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ドラゴンさんのセカンドライフ  作者: いくさや
第三章 衣食住を整えるドラゴン
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79 ドラゴンさん、条件を聞く

 79


「しかし、見事にボクは警戒されているね?」


 ソファに座ったギルマスからはなれた場所に僕たちは集まっている。

 こまったふりをして笑うギルマスに、他の人は冷たい目を向けていた。


「あんたが胡散臭いせいだろ」

「そうですよー。ギルマスが気味悪いのがいけないんですー」


 冒険者のおじさんとマリアに言われて、ギルマスはやっぱり大げさに肩をすくめてみせた。

 本当にいやがってたり、悲しがっていないのがわかるから、かわいそうにならない。


 そんなギルマスを放っておいて、おじさんと仲間の人たちがこっちにやってくる。


「昨日ぶりだな。話は聞いたぜ。あぶねえとこを二度も助けられたみてえだ。礼を言うぜ」


 助けた?

 なんだっけ?


 首をかしげていると、おじさんがあきれた目で僕を見てくる。


「おいおい。忘れちまったのか? 昨日、ダンジョンで狩猟蜘蛛ハウンドスパイダーの群れに追われてたのを止めてくれただろ」

「エントランスもだ」

「おう。まさか、あの擦り付け野郎の荷物からあんな化け物が出るとは思わなかったからな。見事にやられちまったぜ。ま、あの連中にはしっかり落とし前つけさせたけどな!」

「お前らがいなかったらぁ、全滅してたぁ。あんがとよぅ」


 昨日のダンジョン……そういえば、そんな事もあったっけ。

 アルトの事ですっかり忘れていた。


「助ける側が助けられちまって、面目ねえ」

『こちらはこちらの事情があっての事よ。気にしなくていいわ』


 ノクトが言う通りだ。

 うんうんとうなずいていると、シアンが別の事を聞いた。


「けど、助ける側というのは?」

「あー、そのままの意味だ。俺たちはギルドナイトなんだよ。これでわかるか?」


 え? 冒険者じゃないの?

 冒険者なのにギルドナイトなの?


「なるほど。納得です」

『普通の冒険者が受けたがらない依頼を片づけたり、内側から冒険者の内情を探るといったところかしら?』

「まあな。つうっても元は学もねえ、中級の冒険者ってやつだよ」


 僕にはわからないけど、シアンとノクトにはわかったらしい。

 じゃあ、いいか。


『なら、この子たちの事も聞いていたのね?』


 ノクトが見るのはトントロとピートロ。

 そういえば、誰も二匹の事を見てもおどろいていなかった。


「ああ。マリアの嬢ちゃんから話は聞いた。特殊体質のガキを拾ったんだってな」

「? 特殊体質? ちがもがもがもぐ?」


 よくわからない事を言うおじさんに教えてあげようとしたら、近づいてきたマリアに口をおさえられてしまった。

 どうして、こんないじわるをするんだろ?

 悲しくて見つめるけど、マリアはなんだかにっこり笑っている。


「うふふふふ、と、ダメダメー。この子たちはー、ダンジョンのマナの影響を受けたみたいでー、親もいないみたいなんですよー。それをたまたま知り合ったレオン君が保護したんですよねー」


 えーと、そう、なのかな?

 マリアが言っているのは本当だけど、ちょっとちがうような気もする。

 まあ、まちがってないからいっか。


「うん。そう」

「この前の依頼といい、人のいいあんちゃんだな。お前も『裸捨て』されたっていうのによ。いや、だからこそ、か?」

「強く生きろ」

「話を聞いた時はどんな奴かと警戒もしたけどよ。こうして見てみりゃあ、かわいい坊主に嬢ちゃんじゃねえか。なんか、困った事があったら俺らに相談していいからな?」

「おうぅ、助けるぞぉ」


 なんだかおじさんが一人で納得していて、仲間の人たちもトントロとピートロに話しかけてくる。


「うっす! なんかわからないっすけど、わかったっす!」

「おう、いい返事じゃねえか。坊主。そうだ、男なら元気があればまあ大概なんとかなる」

「勉強になるっす!」


 トントロは僕の肩から下りて、おじさんたちに囲まれてしまった。

 なんだか、僕よりも仲良しになっているみたいでちょっとショック。


「あのあの、なんだか、騙しているみたいで罪悪感が……」

『嘘ではないのだから、気にしないの。あなたたちの待遇はそういう事になったみたいなんだから、合わせておきなさいな』

「ですですー。まあ、これで納得してくれる彼らにしか話していませんからー。勝手に話してしまったのは申し訳ありませんけどー」

「いいですよ。今の状況、どうしても協力者がいるんですよね?」

『こちらは助けを乞う立場よ。文句なんてないわ。レオンもいいかしら?』


 そういう事らしい。

 わからないばかりだけど、トントロとピートロと仲良くしてくれる人がいるのはうれしいから、ダメなんてない。


「それで、そろそろボクも話させてもらってもいいかな?」

「あ、ギルマスいたんだ」


 忘れてた。

 ソファで一人ぼっちだったギルマスが声をかけてきて、思い出した。


「君、本気で言っているね? ボク、これでもギルドで一番偉い人なんだよ? 帝国でも上から数えた方が早い権力者なんだよ?」


 ギルマスはきらいだけど、さびしい気持ちは知っているから悪い事をしてしまった。


「威厳がないのがいけないと思いますー」


 マリアは冷たいなあ。

 けど、ギルマスの後ろ側に回って、僕たちを見回してくる。


「じゃあー、そろそろ本題に入るわー。シアンさんたちー、エルグラドのご子息に見つかったみたいねー」

「話が早いですね」

『そんなにすぐ問い合わせがきたのかしら?』


 マリアに代わってギルマスが答える。


「すごい剣幕だったよ。まあ、無理もない話だがね。エルグラドの連中からすれば、シアン君の件は近年最大の不祥事だ。それが自分の膝元にいたとなれば血眼にもなる」

「当然、ギルドもわたしについては把握していたんですね」

「明言はしてこなかったが、それは伝わっていただろう?」

『受付のリーダーが専属になった段階でね。この街でエルグラドより目と耳が行き届くなんて、大したものね』


 うーんと、むずかしい言葉ばかりだけど、僕も今がどうなっているのか考えてみる。


 アルトのお家の人がシアンを探しているらしい。

 そのお家の人はエルグラドっていう弓聖の子孫で、この街で一番にえらい人。

 シアンはばれないようにしていたけど、ギルドの人たちはそれを知っていて、ひみつにするのを手伝ってくれていた、のかな?


 でも、今日アルトに知られてしまったから、これからどうしようかって話なんだよね。


『それで、ギルドとしてはどうするつもりかしら?』


 ギルマスを見るノクトの目はするどい。

 まるで、敵を見るような目だ。

 僕もギルマスがきらいだから、ケンカするなら手伝おう。


「やめてくれないかな。そんなに昂らないでくれ」

「れ、レオン。生命力、漏れていますから!」


 腕の中のシアンが肩をゆすってくる。

 知らないうちにマナを生命力にしてしまっていたみたいだ。

 部屋の中にいた人たちがびっくりして固まってしまっている。


「ごめん。ちょっとやりすぎちゃった」

「今のでちょっとかー」

「こりゃあ、とんでもねえな。道連れ兎ジョイントラビットも狩れるわけだ」


 あやまると、マリアとおじさんたちがあきれた顔をしている。

 失敗してしまった。


 ギルマスだけは変わらない感じで、僕たちをながめている。


「さっきのノクト君の質問だが、もちろん弓聖なんていう偽物なんかに、本物の『英雄』を売るつもりはない」


 ギルマスは僕たちの味方をしてくれるみたいだ。

 けど、すぐに『だが』と続けてくる。


「エルグラドと敵対するのもうまくない」

『でしょうね。公平中立のギルドであっても、一介のB級冒険者を庇って、領主と敵対するのは割が合わないわ』

「ボクとしては鉄則を曲げるつもりはないが、これでもギルドは帝国から支援を受ける組織でもある。エルグラドがそちらから手を伸ばしてくると厄介だ」

「だからー、帝国さえも黙らせ――んっ、納得させられるような材料がほしいのー」


 えっと?

 ギルドは僕たちの味方なの? それとも敵なの?


「つまり、大きな手柄を立てろ、と?」

「具体的にはA級の冒険者を目指してもらいたいね」

「A級の冒険者ともなればー、替えのきかない人材だからー」


 えとえと、すごい冒険者になったら助けてくれる、のかな?


「この前のヘビ女じゃだめ?」


 あれを倒したのってほめられたよね?

 けど、ギルマスもマリアも首を横に振る。


「それらに加えて、という事だよ。単純な戦闘力だけではなく、ダンジョンの攻略にも優れていると証明してもらいたい」

「無理を承知で三ヶ月以内にねー。エルグラドからの干渉を流せるとしたらー、それが精一杯なのー。その間はー、ギルドがシアンさんたちの生活を保障するわー」


 やっぱり、むずかしい話だったけど、シアンとノクトがだまっているんだから、大変な事なんだろうとは思う。

 でも、今の話はちょっとだけ僕にもわかった。


「ねえ、それって助け合おうって事だよね?」


 僕たちがギルドのお仕事をがんばったら、ギルドがいろいろ手伝ってくれる。

 うん。助け合うのって、とっても人間らしいって思う。


 どうしてか、みんなが僕をふしぎそうに見ているけど、そんなに普通の事を聞いてしまったのかな?


「ふふ。そうですね。ええ、その通りです。ギブアンドテイクですよ。一方的に助けられるのなんて、健全な関係ではありませんからね!」

『まったく、簡単に言ってくれるのだから。でも、間違ってはいないわ』

「ええ! なにせ、わたしは天才ですからね! 三ヶ月もいりません! 一ヶ月でA級になってみせようじゃありませんか!」


 そう言って、シアンはいつもの自信満々の笑顔を見せてくれた。

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