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ドラゴンさんのセカンドライフ  作者: いくさや
第三章 衣食住を整えるドラゴン
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98 ドラゴンさん、次の部屋に入る

 98


「あった」

「ふふふ。わたし、天才ですからね!」


 とっても大きな滝の音で僕にしか聞こえていないけど、シアンが胸をはっている。

 いつもの自信満々な笑顔がまぶしい。

 それにしても、音がうるさいなあ。


 滝の音は下に行くと大きくなった。

 どうしたんだろうって思っていたけど、洞窟から出たらよくわかった。

 滝の下は池みたいになっていて、落ちてきたがそこにぶつかって大きな音をたてていたらしい。

 そのせいで、ここは霧っぽいのが出ていて、ちょっと上よりも寒い。


 ぶるるると体をふるわせたノクトがつぶやく。


『一度で成功とはやるじゃない』

「当然です。この天才のわたしが見つけたんですからね!」


 僕たちは近いという下の方の扉に向かった。

 最初に近くのモンスターを倒しておいたからあまりモンスターにも襲われなくて、とっても簡単だ。


「探知魔導はわたしに任せてください! どんな場所に隠されていても見つけますよ!」


 それにしてもシアンはどうしてさっきから僕を見上げながら話しているんだろう?

 目が合うとじぃーっと見つめてくるのを、見つめ返しながら首をかしげる。


「アニキっ! 次の部屋はどんなっすかっ!?」


 滝の音に負けないようにトントロが叫んでいる。

 でも、僕にしか聞き取れていないだろうなあ。

 僕がしゃべっても聞こえないと思うし、まずは扉に入っちゃおうか。


 ノクトに目を向けると、なぜかため息をついて、それから小さくうなずいた。


『そうね。そうしましょう。ほら、シアン。むくれていないで動きなさい』

「む、むくれてなんかいません! わたしはただ頑張った人には正当な評価と報酬があってしかるべきであると!」


 シアンがむずかしい事を言っている。

 よくわからないけど、まずは大きな声を出さなくても話せるように扉に入ってしまおう。

 僕はシアンの手をにぎって、反対の手でトントロとピートロを持ち上げる。

 そして、そのまま扉に入った。


「――レオンはほんっとうに強引なんですから! こ、こんな事で誤魔化されてなんかあげませんからね!? こういう時はそっと肘を差し出してエスコートしてください! そ、そうしたらわたしも腕を組んであげて……!」

「アニキ! また、まっくらっす! 次はどんな部屋っすかね!? たのしみっす!」

「川に、滝でしたね。次も水場でしょうか?」


 おお。

 滝の音がなくなって聞きやすい。

 バラバラにしゃべっているのがちゃんと聞こえる。

 みんなもそれに気づいたみたいで、暗くなったまわりを見回していた。


『それで、レオン。次の部屋はどうかしら? ピートロの予想通り水の関連かしら?』


 一匹だけ落ち着いていたノクトに聞かれて、道の先をじっと見つめる。


 暗い道の向こう。

 水、じゃない。

 水っぽいけどちがう。


「雨? ううん。水に似てるけど、これはちがうのだ。冷たくて、静かで……」

「雨、水に近い、冷たい、静か」

「それって……雪か氷でしょうか?」

『でしょうね。雨と言っているなら、前者かしらね』


 ああ、雪。

 それだ。

 寒くなると、空から白いふわふわがふってくる。

 もっともっと寒いと、地面が白のふわふわでいっぱいになって、いろんなのが動くのをやめて静かになるんだ。


「うん。雪がいっぱいだよ」

『まったく、きつい環境が連続するわね』

「断定はできませんが、ピートロの言う通りそれぞれのルートに傾向があるのかもしれませんね」

「だとしたら、この水場のルートはわたくしたちには都合がいいですよね。他の冒険者の方がいないです」


 そういえば、川の時からずっと他の冒険者を見ていない。


「余程、不人気なんでしょうねえ。まあ、他にもエルグラド家の私設戦士団がいるから、冒険者が敬遠しているというのもあるのでしょうけど」


 シアンが苦い顔をしている。

 やっぱり、エルグラドの人を思い出すといやな感じになるみたいだ。


 同じ中層で冒険しているらしいけど、その人たちはどこまで行っているんだろう?

 他の冒険者の人から道を教えてもらって、先に進みやすい方を行っているんだっけ。

 僕たちと同じぐらいから冒険しているなら、もうずっと先にいるのかもしれない。


「ま、考えても仕方ありませんね」

『そうね。じゃあ、外に出たらすぐに防寒具を出すから、全員しっかり着こみなさい』


 寒いと人と動物は動くのをやめちゃう。

 シアンたちはぬくくしないといけない。


 僕は……へいきかな。

 どんなに寒いと思ってもガマンできるし、トールマンから買ったコートは魔力を通すと強くなるし、あったかくなるからね。


「しかし、雪とは困りますね。探知魔導がうまく使えるかわかりませんよ」

『雪が探知に引っかかると、情報を処理できないものね。できたとしても、滝の時とは比べ物にならない難易度になるわ』

「まったく、この天才を試してくれますねえ。けど、探すのは扉ですから。雪のような小さな物は探知から除外すれば……」


 シアンとノクトがもう雪対策を考え始めている。

 ふと、抱き上げているトントロとピートロの体を固くしているのに気づいた。


「トントロ? ピートロ?」


 二匹はおたがいに抱きついて、ぷるぷるふるえている。


「さむいの、ダメっす。兄弟、いなくなったっす。ピートロ、オイラからはなれちゃダメっすよ?」

「そうだね、お兄ちゃん。うん。お兄ちゃんと一緒にいるからね」


 なんだか、寒いのにいやな思い出があるみたいだ。

 僕はしっかりと二匹を抱きしめた。


「だいじょうぶ。トントロとピートロは僕が守るから」

「アニキ……」

「アニキ様……」


 思い出すのは『あの人』の事。

 大切な人がいなくなってしまうのは悲しくて、さみしい。

 だから、いなくなってしまわないように僕ががんばるんだ。


「アニキ様もつらい事があったのですね」

「うん。でも、今はみんながいるから、へいき」


 ピートロが僕の腕を抱き返してくる。

 ぬくい感じがしてほっとした。


「……うっす! オイラも守るっす! みんな、守るっす! 寒いのなんて怖くないっす! へっちゃらっす!」


 トントロがやる気だ。

 腕の中で短い手足をバタバタさせていた。

 もう、さっきまでのおびえた感じがなくなっている。


「うん。トントロが守ってくれると安心だ」

「うっす! オイラ、やるっすよ!」

「なんだか、盛り上がっていますねえ」

『そろそろ行くけど、心の準備はできたかしら?』


 もちろんだ。

 僕たちはうなずき合って、ゆっくりと暗い道を歩き始めた。

 もう何度も歩いているから慣れた感じだ。


 そうして、すぐに景色がまっ白になった。


「わっ、寒い」


 通り抜けていく風が冷たい。

 ぶるりと体がふるえてしまう。


「ひゃあ、これは想像以上です! ノクト、防寒具を! 防寒具をお願いします!」

『はいはい。ほら、シアンにはコート。トントロとピートロにはとりあえず毛布よ。レオンもコートに魔力を流しなさいな。そうしたら、他の子も寒くなくなるから』


 言われたようにコートに魔力を流すと、それだけでふわりと寒いのが遠くなった感じがする。

 みんなもノクトが出してくれた服や毛布をかぶり始めた。


「白い」


 雪が降っている。

 見上げた天井には灰色の雲。

 その向こう側にはうっすらと光る水晶が見えかくれしていた。


 辺りはぜんぶが白色だ。

 地面も、木も、雪にうもれて、ぬりつぶされている。

 見渡したどこもかもが雪だらけ。


『雪原の部屋ね』


 ノクトのつぶやいた声が、雪に飲み込まれていった。

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