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ドラゴンさんのセカンドライフ  作者: いくさや
第三章 衣食住を整えるドラゴン
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87 ドラゴンさん、応援する

 87


「下、借りる」

「うっす! ギーグルのオジキ、ついていくっす!」


 ギーグルのおじさんはトントロを連れて行こうとする。

 これからすぐに武器とか防具の作り方を教えるみたいだ。


 けど、それを止める人たちがいる。


「ちょ、ちょっと待ってください! あの、トントロに魔導装備の作り方って……大丈夫なんですか?」

『その子、蹄よ? 道具を持つのは……意外に器用だからできるけど、物作りができるほどじゃないでしょ?』

「そもそもー、ギーグルさんが魔導装備を作れるなんてー、知らなかったなー?」

「っつうか、俺らもそこまで時間があるわけじゃねえぞ。弟子を取るったって何年もかかる話だろうが」


 シアン、ノクト、マリア、ガルズのおじさんが次々に声を上げる。


 トントロはわかっていないみたいで、きょとんとしている。

 僕もだ。

 トントロががんばりたいなら、応援すればいいと思うんだけど。


「器用、いらない」

「わたしは専門家ではありませんから知りませんが、物を作るのに手先の器用さは重要だと思うんですけど」

「んむ」


 ギーグルのおじさんはトントロを抱えたまま台所に行って、何かを取って戻ってきた。

 手にしているのは包丁だ。


「……その包丁をどうするんです?」

『……トントロを料理しようとしているふうに見えるのだけど』

「違う。強化」


 ムスッとした感じでギーグルのおじさんはトントロを下ろすと、包丁をテーブルに置いて、それから小さな石をとなりに置いた。

 ……これって魔石?

 あんまり魔力が入っていないからわかりづらいけど、きっとそう。


「こりゃあ、ここに来る途中で手に入れた鉄歯鼠アイアンマウスの魔石だな」

「あー、倒し方が悪かったから欠けちまったんだ。ほとんど価値がねえから採取もしなかったが、持ってきてたのか」

「んむ」


 ギーグルのおじさんは包丁に右手を、魔石に左手を置いた。

 そして、二度、三度と息を吸って、マナをちょっだけ生命力に、それから多めに魔力に転換していった。


「魔力、見ろ」


 魔力に?

 見ろっていうからしっかりと見る。


 ギーグルのおじさんの魔力。

 シアンのより粒が大きい。

 あと大きいけど、ふんわりしてる。

 シアンのがきゅっとつまった水なら、ギーグルおじさんのはふわふわの雪みたいだ。


 そんな魔力がまずは左手に集まって、魔石に流れて、それから……包丁の方に向かっていく?

 けど、魔石から出てきた魔力は感じが違う。

 ギーグルおじさんの魔力だけじゃなくて、他の色みたいなのが乗っている。

 そんな魔力をギーグルおじさんは右手で受け止めて、ぐうっと包丁の方に押し付けた。


 何度も何度も同じように繰り返して、魔力がなくなるまで続けて、大きく息を吐いた。

 ギーグルおじさんは動いてないのに、たくさん汗をかいている。


「できた」


 そして、包丁を指さす。

 その包丁はもうただの包丁じゃなくなっていた。


「これは……魔導装備、というか、魔導具、というか……なんでしょうか? 魔力に反応して、すこーしだけ頑丈になる気もしますが」

『効果はほとんど気のせいみたいなものだけど、魔導装備みたいね。包丁だから、魔導調理具といった方がいいのかしら?』

「それならー、魔導具もどきでいいんじゃないですかー?」


 シアンたちが包丁を見ながらいろいろと言っている。


 その間に、ギーグルおじさんはトントロに向き合っている。

 手に持っている魔石は……もうただの石だ。


「これ、繰り返す」

「うっす! 勉強になるっす!」

「最低、五十回」

「うっす! 根性入れるっす!」

「魔石、使う、ダメになる」

「うっす! 集めるっすね!」

「魔石、素材、魔力、相性ある」

「? オジキ、わからないっす!」


 僕もわからない。

 ピートロならわかるかなって見てみたけど、首を振っている。

 そうしたら、グラマンのおじさんが教えてくれた。


「あー、使う魔石と、元になる素材、それから作る人間の魔力の相性があって、それ次第で完成品の性能が変わるんだとよ」

「気のなげぇ話だぁ」


 そうかもしれない。

 シアンたちもうなずいている。


「魔導装備はこうして作られているんですね」

『おそらく、魔石に宿ったモンスターの特徴……いえ、性質を魔導式にして、魔力を媒介にして物品に転写しているのかしら。けれど、定着の効率が悪いわね。それが相性として、実用的なレベルまで転写するとなると必要な魔石も多くなる、と。となると、職人の専門性が上がるのも理解できるわ』

「作成者の魔力量とー、その使い方も大事よねー。それから生命力もかなー」


 本当に大変そうだ。

 トントロは生命力と魔力をたくさん作れるし、がんばりやさんだけど、それでも簡単じゃないと思う。

 僕と同じ事を考えたのか、ピートロがトントロの手をにぎった。


「お兄ちゃん、大丈夫? 難しいし、すごい根気がいるみたいだよ?」

「任せるっす、ピートロ! アニキも楽しみにしてほしいっす! オイラがアニキのための服を作るっす!」


 トントロはやる気だ。

 僕みたいにわかってないのかもしれないけど、それでも絶対にあきらめない気持ちだけは伝わってきた。

 目が燃えている。


 なら、やっぱり僕は応援するだけだ。


「うん。トントロ、がんばって!」

「アニキ……うっす! オイラでかいオスになるっす!」


 体をぶるるとふるわせたトントロは、ギーグルおじさんの手を引っ張って、自分から地下の部屋に向かっていった。


『いいのかしら?』

「もともと、今日はここで厄介になる予定だからな。一晩ぐらい好きにさせてやってくれ。あいつも一晩で教え込むつもりはねえだろうが」


 ガルズのおじさんが困ったみたいに笑っている。


「そうか? ギーグルの奴、本当にトントロを気に入ったみてえだなあ。本気の本気で弟子として鍛えるつもりかもしれねえぞ」

「あいつぁ、職人を目指してたからなぁ。魔力が足らんからぁ、あきらめたみてえだがぁ。憧れは残ってたんだなぁ」

「あの、グラマン様。少しいいでしょうか?」


 しみじみと話していたおじさんたちにピートロが話しかけた。

 見上げるのはお話の長いグラマンおじさんだ。


「どうした、嬢ちゃん?」

「あの、わたくしも新しい事に挑戦したいのですが、グラマン様は霊薬に詳しいと兄から聞きまして……」

「おうよ。親が薬師だったからな。ガキの頃に叩き込まれたんだ。あの頃は地味な仕事なんてやってられるかって飛び出したんだよ。こうして冒険者になってから、いざという時に霊薬を作れるって強みになるとは考えもしなかったぜ」


 霊薬って……なんだっけ?

 街で薬師って人たちが命石から作るって話は聞いたけど、それぐらいしか知らない。

 ピートロはお話の途中だから、シアンの服を引っ張ってみる。


「ちょっ、ちょっと、レオン。いけませんよ。こんな人前でどこを触るつもりですか? わたしが魅力的すぎるからって欲望に負けてはいけませんよ? そういうのは二人っきりの時に、段階を踏んでからですね……」


 いつものシアンだから、聞いてもだいじょうぶそうだ。


「ねえ、シアン。霊薬ってなに?」

「え、霊薬ですか? そもそもレオンは薬って知っています?」


 ……えっと、ずっと前に『あの人』が言っていたような。

 人間はケガとか病気をした時に、それを使って治すんだっけ。


『レオンには無縁の物よね』

「うん。ケガはすぐに治るし、病気した事ないし」

「本当に便利な体ですよねえ」


 でも、人間とか動物にとってケガとか病気が大変なのは知っている。


「ともかく、そんなケガや病気を治すのが薬で、霊薬はその薬のすごいやつだと思っていれば大体あってます」

『小さい頃のシアンには必須品だったわね』


 なるほど。

 よわよわのシアンには必要かもしれない。

 それをピートロは作れるようになりたいんだ。


 僕はピートロの方が気になって目を戻す。


「わたくし、魔導はシアンのアネゴ様にはかないませんし、お兄ちゃんみたいに生命力をいっぱい作れませんし、家事もまだまだ教わっている途中で……でも、皆様のお役に立ちたいんです!」

「嬢ちゃん……立派じゃねえか!」


 グラマンのおじさんがピートロを持ち上げる。

 高い高いしながらグルグル回って、ちょっと楽しそうだ。

 けど、ピートロは目を回してしまっている。


「おい、グラマン! 嬢ちゃんを乱暴にすんな!」

「お、わりいわりい。つい、テンションが上がっちまってよ」

「へいきかぁ?」

「ひゃ、ひゃい……へいきでひゅ……」


 僕たちが止める前に、おじさんたちが助けてくれた。

 ピートロはちょっとフラフラしているけど、それでも一人で立てるみたいだ。


「悪いな、嬢ちゃん」

「い、いえいえー」


 グラマンのおじさんが座りこんで、ピートロを支えながら話を続ける。


「それでさっきの話だが、もちろんオーケーだ。俺が嬢ちゃんをとびっきりの薬師にしてやんよ!」

「は、はいっ! 是非ともお願いします!」


 フラフラしていたピートロのしっぽがぴょっこりしている。

 嬉しそうだ。


「っつうわけで、ピートロの嬢ちゃんを借りるが、いいよな、保護者さんたち?」

「アニキ様! アネゴ様方! わたくし、精一杯頑張りますね!」


 ピートロはとってもいい笑顔だ。

 もちろん、止めるつもりはない。

 僕はピートロの頭をそっとなでる。


「うん。ピートロもがんばってね」

「はいっ!」


 こうして、トントロが魔導装備を、ピートロが霊薬を作るための練習を始める事になった。

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