97 ドラゴンさん、滝の部屋を攻略する
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四回目の滝の部屋。
扉の前を流れ落ちていく水。
そこに変な感じはしない。
『大丈夫なようね?』
「うん」
ノクトに聞かれてうなずくと、皆もうなずいた。
変な感じがあったら戻る。
なかったら進む。
それが決めたルールだけど、昨日もその前の日もなかった。
まず、僕たちはこの間と同じように近くの洞窟に向かう。
いつもならそこでピートロの魔導でモンスターを集めるんだけど、今日はシアンが魔導の準備を始めた。
川の部屋の時と同じだ。
シアンが探知魔導で扉を探してくれる。
前の雨の魔導よりも時間がかかるみたいで、その間に近寄ってくるモンスターを倒すんだけど。
「これ、すごいなあ」
上からわさわさとやってきていた灰色の草っぽいの。
十匹ぐらいをまとめて切り飛ばした。
魔力の剣はすーっと抜けていく。
トントロからもらったドラゴンシャフト。
剣の形にして振り回すだけでどんどんモンスターを倒せてしまう。
長いから遠くの敵も倒せるし、僕が少し力を入れたぐらいじゃ折れそうにない。
『レオン、下から来るわよ』
ノクトに言われて下を見ると、デミドラが三匹ものそりのそりと上がってくるのが見えた。
よし。
あれをやってみよう。
僕は魔力といっしょに生命力も剣に流してみると、赤い光がもっと強くなって、それからぐうっと重くなっていく。
うん。なんか、いけそうだ。
僕はそのままデミドラたちに向かってドラゴンシャフトを振るう。
闘気法――竜撃:圧海竜『真竜の重爪』
足元の景色がぐらりとゆがんだ。
それといっしょに水とか、空気とか、石とかがぐっと下の方向に落ちていく。
デミドラもだ。
重いのにつかまったトカゲが崖からはがれて、滝に落ちて見えなくなった。
「おー、できた」
『レオン、今のは闘気法じゃないかしら?』
「うん。体の中で使うとケガしちゃうから、こっちでやってみた」
ドラゴンシャフトもへいきみたいだ。
これならドラゴンっぽくなっていなくても、ケガをしないで闘気法を使える。
『……本当にデタラメな事をさらっと』
「すごいっす! アニキ、すごいっす! よくわからなかったけど、なんだかすごいっす!」
「アニキ様もお兄ちゃんの魔導装備も、本当にすごいです。わたくしも負けないように頑張らないと!」
てれる。
うれしくてもっとがんばろうってなるね。
三匹といっしょにモンスターを倒して、ちょうど近くのはいなくなったかなって思っていると、トンと背中に何かが当たった。
ふりかえると、ほっぺをふくらませたシアンだ。
杖にたくさんの魔力を流して、魔導の準備をしていたはずだけど、どうしたんだろう?
「シアン?」
「………」
聞いてみるけど、シアンは魔導に集中しているせいで話してくれない。
さびしく思っていると、ノクトが肉球でぺしんとシアンのおでこをたたく。
『仲間はずれなんかしてないわよ。気になるなら早く魔導を完成させなさいな』
なんだ、シアンもさびしかったんだね。
うん。
シアンだけ魔導の準備をしていて一人だったもんね。
よくわかる。
こういう時はどうすればいいんだろう?
抱きしめてあげればいいかな。
『こら、おもむろに手を広げて近づかない。魔導の準備中に術者の集中力を乱さないの』
ダメらしい。
近づく前にノクトにしかられてしまった。
なんとなく、シアンもがっかりしているみたいに見えるんだけど、ダメなの?
ダメか。
ざんねん。
そうやっている間にシアンの魔導の準備が終わったみたいだ。
杖を持ち上げて、僕たちに目で合図をしてくる。
『近くのモンスターはいなくなったわね。全員、シアンの近くに集まりなさい』
僕は滝の音で声がよく聞こえていない二匹を持ち上げて、シアンの後ろにまわった。
それからシアンが魔導を放つ。
「点・分散展開-200・水属性――霧中探知」
魔導の感じはこの前の雨とそっくりだ。
けど、あの時より魔力の量が多いし、それに……雨じゃない。
『霧ね』
杖の先から白いもやもやみたいなのが流れて広がっていく。
じっとよく見てみる。
ちいさな、ちいさな、ちいさな水の粒。
そんなのが、ふたつに分かれて別の粒になって、分かれた粒がまた分かれて、またまた分かれてってくりかえして、どんどん広がっているんだ。
すぐに辺りが見えづらくなってしまった。
僕はしっかり見ようとすればだいじょうぶだけど、トントロとピートロはあぶないかもしれない。
腕の中のぬくいのをしっかりと抱きしめておく。
「おー、白いっす! まっしろっす!」
「霧なんて……シアンのアネゴ様、すごい制御力です」
白いのは霧というらしい。
シアンの霧は風に流されたりしながら広がっているみたいだ。
滝と崖の間を上と下にのびて、洞窟の中に入り込んで、あっちこっちの事をシアンに伝えている。
「……っつ、重い、ですね」
『集中なさい。大切なのはイメージよ。この前の波紋じゃなくて、これなら土に広がる水たまりかしら』
「なる、ほど」
みじかいやりとり。
雨の時よりも大変なのか、シアンはおでこに汗をかいている。
それでも、シアンは魔導をしっかりと最後まで使い続けた。
しばらくすると、スッと杖をひとふり。
それだけで霧がうすくなって消えていった。
「……ふたつ、扉を見つけました」
『よくやったわ』
ノクトがシアンの肩に下りて、体をスリスリしてあげている。
僕も背中に手を当てて、体を支えてあげた。
二匹もシアンの足にしがみついて、手伝ってくれる。
「ふふ、大丈夫ですよ。わたしは天才ですからね。探知も二度目となればコツを掴んでいますから。まあ、みんなの気持ちを無下にはできませんから、続けても構いませんがね!」
ダメじゃないらしい。
なら、このままでいいよね。
ノクトだけはため息をついてから、ぺたんとほっぺに肉球を押し付けた。
『強がるなら休みはあげないわよ?』
「ふふん。わたしは必要ありませんよ。けど、モンスターと戦ったレオン達は休んだ方がいいんじゃないですかね? ええ、わたしは必要ないのですが、万全で次の部屋に行きたいじゃないですか?」
別につかれてないよ?
そういとうと思ったけど、ピートロが何度もうなずいているから休んだ方がいいみたいだ。
僕たちは洞窟の中に座って休みを取る事になった。
ノクトの出してくれた布の上に座って、ちょっと早いお昼ご飯にする。
出る前にシアンとピートロが作ったサンドイッチを食べていると、ノクトがシアンに話しかけた。
『それで扉はどこだったのかしら?』
「上と下の壁にひとつずつですね。どちらも同じぐらいの距離ですが、下の方が近いでしょうか。ここと同じ洞窟をみっつ通った先の行き止まりにありました」
崖の途中とか、洞窟の中ではなかったみたいだ。
さっきの霧で洞窟の中まで調べたみたいで、シアンは道もわかるらしい。
すごい。
それなら後はモンスターを倒しながら進むだけだ。
「さあ、次の部屋に行ってみましょうか」




