90 ドラゴンさん、夜ご飯を食べる
前話は予約投稿をミスしていたみたいです。
すみませんでした。
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「アニキ! 魔導装備、できたっすー!」
「アニキ様! これ、わたくしが初めて作った霊薬です! 見てくださいますか?」
隠れ家にもどったらトントロとピートロが飛びついてきた。
トントロは布の服を持っていて、ピートロは石の器を持っている。
二匹ともとってもうれしいみたいで、短いしっぽがぴょこぴょこ揺れていた。
「この服を強化したっす! とっても強いっす! あと、大きさも変わるっす!」
「こちらの霊薬は体力を回復してくれるんです! シアンのアネゴ様が疲れてしまった時、きっと役に立ちます!」
次々に教えてくれる。
二匹がおじさんたちと作り始めたのがお昼で、今はもう夜。
その間にできてしまうなんてすごい。
僕は二匹の頭をなでながら、素直にほめてあげる。
「トントロとピートロもすごいね。僕はおじさんに勝てなかったよ」
「そんな事ないっす! アニキの方がすごいっす! こっちから見てたっす!」
「はい。アニキ様がどんどんお強くなられているのがわたくしにもわかりました」
二匹がガルズのおんじさんを見上げると、おじさんはつかれた顔でうなずいた。
「ああ。強くなったぜ。自信を持っていい」
よかった。
おじさんの動きはどんどんわかるようになったし、僕もできるようになったけど、負けてしまった数の方が多かったから。
せっかく、教えてくれたおじさんがガッカリしてしまったんじゃないかと思ったんだけど、できていたみたいだ。
「アニキ、これを着てほしいっす!」
「うん」
トントロがピョンピョンととびながら持ち上げた服を受け取る。
ただの布の服に見えるけど、僕のコートと同じ感じがした。
さっそく、服を脱いだ。
「きゃっ! アニキ様、大胆です……。あ。体、すごい……」
「ピートロ、見ないようにできてないっすよ?」
「あわわ。お兄ちゃん、違うの。見てたんじゃないの。見えちゃったの。アニキ様の体に見とれていたんじゃないの」
「そうっすか? でも、アニキはかっこいいっす! 見とれるっす!」
「も、もう! お兄ちゃんったら、もう!」
二匹が何か言っているけど、気にしないで服を着る。
「む。待つ。まだ」
「えっと、魔力を流して、と」
ちょっと大きすぎるかなって思ったけど、魔力を流してみると服が小さくなってきた。
ただの布みたいだったのも、なんだか強い感じになっている。
硬いのとは違って、なんだろう。もこもこふんわり……あれ?
「なんだか、どんどん小さくなって……」
魔力を止めたのに、服はどんどん小さくなっていく。
腕の部分が短くなって、なくなって、下の方もお腹が出てしまって、胸の辺りもぎゅうっと締め付けられて、それから首回りもぐえっとなる。
「あれ? 苦しい?」
「アニキ!?」
「アニキ様!?」
「あんちゃん、大丈夫か!? おい、トントロの坊主! いや、ギーグル! 止めろ止めろ! あんちゃんが絞め殺されるぞ!」
ピートロとガルズのおじさんが服を引っ張るけど、ちっともゆるくならない。
おじさんたちも混ざるけど、服は小さくなっていくばかり。
ああ、強くなった布の服だからがんじょうなんだね。
どうやら初めてのトントロの魔導装備はダメなところがあったみたいだ。
「破る!」
「ダメだ! 魔力が強すぎるんだ! 魔導装備の力を超えている! どんだけ魔力を流したんだ!?」
んー。初めてトントロが作った物をこわしちゃうのはやだな。
僕は生命力で体を強くする。
それから魔力はピッタリ止めた。
そうすると、小さくなっていく服の締め付けに負けない。
「お、おい、あんちゃん?」
「へいきー。ちょっと苦しいけど……あ、小さくなるの止まったよ」
魔導装備は魔力を入れないと使えない。
最初に僕が流した魔力がなくなったみたいで、小さくなるのが終わったみたいだ。
僕はやぶいてしまわないように、小さくなった服をそっと脱いだ。
「あー、びっくりした」
「いや、びっくりって……うお、傷ひとつねえ。今のかなり酷い事故だったよな?」
「圧縮していく拘束着とか、拷問具というか処刑器具だよなあ」
「だがぁ、効果はすごいぃ。魔力の分だけぇ、強くなるならぁ、あんちゃんにはぁ、ぴったりだぁ」
僕のぬいだ服を手にしたおじさんたちが言い合っている横で、トントロはギーグルのおじさんにゴツンとやられていた。
わりと強く叩いたみたいで、いい音が鳴った。
頭をおさえようとして、手が短くて届かないでいるトントロの目はいまにも泣きそうだ。
「トントロ。まだ、ダメ」
「ごめんっす! オイラ、よろこんでもらいたくって!」
「謝る。あっち」
トントロが僕に突進してきた。
おなかに飛び込んでくるのを受け止める。
「アニキ! ごめんっす! オイラ、オイラっ!」
「うん。次はがんばろうね」
失敗しちゃうのは仕方ない。
僕も何度も失敗して、シアンやノクトにしかられたから。
しかるのはギーグルのおじさんがやってくれたから、僕は応援してあげよう。
「アニキっ! オイラ、オイラ、アニキにふさわしい服を作るっす!」
「アニキ様! お兄ちゃんの失敗の分まで、わたくしが頑張りますから!」
「うん。楽しみにしてるよ」
トントロも元気になってくれたみたいだし、どうしてかピートロもやる気になっているみたいだからよかった。
「はあ。じゃあ、ちと休ませてもらうぜ」
おじさんたちはテーブルの周りに座っていく。
どことなく、おじさんたちはがっくりしていた。
「才能ってすげえな」
「事故、ダメ」
「だな。けどよ、才能は認めねえとな。ありゃあ、普通の魔導装備じゃねえぞ」
「んだぁ。未来はぁ明るいなぁ」
でも、おじさんたちの声は明るくない。
「お前らに触発されてよ。師匠の真似事してみたら、俺の技を全部盗まれちまった……」
「生命力、魔力、強大」
「一を聞いたら十どころか二十、三十まで学んで応用するとか、どんな天才だよ。基礎しか教えてないのにもうベテランレベルだぞ。俺が教えられる事なんてもうほとんどないんじゃないのか?」
「………」
ゲンダーのおじさんが三人の肩を叩いて回っている。
元気がないみたいで心配だ。
「はあ。これが上に行く冒険者なんだろうなあ」
「いい。踏み台。覚悟の上」
「まあな。未来の大薬師の師匠になれたんだ。光栄だと思うか」
三人はいっしょにため息をついた。
けど、今度はすぐに顔を上げた。
「ああ。あいつ、戦闘の天才だ。何も知らないように見えて、歴戦の戦士並みの引き出しを持っている。ありゃあ、ただたんに引き出しの開け方を知らない……いや、必要なかったから開けようともしていなかった、か? だから、ちっとつつけばあっという間だ」
「んむ。波長。持続。定着。抜群。百年。や、千年の天才」
「そいつは大したもんだ。あんちゃんもトントロも歴史に名前を残すかもしれねな。まあ、うちのピートロは薬師の歴史を塗り替えるレベルの真の天才だけどな!」
なんでか、空気がピシッと固まった気がした。
ガルズとギーグルとグラマンのおじさんがとってもイイ笑顔でにらみ合う。
「あ? うちのレオンは兄貴だぞ。一番に決まってんだろ?」
「トントロ。最高」
「はっ! 悪くはねえが、ピートロの可憐さには負けるな」
また、空気が固まって、それからパリンと割れた。
「「「あぁっ!?」」」
ガツンと三人が頭をぶつけあう。
まるでモンスターと戦うみたいな感じだけど、ゲンダーのおじさんだけは肩をひょいっとしていた。
「いい。次でわからせてやる。おい、レオン! 今度は剣じゃなくて槍だ! その後は斧も杖もナイフも教えてやる!」
「え、あ、うん。お願い」
「トントロ。武器。作る」
「うっす! アニキにふさわしい武器を作るっす! もう失敗しないっす!」
「嬢ちゃん! 霊薬の掛け合わせに興味あるだろ!?」
「うふふ。はい。ぜひ、教えてください」
おじさんたちに話しかけられて、僕たちはわけもわからないままうなずいた。
ピートロだけは優しく笑っているけど、きっとこれも悪い感じじゃないんだよね。
よくわからないけど、やっぱりおじさんたちは仲良しだ。
それに、またいろいろと教えてくれるみたいでうれしい。
『まったく、賑やかな事ね』
ノクトが音もなくテーブルにのっかる。
ちょっと遅れてシアンとマリアが台所からやってきた。
「三人とも順調でー、よかったわー」
「順調すぎて師匠が潰されそうに見えましたが、どうやら立ち直ったみたいですね。まったく、三人とも気を付けてくださいね。天才とは孤高な存在なんですから、周りを引きずってしまわないようにしないといけないのですから。そう、このわたしのように!」
そういえば、シアンもゲンダーのおじさんから絵のかき方を教えてもらっていた。
おじさんたちの中でゲンダーのおじさんだけは変わってない。
なるほど。
シアンみたいな天才はおじさんをヘロヘロにしてしまわないんだね。
「さすが、シアンだ!」
「ふふ。レオンはわかったみたいですね」
胸を張って笑うシアンはかっこいい。
「天才っつうかぁ、ありゃあぁ、努力家だがなぁ」
『あの子なりのモチベーションの保ち方なのよ。そっとしておいてあげて』
ノクトとゲンダーのおじさんが小さな声で言っているけど、シアンには聞こえてないみたいだ。
「ほら、ご褒美にこのビーフシチューを一口プレゼントしてあげましょう! ほら、あーんしてください!」
シアンがもっていたお鍋をテーブルにおいて、中身を僕に差し出してくれる。
ぱくっと口に入れるとお肉だ。
かむとやわらかいお肉からいろんな「おいしい」があふれてきた。
塩とかこしょうとか、バターとか、それからお肉といっしょについていたシチューにかくれていたお野菜の香り。
かむたびにおいしいが押し寄せてくるみたいで、飲み込んでしまうのがもったいないぐらいだ。
「アニキ……おいしそうっす!」
「お兄ちゃん、よだれ。ほら、拭くから動かないで」
「ふふふ。すぐによそうからー、トントロちゃんとピートロちゃんもー、座ってねー? ほらほらー、お姉さんのお膝の上とかお勧めだよー?」
椅子に座ったマリアが自分の足をポンポンとしている。
けど、その顔はとっても……そう、とっても邪悪だ。
濃い欲の臭いがする。
「うっす! オイラ、ギーグルのオジキの隣りに行くっす!」
「んむ」
「わたくしはグラマン様のお隣に。いいですか?」
「おう、来い来い。ついでに香草の使い方も教えてやんよ!」
二匹がビューっと反対側のおじさんたちの所へ走っていってしまった。
しょんぼりなマリアが僕を見上げてくるけど、その前にシアンが立つ。
「ダメですよ。レオンはわたしの隣と決まっていますからね!」
そうらしい。
シアンに手を引かれて椅子に座る。
マリアとの間にはシアンが座って、これで全員が座ってしまった。
「あー、潤いがー」
『欲望がダダ漏れ過ぎるのよ』
がっかりなマリアに、ノクトがため息をついて、それから全員を見回した。
『ギルドと『新月の灯』からの協力に感謝しているわ。今日はゆっくり休んで、また明日からよろしくお願いしてもいいかしら?』
「もちろんですよー」
「おう。師匠とは名乗れねえかもしれねえがな」
「ありがとうございます。じゃあ、冷めないうちに食べましょうか。どうぞ、召し上がれ」
最後にシアンがうなずいて、僕たちは夜のご飯を始めた。
さあ、明日からもダンジョンだ。
今日、覚えたのを使って、頑張らないと!




