

 王国軍所属、白竜牙騎士団は人里離れたかの地に展開していた。

 白竜牙騎士団は大国アクスベルの騎士団の中でも序列一位。

 最精鋭と呼ばれる騎士団である。

 その精鋭の騎士達は、王命を受けここに発生した魔物の討伐にやって来たのである。

 放っておけば周囲の人里に深刻な影響を及ぼす。

 国内の魔物の駆除も騎士団にとっては大事な務めである。


「怯むなッ! 団長が到着なされるまでに片付けるぞッ!」

「たまには俺らの力を示し、団長にはご安心頂こうぜぇ!」

「ですが無理は禁物です! 負傷者の退避は最優先で!」


 不在の白竜牙騎士団長の代わりに、三人の副団長達が部隊の指揮を執っている。

 若く麗しい赤髪の女騎士――レティシア・レンハート。

 剃り上げた頭の筋肉の塊のような巨漢――バッシュ・ボールドル。

 やや線が細いが頭の切れそうな金髪の青年――セイン・セラヴィス。


 いずれも一流の実力を持つ騎士達である。

 彼ら三人がいれば、団長が不在でも騎士団の作戦行動は可能だ。

 団長は王都での式典があり、今回の討伐には遅れて合流することになっていた。


 彼の手を煩わさぬよう、レティシア達は到着前にカタを着けるつもりだった。

 そしてそれは、現実のものとなりつつある。

 このあたりに巣くっていた魔物は。粗方全滅している。

 今回は経験の浅い者の訓練も兼ねるため、実力の高い経験豊富な騎士達は後詰に置き、若手を前面に立てている。

 それでも、流石は最精鋭の白竜牙騎士団に入る程の者達だ。

 何の問題もなく魔物達を制圧して行く。頼もしい若手達である。

 レティシア自身まだ十九歳であり、年齢で言えば間違いなく若手なのだが。

 ちなみにバッシュは四十代。セインは二十代の後半である。


「どうやら、団長にお預かりした者達を一兵も損じる事無く帰れそうだ――」


 レティシアは満足そうにそう呟いていた。

 が――突如、大きく地面が揺れ出した。


 ドドドドドドド――!


 それは、地中から何かがせり出してくるが故の振動だった。

 人を遥かに上回る巨体を露にしたのは、黄土色の表皮を持つ巨大なドラゴンだった。


 ギャアアアアアァァァン!


 巨大な咆哮が、空気をビリビリと震わせた。

 数多の魔物の中でも最強最悪の種族。それがドラゴンである。


「――なっ!? 地竜(アースドラゴン)! こいつが潜んでいたのか……!」

「これに引き寄せられて、雑魚が集まってたんだな……!」

「いけない、隊列を組み直しましょう!」


 セインの言う通りである。

 今最前線に立つのは、騎士団の中では比較的経験の浅い弱い騎士達だ。

 ドラゴンほどの魔物は、全力を尽くさねば討ち取れない。

 並の騎士団なら半壊――いや敗走もあり得る。

 そんな醜態を晒して団長に期待外れだと思われたくは無い。

 それに、部下の命は出来るだけ守るのが指揮官の務めだ。


「……私が前に出る――! バッシュとセインは指揮を続けてください!」

「いや俺も出るぜぇ。剣姫レティシアちゃんのお顔が傷ついたら、悲しむ男どもが多いからなぁ」

「そんな事、どうだっていいでしょう。女だって国と人々のために戦います」

「いや済まねえ、自分より若いのに早死にされるのは嫌なんでな」


 バッシュが剃りあがった後ろ頭を掻いて見せる。


「そういう事なら、共に戦いましょう」

「ああ――!」


 自分とバッシュが協力すれば、地竜(アースドラゴン)とて倒せないわけではない。

 団長から預かった部下達は自分が護って見せる。

 そうすれば――少しは団長も褒めてくれるだろうか。

 その位のささやかなご褒美は、期待してもいいだろうか。

 これから命を張るのだから。

 そんな風にレティシアは思うのである。


「じゃあセイン、指揮をお願いします!」

「分かりました――!」


 と――


 ビュウウウウゥゥンッ!


 突如その場に突風が吹いた。

 超高速でやって来た何かが放つ風圧だ。

 その何かとは――白竜牙騎士団の騎士にとっては言わずもがなだった。

 突風と共に副団長達の前に、一人の青年が降り立っていた。


 年の頃は二十と少々。正確には二十二。

 引き締まった、均整の取れた体つき。

 濃い茶色の髪。深い青色の瞳は何の感情も感じさせないような、捉え処の無さである。

 かなりの無表情で、口数も多くないのである。顔立ち自体は、整っているのだが。

 だがそれを、謎めいていて素敵だと言う王侯貴族の淑女も多い。

 アクスベル王国白竜牙騎士団長かつ筆頭聖騎士――エイス・エイゼルである。

 聖騎士というのは、各騎士団を率いる騎士に与えられる称号である。

 最精鋭の白竜牙騎士団を率いるエイスは、すなわち筆頭聖騎士になる。

 それはこの国で最強の騎士であるという事も意味する。


 いやこの国どころか――

 アクスベルの至宝と言われ、数々の戦場や魔物の討伐で常勝無敗。

 国王をしてエイス一人いれば万軍に勝ると言わしめた、王国史上最強の騎士なのだ。

 この歳ながら武勇伝、英雄譚は数知れず。

 一人で千人の兵を倒したという程度の話なら、枚挙に暇がない。

 エイスの存在故に、他国がアクスベルへの侵攻をタブー視するほどなのだ。

 軍神、守護神、救世主。彼を呼称する表現は多い。

 今までも、そしてこれからも――


「……すまん。遅くなった」


 エイスはぼそりと、静かに告げる。


「だ、団長――! お帰りなさいませ!」


 レティシアはその場で膝をつき、深々と礼を取ってエイスを迎えた。

 彼女にとって、エイスは絶対的な尊敬の対象なのである。


「ああ……あれは?」


 と、エイスは地竜(アースドラゴン)に視線を向ける。

 すでに動き出し、こちらに迫ろうとしている。


「突然現れたんでさぁ。ついさっきね」

「で、あれを使ってこれから訓練か?」

「い、いえ――流石に地竜(アースドラゴン)は危険過ぎます。人的被害が出ないようにと考えていた最中で――」


 とのセインの言葉に、エイスは頷く。


「なら、あれは俺が倒していいか? それが一番安全だ」

「は、はい、団長!」


 セインに続きレティシアもバッシュも頷く。

 部下達の了解も得たので、エイスは無造作に地竜(アースドラゴン)の前に出る。

 それを配下の騎士達は、食い入るように見つめていた。

 これから見られるのだ――エイス団長の人知を超えた神技、絶技を。

 それを見逃すまい。そして盗めるものは少しでも盗もうと。

 その向上心は、大変結構な事である。

 彼らに地竜(アースドラゴン)を任せる事も不可能ではないだろう。

 が、被害が出そうな上、時間がかかり過ぎる。

 時間――エイスには、それが何よりも大事だ。

 何故なら――


(よし! 今すぐ倒して全力で戻れば……あの子達の寝る時間に間に合うッ! 何日かぶりにお休みなさいが言えるッッ!)


 あの子達とは、エイスが引き取って育てている姪っ子達の事だった。

 他界した姉の子で、双子の姉妹なのだ。

 あの天使たちとの時間を得るためなら――

 地竜(アースドラゴン)などいくらでも屠ってくれよう。


 無造作に近づいてくるエイスに、地竜(アースドラゴン)は馬鹿にするなと怒りの咆哮を上げる。


 ギャオオオォォ……ォ――


 咆哮が尻切れトンボになる。

 それもそのはず、途中で首が落ちたからだ。

 一瞬にして、エイスが巨大な地竜(アースドラゴン)の首を刎ねていた。

 見ていた騎士達は精鋭だが、殆どの者は一筋の光が走ったように見えただけだろう。

 それほどに、エイスの絶技は常人とかけ離れていた。

 さらに複数の光が走ると地竜(アースドラゴン)の体がバラバラに崩れ落ちた。


「ん……片付いたな」


「「「「おおおおおおおおおおっ!」」」」


 配下の騎士達から歓声が上がった。


 戦士の神フィールティの技能(アーツ)である身体強化術【気装身(アグレッサー)】。

 剣神バリシエルの技能(アーツ)である高速剣技【神閃(ディバインスラッシュ)】。

 自由と風の神スカイラの高速移動用魔術である【風纏(ウィンドコート)】。

 愛と水の神アルアーシアの武具強化魔術である【猛き祝福(ウェポンブレス)】。

 それらの力の複合剣術なのだが、威力の程は御覧の通りだ。

 複数の神の技能(アーツ)や魔術を使うなど、常人では考えられない。

 それを四つもなど、突き抜け過ぎて完全に人外の領域だ。怪物じみている。


 技能(アーツ)や魔術は、各人が加護を受けた神に属するものが使用可能となる。

 神とは擬人化された高次の存在であると共に、世界を構成する最も根源的な真理だ。

 力の法則や構成そのものなのである。人はそれを神と呼んだのだ。

 神の加護の証は、生まれつき各人の体のどこかに現れる守護紋(エンブレム)だ。

 それが、人の才能であり適性であるとも言える。

 例えば戦士の神の加護を受けた者は戦いに向く。

 自由と風の神の加護を受けた者は早く移動する魔術に適性がある。


 ただ、圧倒的大多数の人間は神の加護をいずれか一つしか持たない。

 天才と呼ばれるものでも、二、三個。

 それをエイスは――現存すると言われる二十六柱の神全ての加護を持ち合わせていた。

 どういうわけか、生まれた頃から――である。

 故に様々な能力の掛け合わせが可能。

 そして、その結果は圧倒的であり人外の領域。

 生ける奇跡――

 全ての神に愛された者――

 エイスのことをそう呼称する者もいる。


「団長お見事です!」

「ふぃ~相変わらずデタラメな腕前ですなあ」

「この目で見ないととても信じられない出来事ですからね……!」


 色めき立つ副団長達に、エイスは無表情で告げる。


「みんな、済まないが後始末を頼めるか? 皆を率いて王都に帰還するように。俺はこの後急ぎの用事があるんだ」


 副団長の三人は、エイスが急ぐ理由が分かっていた。

 早く家に帰って、娘たちとの時間を取りたいのだ。

 だから、文句を言わずに承諾する。


「「「了解しました!」」」


「ありがとう。ではな――!」


 ビュウウウウゥゥンッ!


 また突風のような速さでエイスは王都方向に去って行った。

 全身全霊の、速度で。

 エイス程になれば、急ぎの移動に馬など不要。

 むしろ遅くなってしまう。自力で移動した方が早いのだ。


(待っていろ二人とも! 俺は! 必ず! 君たちに! お休みなさいを言うッッ!)


 アクスベル王国の平和は、今日もこうして守られているのだった。

面白い(面白そう)と感じて頂けたら、ブクマ・評価等で応援頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ