80 ドラゴンさん、隠れ家を手に入れる
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冒険者ギルドの人たちとお話が終わって、僕たちはマリアといっしょにまた転移の魔導具を使う事になった。
「アニキ、やっぱり変な感じっす」
「お兄ちゃん、大丈夫だよ。ほら、わたくしが手を繋いであげるから」
二回目でもトントロはまだ怖いみたいだけど、ピートロはなれたみたいだ。
今はふるえるトントロの手をつないではげましてあげている。
仲良しの二匹に胸があたたかくなった。
「はーい、到着ですよー」
そうやって二匹を見守っている間に転移は終わって、僕たちはまた知らない場所に来ていた。
マリアが前に出てから振り返ってくる。
その後ろにあるのは……木のお家?
まるたを並べて、重ねて、立てかけて、そんなふうにして造られた家だ。
大きさは『迷宮の狭間亭』よりもちょっと大きいぐらい。
「いかにも隠れ家という感じですね」
「本当に隠れ家だからねー」
という事らしい。
しばらくの間、アルトたちからかくれるのにここを使っていいんだって。
ここなら絶対に見つからないから、って。
僕たちと同じようにお家を見ていたノクトがため息をついた。
『まさか、ダンジョンの中にこんな物件を隠しているなんて、冒険者ギルドは本当に油断ならないわね』
「ノクトさんに言われると照れちゃいますねー」
『褒めてないわよ。まあ、確かにここなら見つからないでしょうけど』
そう。
びっくりしたけど、ここはダンジョンの中なんだって。
上層のはしっこの方に、魔導具で道を見えないようにした先なんだとか。
ほとんどモンスターも出ないし、行き止まりだし、普通は来る人のない場所を見つけて、そこにお家を作ったらしい。
「それにここならー、すぐにダンジョンに行けて便利でしょー?」
「けど、ダンジョンなんですよね? 危険ではありませんか?」
ピートロに聞かれて、マリアはそのピートロに抱き着いた。
「ピートロちゃんはかわいいのにお利口さんねー。大丈夫よー。ここにはー、最高レベルの魔導具で守られているからー」
そうなんだ。
言われてよく見てみると、ダンジョンの方につながっている通路には魔力の壁があった。
僕がたたいたら割れてしまいそうだけど、本当にだいじょうぶなのかな?
じっと見ていたら、誰かに服を引っ張られた。
マリアだ。
いつの間にかトントロまで抱きしめたまま、でも、とっても不安そうに僕を見ている。
「あのー、ダメだよー? 最高レベルの魔導具なんだからー、壊しちゃったらダメなんだからねー?」
こわれちゃうんだ。
やってしまう前に言ってもらえてよかった。
でも、それでいいのかな?
「こわれちゃうなら、ここって危ない?」
「レオン、あなたレベルの破壊力を持った相手に不意打ちされたなら、どの道、守りがあろうがなかろうが関係ありませんからね」
そっか。
じゃあ、不意打ちされないように気を付ければいいんだ。
それか、やられちゃう前にやっつける。
うん。そうしよう。
それなら、みんなを守れる!
『何かとてつもなく物騒な決意をしているような気がするけど、まあ、あたしたちに害はなさそうだから放っておくわ』
「相手がかわいそうなぐらいですけどね」
シアンとノクトが小さな声で話しているけど、止められないからきっと間違ってない。
「アニキ! この女の人、なんかこわいっす!」
「うぅ、とても口に出せないような事をされそうになりました……」
マリアからトントロとピートロが逃げてきた。
そのまま僕の背中にかくれてしまう。
僕たちから見つめられたマリアはとってもあわてている。
「ち、違うよ!? ちょっと抱き心地を確かめただけだから! 服の下が気になったりなんかしてないからね!?」
「マリアさん……」
『マリア。あなた……』
シアンとノクトの目がもっとひんやりした。
「マリア。トントロとピートロをいじめたらダメだよ」
「うっ、レオン君の言葉が一番痛いかもしれませんねー。はーい、ごめんなさいー」
うん。あやまったからいいよ。
二匹はまだこわいみたいだけど、さっきみたいに逃げなくなったしね。
「じゃ、じゃあー。案内するねー!」
マリアが急にはりきりだして、まずは下を指さした。
下はダンジョンの固そうな岩だけど、この辺りはぺったりと平らになっていて、何度も見た模様が書かれている。
「ここがー、転移の魔導具が埋められている場所ねー。シアンさんのギルドカードを登録しておいたからー、ここの部分に当ててくれたら使えるよー。向かう先はギルドねー」
マリアが模様の真ん中を指先で叩いた。
そこに小さな白い石が埋められている。
「次は隠れ家ねー」
マリアについていってお家に入る。
中はお昼に行ったお店みたいになっている。
一階には大きなテーブルと椅子。
あと、いろんな魔導具っぽいのが置いてある。
向こう側は……台所かな?
『吹き抜けなのね』
「そうですよー。階段から上がった先に個室があるからー、好きに使って下さいねー。必要な物も大体は揃っていますからー、これも自由に使ってもらっていいですー」
うん。
階段の向こうに通路があって、そこにいくつも扉が並んでいる。
三階は……ないんだ。
「下にも部屋があるね」
しっかり見たら、床の下がぽっかり空いているのがわかった。
「なんで、見てもいないのにわかるのかなー?」
マリアがこまったみたいに笑っている。
「見たらわかるよ?」
「ドラゴンってすごいんだねー。……なんだか、考えるだけ無駄な気がしてきたわ」
遠くの方を見てつぶやくマリア。
その足にノクトが体をくっつけて、温めてあげている。
ノクトとマリアも仲良しだね。
『レオンとの付き合い方がわかってきたかしら?』
「はあー。ええ、まあ。とにかく、そうですねー。地下室は一番頑丈になっているから、もしもの場合はそこを使ってくださいー」
「レオン、ここの台所はなかなかですよ! 調理器具も一式揃っていますし、広くて使いやすそうです!」
奥の方に行っていたシアンが戻ってきた。
「食料は数日に一度ー、協力者に運んでもらうからー」
「協力者というと、先程の方たちですね?」
それって、冒険者のおじさんたち?
そういえば、名前も聞いてなかった。
もういろいろとお話しているのに、名前も知らないなんて僕はダメだなあ。
「ガルズのオジキたちっすか!」
「そうだよー。ガルズさんたちがダンジョンに入ってー、そこから持ってきてくれるからー、受け取ってねー」
トントロが両手をばんざいしだした。
ガルズって、もしかしておじさんの事?
「やったっす! ガルズのオジキたちに会えるっす!」
「トントロ……おじさんたちと仲良くなったんだね」
さっきお話していたのは知っていたけど……。
トントロはきらきらした目で僕を見上げてくる。
「うっす! ガルズのオジキがリーダーでカッコいいっす! ギーグルのオジキは武器を作るのが得意らしいっす! グマランのオジキは薬が作れるみたいっす! ゲンダーのオジキは魔導ができるっす!」
すごい。
僕よりもずっとおじさんたちを知っている。
ショックだ……。
「トントロ、僕はダメなアニキみたいだ……」
「どうしたっすか!? アニキは最高っす! カッコいいっす! 強いっす!」
「でも、友達ができない……」
「友達っすか? そんなことな……でも、オイラとピートロはしゃてーっす。シアンのアネゴはアニキの女っす。ノクトのアネゴは親分っす。マリアやオカミは……仕事の関係っす。オジキたちも……」
トントロが固まってしまった。
ついでにシアンもカチンと固まっている。
「女。レオンの、女……」
『親分。そんな認識なのね』
「仕事の関係ってー……」
「もう、お兄ちゃんってば……」
ピートロが固まったトントロをゆすっている。
そのうち、また動き出すと思うから、いいのかな?
「れ、レオン君の友達は置いといてー、あっちがダンジョンに繋がっている通路だからー。魔導具で塞いでいるけどー、あとで、ノクトさんに開閉の仕方を教えますねー」
『そうね。あたしが覚えておくのがよさそうね。他も聞いておくわ』
ノクトとマリアがお話をしている。
頼れるノクトが聞いているなら、任せておけばだいじょうぶだ。
一人と一匹はしばらく話していたけど、シアンとトントロが動き出すのと同じぐらいに終わったみたいだ。
マリアがうーんと体を伸ばして、僕たちを見回してくる。
「それじゃー、私は五日に一度は来るからー、大変だと思うけど頑張ってねー」
「ええ。わたしの成長を楽しみにしていてください!」
「ふふっ、期待しているわー」
そう言って、マリアは魔導具でギルドに戻っていった。
僕たちは部屋を決めて、お家を見る事にする。
ダンジョンに行くのは明日からだ。
だけど、途中でシアンに手をにぎられた。
「レオン、大切なお話があります」
「? なあに?」
シアンはいいづらそうにもじもじしていて、その足元ではノクトが静かに僕たちを見上げていた。
じっと待っていると、シアンはぐっと強く手をにぎってくる。
「わたしの、シアン・セルシウス・ブリュー……いえ、ブリューナクの話です」




