88 ドラゴンさん、中層のカタチを知る
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「ったく。子供に弱いからなあ、あいつら。うちのパーティーの強みをあっさり教えやがってよ」
「そりゃあ、お前さんが一番甘いから仕方ねえぇ」
ぶすっとしているガルズおじさんだけど、本当はいやだとは思ってないみたいだ。
ちょっと口元が笑ってる。
「でも、よかったんですかー? ガルズさんたち『新月の灯』にとってー、皆さんの技能は生命線ですよねー?」
『エルグラドの冒険者の中でも、自力で魔導装備の整備ができたり、霊薬も作れる人材が集まっているなんて、なかなかいないでしょうね』
そうなんだ。
わからずにいると、シアンが教えてくれた。
「魔導装備の職人や霊薬の薬師になれる人は少ないですからね。そういった人は普通、冒険者にはなりませんよ」
「そっか。じゃあ、どうしておじさんたちは冒険者をしてるの?」
聞くと、おじさんたちは苦そうな感じで笑う。
「ストレートに聞いてくるんだな。まあ、いいがよ。俺らは全員が半端なんだ。俺は戦士としちゃそこそこだが、そこ止まりだ。リーダーとしても一流にはなれねえ」
「俺もだぁ。魔導使いにゃあなれたがぁ、成長が止まっちまたぁ。こっから上には上がれそうにねえぇ」
「あいつらもだ。色々と事情もあってよ、そっちの道を進めなかったんだよ」
ギーグルとグラマンのおじさんたちが行ってしまった方を見ながら続けるガルズのおじさん。
その背中をバンって叩くゲンダーのおじさん。
「んでぇ、揃いも揃ってちぃっと自棄起こしてなぁ。危なく道ぃ、踏み外そうにしてたんのをぉ集めたんがぁ、こいつだぁ」
「はっ。人様に迷惑かけるぐらいなら、俺が使ってやろうと思っただけだ。まあ、似た者同士、息があったのか。今もこうしてパーティーを組んでるわけだ」
おじさんたちもいろんな理由があって冒険者をやっているんだね。
なんだか、あきらめちゃったみたいな感じで話しているけど、目はキラキラしているし、まわりのマナの感じもいい感じだ。
「おじさんたちは、今が楽しいんだね」
「ガキが知った口を……。ま、否定はしねえがよ。そんなわけだ。俺らみたいな半端者の技が役に立つなら遠慮なく持ってけ」
あっちの方を向いてしまうガルズのおじさん。
そんなおじさんをにたりと笑ったマリアが見上げている。
「と言いつつー、新人の冒険者のお世話ばっかりしてしまうガルズさんなのでしたー」
「後ろの邪魔をしねえのが、前を歩いた人間の義務って話だよ」
ますます向こうを見ようとして、ほとんど後ろ向きになってしまった。
首が痛そうだけど、だいじょうぶかな?
『これ以上、いじったら首が折れそうね。ともかく、礼を言うわ。なんとなく、人選にマリアの意図が見え隠れしているけど、助かっているのは本当よ。時間のある時だけでいいから、あの子たちをお願いできるかしら?』
「お願いします」
僕もおじぎするけど、おじさんたちは手を振ってしまった。
気にするなって事みたいだ。
「それより、お前らの先の話だ。これからも川の攻略を目指すのか?」
ダンジョンのお話だ。
そういえば、最初はその話をしていたんだっけ。
忘れそうになっていた。
「はい。色々と考えましたが、エルグラドの私設戦士団まで来ているなら確定です。わたしたちはあえて厳しい道を選びます」
『エルグラドの連中がダンジョン攻略を優先しているなら、難易度の低いルートを進むでしょうしね。必然的に遭遇する確率は下がるし、こちらも攻略のためのスキルを得られて、何よりモンスターを効率的に倒せるわ』
やっぱり、僕たちが進むのは川の先みたいだ。
「じゃあー、ギルドから攻略のヒントをあげちゃおうかなー?」
「いえ、お気持ちだけで。既にかなり助けられてしまっていますからね。援助があったからAランクになれたと思われては意味がありません」
おー、なんとなくシアンがかっこいい。
シアンも自分でそう思っているみたいで、笑顔がニマニマしている。
『まあ、そういう事ね。借りを増やすのは好きではないの。ようやく、借金を返せたのだからね』
「ええ。明日の生活に不安を抱えて眠るのはもう嫌ですから……」
「い、意外に苦労してんだな、お前ら」
「不憫だなぁ」
どんよりしたシアンとノクト。
お金を集めないといけないのはよくなったみたいだけど、それでもお金の事とかはまだ気になってしまうらしい。
「あー、実はー、とある筋からギルドに支援が入ったんだよねー。シアンさんたちにってー名指しでー。どこかは秘密だから言えないからー、商会だよってだけ教えてあげるー」
商会……なんだろう?
商人の人たちなのはわかるけど、僕が知っているのはトールマンとかお姉さんだけだ。
「ボルケン商会ですかね。またどうして……」
「さあー、なんの事かはわからないけどー、商人の仁義じゃないかなー。あとー、今回のエルグラド家の強引さに怒ってるからかもー」
『ああ、魔導装備を買い集めていたのよね』
「あと、霊薬やら魔導具、それから物資もな。連中、周りの迷惑ってものを考えてねえ」
「むしろぉ、他の冒険者の邪魔をしてんじゃねえかなぁ」
僕以外はいろいろとわかるらしい。
こういう時、人間ってすごいって思う。
「とにかくー、ギルドからの支援はー、遠慮しないでねー?」
「そういう事であれば、遠慮なく」
『元から遠慮していない気もするけどね』
よくわからないままだけど、今まで通りここを使っていいのはわかった。
「じゃあ、攻略は頑張れよ。ヒントじゃねえが、中層のルールは教えておく。それぐらいならお前らも気にならねえだろ?」
「そうですね。お願いします」
ゲンダーのおじさんがポケットから紙を出した。
紙にはいくつもの丸が描いてあって、丸と丸が線でつながっている。
丸は左の方からまんなかに向けてどんどん数が増えていくけど、そこから右に向かっていくとどんどん減っていって、最後はひとつの丸に集まっていた。
「中層はこんな感じだと思えばいい。独立した部屋が扉と扉――転移の魔導装置で繋がっている感じだ。んで、序盤は先に進む道――ルートが増えているわけだが、中盤以降は中層のボス部屋に集まっていく、と」
「実際はぁ、こう単純じゃねえけどなぁ。時々、序盤の部屋に戻るルートもあるぅ」
おじさんたちは紙の上を指でなぞりながら話していく。
えっと。
最初の部屋から部屋がみっつあって、そのみっつの部屋の先にもみっつの部屋があって、そのまた先の部屋にもみっつ部屋があって……ええっと、すごいたくさんの部屋があるのがわかる。
でん、ゲンダーのおじさんの言う『戻る』っていうのはなんだろう?
「これは……かなり複雑ですね」
『最悪、後半まで進んだのに最初の部屋に戻るなんて事もあるのかしら?』
「あるぞ。後、最悪なのが似たような部屋がいくつかある事だな。林と森の部屋なんて慣れた奴じゃなきゃ違いもわからねえ」
「後はぁ、草原と牧草地なんかなぁ」
「湖とー、池もあるよねー」
なんだかよくわからないけど、とっても大変そうなのはわかる。
だって、シアンとノクトが苦い顔をしているから。
「これは各部屋のマッピングと、それぞれのルートについてしっかり把握していないと遭難確定ですね」
『ええ。まあ、ルートが一方通行じゃないのが救い……』
「ああ、そういうのも少ないが、ある」
『本当、最悪ね……』
ノクトのしっぽがぐにゃんってなってテーブルに落ちた。
「でも、僕は先がどうなってるかわかるよ?」
「そうでした! レオンなら……って頼ってばかりですね」
『けど、これは仕方ないかもしれないわ。進んだ先でエルグラドと鉢合わせになる事態は避けないと』
結局、扉が見つかったら僕が先の感じを見て、それから進もうと決まった。
シアンはマリアにお願いして、たくさん紙を用意してもらうらしい。
それにおじさんみたいな絵を描くんだって。
ゲンダーのおじさんがそういうのが上手だから、教えてもらうと言っている。
僕もお手伝いしたかったけど、それより先に計算をできるようになりなさいとノクトにしかられてしまった。
「じゃあ、あんちゃんよ」
「なあに?」
何か自分にもできる事はないかなって落ち込んでいると、ガルズのおじさんが声をかけてくれた。
おじさんは腰の剣をポンと叩いて、隠れ家の外を指さす。
「剣の使い方、覚えてみねえか?」
剣。
そういえば、五日前に主部屋で壊してしまってから、そのままだったっけ。
最後はサラサラの砂みたいになってしまった剣を思い出す。
気のせいかもしれないけど、僕は剣をうまく使えていないような気がする。
「うん。教えてくれる?」
「いいぜ。だが、俺はちっと厳しいぞ?」
やった。
僕もトントロとピートロみたいに教えてもらえるぞ!




