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ドラゴンさんのセカンドライフ  作者: いくさや
第三章 衣食住を整えるドラゴン
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89 ドラゴンさん、剣の道を学ぶ

 89


 僕たちは隠れ家の外に出た。

 お家の近くは転移の魔導装置があるだけで、あとは他に何もない。

 だから、少し剣を振ってもだいじょうぶだ。


「ほらよ」


 ガルズのおじさんが投げてきたのは……木の棒。

 前の剣と同じぐらいの長さだ。

 同じのをおじさんも持っていて、肩の上にのっけている。


「で、剣を教えると言っても俺のは自己流でな。ちゃんとした道場のそれとは違う」


 よくわからなかったけど、ちゃんとしてないらしい。


「ちゃんとしないとダメだよ?」

「……そうかもなあ。そこいらが上に行けなかった原因なのかもなあ」


 なんだか、少し落ち込んでしまっている。

 けど、おじさんは木の棒をびゅっと振って、その時にはもう普通な感じに戻っていた。


「とはいえ、基本ぐらいは身についているからな。そういうのを、あんちゃんは見て、感じて、盗んでみろよ」


 と言った時には、もうおじさんは飛び込んできていた。

 ずっと見ていたのに、いきなり目の前に現れたように見える。


「ほらよ!」

「わっ!」


 上から振られた木の棒が頭に当たる。

 痛――くはない。

 けど、おどろいた。


「びっくりした」

「手加減したけどよ。本当に全然きいてねえのな……」


 今の動きは変な感じだ。

 そう、これはマリアの動きとかと似ていて、でも、それよりきれいだ。

 動くのに、動く感じがしなくて、動いたのに、動いたって気づくのが遅くなる。

 だから、びっくりしちゃうんだ。


「ったく。生命力で強化もしてねえのにその頑丈さか。とんでもねえな」

「えへへ」


 ほめられた。

 照れていると、おじさんはため息をついた。

 それからまた木の棒をスッと体の前で立てる。


「俺の教える剣は実戦方式だ。ただし、今回は生命力も魔力もなし。純粋に剣の技だけで戦うぞ」

「うん」


 つまり、この木の棒を剣だと思って、おじさんに当てればいいんだね。

 逆におじさんの木の棒には当たらないようにする、と。


「んじゃ、いくぜ?」


 って、また来た。

 気がついたらおじさんがすぐ横にいる。

 それも木の棒を振っている途中で、さっきより速い。


「えい」

「――っの、野郎。もう反応しやがるのか!」


 当たらないように僕も木の棒を持ち上げて、受け止めた。

 おじさんはくやしそうな、うれしそうな、ふしぎな顔で笑っている。


「とんでもねえ反応速度だ、が!」


 おじさんが木の棒で足元を狙ってくる。

 僕は今と同じように受け止めようとして――あれ?


「フェイントだ」

「わわっ!?」


 横に動いていた木の棒が、途中でいきなり下から上に向かってきた。

 今度は受けるのもよけるのも間に合わなくて、腕に当たってしまう。


 横だったのが、縦になるなんて……。


「おじさん、いじわる?」

「おいおい。意地の悪くねえ戦いなんてありゃしねえぞ?」


 それもそっか。

 戦いは勝たないといけない。

 じゃないと、守りたいものは守れないし、ほしいものは手に入らない。

 そんなの、モンスターじゃなくて、ただの動物でも知っている。

 だから、どんな事でもする。


 僕が戦ってきたモンスターってまっすぐだったからなあ。

 たまに濫喰い獣王種キマイラロードみたいなのとか、この前のドラゴンとか、ヘビ女とかいたけど、思い返してみるとそういう敵は戦いづらかった。


 おじさんは、僕にそういういじわるを教えようとしているのかな?


「まっすぐじゃダメなの?」


 生命力と魔力をいっぱい使って、それで倒してしまった方が簡単だと思う。


「あんちゃんぐらい生命力も魔力もあるなら、それでもいいかもしれねえけどよ」


 おじさんは木の棒を構えたまま、続けてくる。


「自分と同じぐらいの奴と戦う時、負けちまうぞ?」


 また、来た。

 話しながら、僕の横にやってくるおじさん。

 でも、もう二回も見たからわかる。

 僕の方から木の棒をそっと振ってみる。


「えい」

「甘い」


 けど、木の棒はかわされてしまった。

 しかも、木の棒を叩かれると、どうしてか手の中から飛んでいってしまった。

 ちゃんと握っていたのに、どうして?


「握り方がなってねえから抜けるんだ!」

「わっ、わっ、わわっ!」


 おじさんの木の棒がどんどんやってくる。

 右から、下から、前から、また下から、上から。

 それも来たり、来なかったり、変わったり、変わらなかったりして、なんだか気持ち悪い感じがする。

 見えているのに、わかっているのに、簡単じゃない。


「ほら、またくらった!」


 ぺしんと肩を叩かれる。

 ダメだ。

 木の棒をひろわないと。

 そのためにも一度おじさんからはなれようとするけど、おじさんはそのたびに変な動きで追いかけてきた。


「落とした武器を拾わせるわけねえだろ!」

「いじわるだ!」

「おうよ!」


 よけているうちに、どんどん落とした木の棒から遠くなってしまっている。


 このままじゃいけない。

 どうにかしないといけない。

 けど、どうする?

 どうすればいい?


 ええっと、そうだ。

 おじさんは言っていた。


 見て、感じて、盗んでみろって。


 考えている間におじさんがくる。

 変な動きからの攻撃。


「そら、どうする!?」

「……こう、かな?」


 もう、見て、感じている。

 だから、マネをする。


 おじさんの動き。

 変なのはきっと準備だ。


 シアンとかが歩く時に動く部分。

 それをおじさんは動かさないで動く。

 だから、変な感じがする。


 それをマネすれば、おじさんも変な感じになるはずだ。


 だいじょうぶ。

 人間の体になってから時間も経った。

 ドラゴンの時に見てきた事が、聞いてきた事が、感じてきた事が、ちゃんとこの体にもしっくりしてきた。


「――マジかよ」

「……あれ?」


 マネしてみたけど、ちょっと失敗しちゃった。

 おじさんからはなれるのはできたけど、思ったより動けなかったせいで、落とした木の棒の所までいけない。


「本気で今の間に盗みやがっただと!?」

「えっと、ああ、外側だけじゃダメなんだ」


 今はおじさんの動きをそのままマネをしたけど、きっと体の内側も何か――そう、工夫をしているんだ。

 最初にドラゴンと戦った時にノクトが教えてくれたじゃないか。

 人間は工夫をするんだって。


 おじさんをしっかり見れば、それもわかった。

 体の中にも肉があって、骨がある。

 おじさんはそれをねじったり、まっすぐにして、見えない力を作って、流して、使っているんだ。


 だから、正解はこうだ。


「あ、できた?」


 もう一度、おじさんが来る前に移動する。

 さっきよりもずっと動ける距離が増えて、今度こそ木の棒を拾えた。


「よし。覚えた」


 次は木の棒の動きを覚えよう。

 来たり、来なかったり、それはただ力任せにしているんじゃないのは、もうわかっているから。


「きっとできる」

「この、天才が」


 おじさんはやっぱりふしぎな顔をしている。

 うれしそうな、くやしそうな、怖そうな、顔。

 でも、最後は強気に笑ってみせる。

 シアンの笑顔に似た顔だ。

 僕の好きな顔だ。


「剣の道はそんなに安くねえぞ、あんちゃんよう!」

「うん。もっと教えてよ、おじさん!」




 そうして、おじさんは夜ご飯までの間、ずっと僕に剣を教えてくれた。

 何度も木の棒を当てられてしまって、僕のそれはぜんぜん少ない。


「むぅ、負けちゃった」

「はあはあはあはあはあはあはあはあはあはあはあはあはあはあはあはあ!」

「今度は勝つからね!」

「はあはあはあはあはあはあはあはあはあはあはあはあはあはあはあはあはあ――絶対、もうやらねえからな!?」


 どうしてか、おじさんはいじわるを言う。

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