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ドラゴンさんのセカンドライフ  作者: いくさや
第三章 衣食住を整えるドラゴン
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91 ドラゴンさん、川の部屋で攻略する

 91


 次の日。

 朝早くに帰っていったマリアとおじさんたちを見送って、僕たちは中層に向かった。

 もう上層のモンスターも階層主も簡単に倒せるから、どっちかっていうと、他の冒険者と会わないようにする方が大変なぐらいだった。


 そうして、いつもの川の部屋にやってくる。

 この四日、僕たちは決めた方向にだけ進んで、モンスターと戦って、何も見つけられないで帰っていた。

 けど、今日はちがった。


 僕たちの前に立ったシアンがビシッと天井を指さす。

 そのまま僕たちの方をチラッと振り返って、宣言した。


「さあ、今日からは本格的に攻略しますよ!」

「おおー」

「シアンのアネキ、カッコいいっす!」


 僕とトントロがパチパチと手を叩くと、とてもうれしそうにうなずいている。

 どうやら、今ので正解だったみたいだ。


『まったく、すぐ調子に乗るんだから』

「でも、シアンのアネゴ様は何か考えがあるみたいですよ」


 ノクトを腕に抱えたピートロにシアンがうなずく。


「ええ。昨日、ゲンダーさんから教えてもらった魔導を使います。少し集中しますので、その間のモンスターは頼んでもいいですか?」

「うん。まかせて」


 今日の僕は今までとちょっとちがう。

 新しい剣をガルズのおじさんからもらったし、トントロが夜遅くまでがんばって作ってくれた新しい魔導装備もある。

 どんなモンスターが来てもへっちゃらだ。


 僕は剣を抜いて、シアンみたいにビシッと天井に向けてみた。


「アニキ、カッコいいっす!」

「うーん。確かにレオンは絵になりますねぇ。もう少し凛々しい顔をできれば完璧ですが……いえ、これもレオンのよさかもしれませんし……」

『遊んでないでやるならさっさとやりなさいな』


 ふしゃーとノクトが怒ると、シアンはあわてて杖を胸の前で抱きしめた。


「では、いきますよ」


 何度かの呼吸でマナを集めて、魔力に転換して、ゆっくりと杖の先に移動させていく。

 いつもみたいにすぐに魔導を使わない。

 集中するって言っていたけど、どれぐらいかかるんだろう?


『モンスターの群れが来るわ。多いわね。氷精鋭魚アイスフィッシュが十四。上流からよ。下流からは首切り鋏蟹グレートシザーが五匹。それから寄生水連パラサイトフラワーが近くに浮いているから遠くに行かないようになさいな』


 ノクトが近くのモンスターを教えてくれた。

 おそってくるモンスターをトントロとピートロが倒して、間に合わなかった奴だけを僕がやっつける。

 ガルズのおじさんをマネして……。


「よっと」


 水の中から飛び出そうとしていた氷精鋭魚アイスフィッシュに剣を突き出す。

 自分から剣の先っぽに飛び掛かってきた透明な魚が刺さって、そのまま続けてやってきた三匹も同じようにして倒しておく。


「とっとっ、えい」


 少し遅れてやってきた首切り鋏蟹グレートシザーが見えた。

 こいつは硬い部分が多いから、そうじゃない部分を狙えばいいんだよね。


 変な動きを使って近づいて、首切り鋏蟹グレートシザーが僕に気づく前に、剣を隙間に通せば終わりだった。

 いじわるするのは悪い事かもしれないけど、戦う時は別。

 一番弱そうな場所を貫いた。

 それだけで大ガニは動かなくなる。


 そうして、僕たちがモンスターの群れを倒しきったところで、シアンが動いた。


ポイント分散展開ブレイク―50・水属性ブルー――雨降探知レインディテクション


 杖の先にできあがったのは大きな水の球。

 シアンが杖を天井に掲げるとそれはゆっくり浮き上がっていって、水晶に当たったところでパチンと割れてしまった。

 けど、そのまま水が下に落ちたりしない。

 水はぶわあっと天井に広がって、広がって、とっても広くにうっすらとなって、それから本物の雨みたいに降ってくる。


「わあ、きれいだけど」

「雨っす! ぬれるっす!」

「アニキ様、お兄ちゃん、こっちです」


 いつの間にか、ピートロが大きな布を広げて、それをシアンにかぶせていた。

 僕たちが大急ぎでその中に飛び込むのと同じぐらいに、辺りに水の粒が降り注いだ。


「……あ、終わった」


 雨に降られてもぬれない変な布を僕が支えて、しばらくすると雨の感触がなくなった。

 そっと顔を出してみると、元の景色に戻っていて、雨が降ったあとはどこにも残っていない。


「シアン、今のはなんだったの?」

「探知魔導です。今ので大体、二百メトルほどでしょうか。雨が当たった物の形を把握できる、のですが……」


 シアンがふらりと揺れて、僕はあわてて抱きしめる。

 腕の中のシアンは目をつぶって、それからゆっくりと深呼吸をしていた。


「魔導そのものの難易度は低いですが、手に入れた情報の方がきついですねえ。独特の感覚があります」

「だいじょうぶ? 背中、なでようか?」

「シアンのアネゴ! 気合を送るっす!」

「アネゴ様、霊薬を飲みますか?」


 二匹も心配そうにシアンを見上げているけど、ノクトはひょいっとシアンの肩に飛び移った。

 肉球をぷにっとおでこに当てて、静かに続ける。


『落ち着きなさいな。あなたなりに情報を処理すればいいのよ。そうね。雨の落ちた水面。それなら馴染みやすいんじゃない?』

「……雨、水面、波紋、ああ――なるほど」


 いい感じになったみたいだ。

 シアンの顔がどんどん落ち着いていく。

 さすがノクトはできる猫だ。


 しばらくすると、シアンは一人で立てるようになっていた。


「ふう。心配をかけてしまいましたね。もう大丈夫ですよ」


 けど、まだ顔色は悪い気がするから心配だ。


「本当? へいき?」

「ええ、ばっちりです。わたしは天才ですからね。もう慣れてしまいました。でも、レオンが不安だというなら、手を握ってもいいですよ?」


 うん。そうする。

 シアンの小さな手をやさしくにぎると、ひんやりした細い指がにぎり返してきた。


「まったく、レオンは仕方ありませんね!」

「シアンのアネゴ、うれしそうっす!」

「熱々です……」


 なんだか、シアンがどんどん元気になっていくみたいだ。

 今度は本当にだいじょうぶそうで、安心した。


『相も変わらず緊張感のない子たちね。それで、何かわかったのかしら? 今の魔導の気配でモンスターが集まってきているから、動くなら早くなさい』

「ええ。範囲ギリギリの場所に扉らしき感触がひとつありました。上流を正面に見た時、右斜め前に二百メトルです」


 すごい。

 四日間、見つけられなかった扉をシアンはもう見つけてしまったみたいだ。


『そう。それでどうする? 他にも扉はあるはずだけど』


 おじさんの話だと、いくつも先に行くための扉があるはず。

 見つけた扉に入ってもいいし、他の扉を探してもいい。

 ちょっと考えてから、シアンはさっき言った方を指さした。


「まずは扉に向かいましょう。この川を徹底的に探索するか、それとも先に進むか、レオンに見てもらってから決められますからね。地図は落ち着いてから書くとして、途中で集まってきているモンスターを倒しながら行きます」


 マナを魔力に転換していくシアン。

 だけど、魔導を準備する前に僕を見上げてくる。

 こまったみたいな顔で、手を持ち上げた。


「どうしたの?」

「あの、手を握ったままだと戦えないのですけど……」


 なるほど。

 たしかにその通りだ。

 でも、僕はシアンの手をにぎっていたい。


 それなら……。


『だっこするとか言わないのよ。自分で歩かないとシアンが成長できないんだから』

「うっ」


 ノクトに先にしかられてしまった。

 頭がいいノクトには僕の考えている事が見えているみたいだ。


 わがままを言って、シアンたちをこまらせちゃダメだよね。


「うん。じゃあ……」

「え、レオン、何を――!?」


 放した手をシアンの肩に回してから、ぎゅうってする。

 生命力をそうっと移してあげて……これで安心だ。


 離れると、シアンは顔をまっかにしている。

 元気そうだけど、あれ?

 ふるえているのはどうしてだろう?


「シアン? いやだった?」

「や、やや、やだって事はありませんが! もう! レオンはもう! 草食系の皮を被った肉食ドラゴンなんですから!」


 うん。

 お肉、好きだよ。

 でも、どうして今そんな事を言うんだろう。


 僕が首をかしげていると、シアンはぷいっとあっちの方を向いてしまった。


『まったく、本当に緊張感が足りないんだから。ほら、モンスターが来てるわよ、シアン。その照れやら恥ずかしさはモンスターにぶつけなさい』

「っ、別に! 別にわたしは照れてなんかいませんけどね! ええ、けど、モンスターはわたしが倒して見せましょう! ええ、盛大に!」


 その後、とってもやる気になったシアンがモンスターの群れを一撃で倒して、僕たちは次の部屋に進むための扉にたどり着くのだった。

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