83 ドラゴンさん、二度目の階層主
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あれから僕たちは他の冒険者の人に見つからないように気を付けながら進んだ。
何度かモンスターが襲ってきたけど、ほとんどが近づいてくる前にシアンとピートロが倒してしまって、僕もトントロも見ているしかできなかった。
がっかりしているトントロを元気づけながら歩いていると、見た事のある場所に着いた。
主部屋だ。
水晶の天井の広場。
一番奥には白い扉があって、その先の階段は中層につながっている。
そして、その扉を守るように立っている透明な石の像。
「あれが上層の階層主、水晶岩兵ですね」
『気をつけなさい。あいつはこれまでのモンスターとは格が違うわ。硬い体に、重い攻撃。それから想像以上に素早い動き。おまけに範囲攻撃まで使ってくる強敵よ。本来ならCランク冒険者なら五十人。Bランクの冒険者でも十人は集まって挑むべき相手なんだから』
杖を握るシアンの手に力が入る。
ノクトもいつもよりピリピリしていた。
うーん。
今までのモンスターよりは強いけど、そんなに怖くないと思うんだけどなあ。
この前は……翼でゴリゴリして粉々にしたんだっけ。
あの時の感じだと……うん。シアンたちの方が強い。
「シアンたちならへいきだよ」
「そ、そうですよね! わたしは天才魔導使いですからね!」
いつもみたいに笑うシアン。
「とはいえ、わたしの魔導は水属性だけですからね。少し相性が悪いのは認めざるを得ません」
けど、話しているうちにシアンから元気がなくなってしまった。
シアンの魔導だと水晶岩兵は倒せないんじゃないかって心配みたいだ。
「まあ、それでもわたしは負けませんけどね! トントロは前衛をお願いします。倒す必要はありません。時間を稼いでください。その間にわたしとピートロで魔導を完成させます。魔導が当たったら、タイミングを合わせて一斉攻撃で倒しきりましょう」
シアンはぺしんと自分で自分のほっぺをたたいて気合を入れると、主部屋に入っていく。
それにトントロとピートロもついていった。
僕たちが広場に入ると、水晶岩兵が動き始めた。
前みたいに飛び込んでこないで、ゆっくりと近づいてくる。
「大きいっす」
「水晶のゴーレム。わたくしの魔導が通じるでしょうか……」
二匹ともちょっと不安そう、かな?
「だいじょうぶだよ。何かあっても僕がなんとかするから」
「アニキ……オイラ、ガンバルっす!」
「アニキ様。わたくしも、精一杯戦います!」
まだちょっと不安が残っているみたいだけど、それ以上にやる気が出たみたいだ。
けど、うん。
今までのモンスターはよりは強いから、苦手だっていうシアンや、今日初めて戦う二匹のお手伝いしないとね。
僕はマナを吸い込んで、生命力で体を強くする。
「じゃあ、僕が止めるから、みんなで攻撃してね?」
「え、止めるってレオン……」
シアンに手を振ってから、僕は水晶岩兵にまっすぐ歩いていく。
僕たちが向かいあったのは、ちょうど広場の真ん中ぐらい。
「GIIIIIIIIIIIIII!」
あいかわらず変な声だなあ。
僕が見上げていると水晶岩兵は両手を持ち上げて、振り下ろしてくる。
頭とか肩とかにぶつかるけど、ちっとも痛くない。
後ろでシアンたちが何か大きな声で話しているけど、どうかしたのかな?
シアンたちは気になるけど、今はまず目の前の敵だ。
とりあえず、僕は剣を抜いてみた。
せっかく、もらったのにいまいちちゃんと使えなかった剣。
それに魔力を入れてっと。
「えい」
ぶぅんと水晶岩兵に向かってかるーく振り回す。
高い音が鳴って、そのまま倒れていく水晶岩兵。
床の上をざざざっとすべって、すべって、転がって、はねて、転がって……しばらくして止まった。
うん。いい感じだ。
でも、今ので剣がダメになっちゃったな。
トールマンのところにあった一番いいのだったのに、なんだか砂みたいになってしまった。
ちゃんと弱めに振ったんだけどなあ。
ま、いっか。
「今だよ、みんな!」
振り返って声をかけると、シアンたちはポカンとしている。
どうしたんだろう。
今は攻撃する時なのに……。
「シアン? トントロ? ピートロ? 攻撃しないと起きちゃうよ!」
ほら、倒れた水晶岩兵が起き上がろうとしている。
腕とか足がピクピクと動いて……それだけだ。
あれ、立てなくなっちゃった?
まあ、これならシアンたちも危なくないからいいか。
「ねえ、攻撃しないと」
「攻撃、いるんでしょうか、これ……?」
シアンが首を傾けている。
たしかにこのままでもその内、動かなくなってしまいそうだけど。
でも、強くなるにはシアンたちがモンスターを倒さないといけない。
「わたしの考えている冒険とは違いすぎます……けど、今は動きましょう。トントロとピートロも、はい!」
シアンがとなりにいた二匹の肩をたたく。
先に元に戻ったのはトントロ。
ぐっと手をにぎると、キラキラした目で僕を見てくる。
「あ、アニキはすごいっす! おいら、もっともっともっとガンバルっす!」
生命力で体を強化して走り出す。
そして、そのまま倒れた水晶岩兵に体当たりを決めた。
重い音を立てて揺れる水晶岩兵の体。
「ガンバルっす! ガンバルっす! ガンバルっす! ガンバルっす! ガンバルっす!」
トントロはひづめで何度も何度も水晶岩兵を叩く。
そのたびに透明な体から小さなかけらが落ちていった。
かけらはだんだんと大きくなって、すぐに水晶岩兵はひびだらけだ。
「いけます!」
「アニキ様、お兄ちゃん、下がって!」
トントロががんばっている間に、シアンとピートロの魔導の準備が終わったらしい。
僕はいっしょうけんめいすぎて聞こえなくなっているっぽいトントロを持ち上げて、シアンたちのところまで下がる。
「点・多数展開/10・土属性――岩撃衝弾です!」
「立体・強化展開*3・水属性――水渦乱流!」
シアンとピートロの魔導がいっしょに放たれた。
ピートロの魔導でできた大きな石が水晶岩兵にぶつかって、でも、石の方も小さく砕けてしまう。
けど、そんな石も水晶岩兵もまとめて飲み込んでしまったのがシアンの魔導。
グルグルと回る水の渦。
すごい水の流れに水晶岩兵の腕と足が変な方向に曲がってしまう。
それに巻き込まれた石とか水晶岩兵のかけらが、透明な体をどんどん削っていった。
「……終わりましたね」
シアンが杖を振って魔導を止めた後、もう水晶岩兵はバラバラになっていた。
「やったね、みんな!」
「アニキのおかげっす!」
飛び込んできたトントロを抱きしめる。
シアンとピートロも来るかなって待ってみるけど、あれ?
「上層の階層主が……わたしの目標が……」
『中級の壁が案山子とは憐れなものね』
「あの、こういうのって養殖って言うんですよね? そんな、これではわたくし、養殖の豚……養豚……」
女の子たちは暗い顔でため息をついていた。




