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ドラゴンさんのセカンドライフ  作者: いくさや
第三章 衣食住を整えるドラゴン
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78 ドラゴンさん、難しさを知る

 78


「お店の下にこんな場所があったんだ」


 マリアが出てきた床の下。

 そこには大人が一人通れるだけの穴があった。


「ふふふー、ここの事を知っている人はほんの少しなんだよー。だからー、レオン君たちも秘密にしてねー?」


 言われるままにはしごを下りた先には、小さな部屋がひとつだけ。

 魔導具の灯りに照らされた部屋はせまい。

 僕たちが全員下りたらほとんど動けなくなるぐらいで、今もシランはだっこしたままだし、僕の肩の上にはトントロとピートロがのっていて、頭の上にはノクトが座っている。


『ふうん。何かあるのは知っていたけど、そういう事なのね』


 つぶやいたノクトが見ているのは布の下。

 僕もしっかりと見てみると布の向こう側に変な形の模様が書かれている。

 これ、どこかで見た事があるような?

 マリアが布をどかしてくれたけど、ちょっと思い出せない。


「これは……転移の魔導具ですか?」


 シアンの言葉で思い出す。

 ああ、中層からギルドの屋上に戻ってきた時のあれだ。

 なんか、塔みたいなのが光って、壁と床に書かれたやつ。

 そういえば、こんな感じだった。


「そうだよー。冒険者ギルドの秘密の抜け道みたいなものかなー」

「じゃあ、どこか別の場所に行けるの?」

「うんー。ここはギルドの隠し部屋につながってるんだー。上級のギルド職員しか知らない特別な部屋だよー」


 そうなんだ。

 それにしても、冒険者ギルドはひみつがいっぱいみたいで大変だ。

 しゃべっちゃわないように気を付けないと。


「なるほど、これはエルグラドの領主にも秘密というわけですね?」

「そうだねー。帝国とギルドは関係が深いけどー、手下ってわけじゃないからー、いざという時の準備かなー。といっても、ダンジョンのマナを使っているせいでー、街の中ぐらいしか繋げられないんだけどー」


 よくわからないけど、歩かなくてもすぐにギルドに行けるなら、よわよわなシアンはよろこぶかもしれない。


『マリアの紹介された店なのだから、こういう繋がりがあっても不思議ではないわね』

「うちの店を便利に使いやがって……」

「感謝しているんだよー、本当にねー」


 女将さんは冷たい目でマリアを見ている。

 マリアはなんだかいづらそうだ。


「はん。こいつが勝手に話を進めやがったんだ。うちはあくまで普通の宿屋だよ」

「繁盛してないねー。そういうお店だから注目されづらくて助かるんだー」

「あん? 誰の店がはやってない、だ? 何度も言うけどな。うちは客を選んでるんだよ!」

「はやってないのは本当でしょうー? 元高ランク冒険者の女将が怖いからねー」

「うっせー! 駆け出しの女の冒険者からは評判がいいんだ!」

「その割に、すぐに常宿から抜けちゃうじゃない」

「知るか。どいつもこいつも、すぐにパーティ仲間で結婚しやがって」

「それはあなたが女の子に料理を教えてあげたからじゃないの? 狙った男の胃袋をつかんで、って」

「まじかよ……」

「知らなかったのね」


 マリアと女将さんは仲良しだ。

 けど、僕の頭の上のノクトが声をかけた。


『そろそろ、いいかしら?』

「あ、あー、ごめんなさーい。じゃあ、さっそく飛びましょうかー」

「さっさと行ってこい。いつもどおり、行ったら片づけておく」


 女将さんは雑に手を振って、はしごの方に行ってしまう。

 そこは魔導具の外で、どうやらついてきてくれないらしい。


「女将さん、お世話になりました。いつか、必ず恩返しに来ます」

『色々と助かったわ』

「えっと、おいしいごはん、ありがとう」


 お礼を言うと、女将さんは鼻をならした。


「こっちは商売でやってんだ。礼なんかいらないよ。お前らみたいなトラブルメーカーがいなくなって清々したぐらいさ」


 そう言うとはしごを上がっていってしまった。

 暗くて他の人は見えなかったかもしれないけど、僕には女将さんの耳が赤くなっていたのが見えた。

 たぶん、本当にいやだって思ってはいないんだよね?

 人間ってむずかしいなあ。


「本当に素直じゃないんだから」


 そんな女将さんを見送ったマリアは、くるりと回って僕たちを見る。


「それじゃあー、いくよー?」


 そして、床にカードを当てる。

 僕たちが持っているギルドカードとはちょっと違う黒いカードだ。


 けど、中層から戻ってきた時と同じように銀色の光が浮かんで、形ができあがる。

 同時に目の前が白くなって、いろんな感覚がぶつんととぎれて、ふんわりとした一瞬の後に別の形になって戻ってきた。


「アニキ、なんか変な感じっす!」

「アニキ様ぁ」


 初めての転移でびっくりした二匹が不安そうに頭に抱き着いてくる。

 うんうんとうなずいてあげながら、僕は辺りを見回した。


「なんか、さっきと同じ感じ?」


 さっきの『迷宮の狭間亭』の地下と同じ部屋に見えた。

 部屋の大きさも形も似ているし、床の布も荷物もほとんど同じ位置にある。

 ちゃんと見たら違うのはわかるんだけど、変な感じだ。


「しっかり転移していますね」

『似た部屋なのはいざという時に混乱させるためかしら?』

「ご想像にお任せしますー」


 マリアはにっこり笑って、先にはしごを上がっていってしまう。

 すぐに僕もついていこうとしたら、どうしてかシアンとピートロに止められてしまった。


「レオン、めっです。スカートの女性を下から見上げるのはいけませんよ?」

「はい、アニキ様。ちょっとだけ待った方がいいと思います」

『まあ、デリカシー的な判断はできないでしょうけど、言う通りにしておきなさいな』


 ノクトまで言うんだからそういうものなんだろう。

 僕はトントロと首をかしげながら、いいと言われるまで待ってからはしごを上がった。


 上ではマリアが待っていた。

 そこも小さな部屋だったけど、金属の扉があって、テーブルとか椅子が置かれていて、壁には棚がある。

 転移の魔導具のあった部屋とはちがう意味があるのかな?

 そこで待っていたマリアだけど、なんとなくいつもよりニマニマした感じに見える。


「レオン君は、紳士だねー。お姉さんのスカートの中、興味なかったー?」

「うちのレオンを誘惑しないでください!」

『元ドラゴンの価値観の持ち主よ。普通の青少年の感覚とは違うわ』

「あー、そうでしたねー。本当にドラゴンだなんて見えないから忘れてしまいますー」


 うーん。

 やっぱり僕とトントロにはわからない話みたいだ。

 肩の上でうんうんとやっているピートロに聞いてみる。


「ねえ、ピートロ。僕、女の人のスカートの中を知りたくなった方がいいのかな? その方が普通の人間っぽいかな?」

「だ、ダメですよ、アニキ様! その、ふしだらです!」


 ふしだらってなんだろう?

 もじもじとしていたピートロだけど、急にぐっと目に力を入れて見上げてきた。


「その、アニキ様が、本当にどうしても見たいというなら、わ、わたくしが……」


 まっかになったピートロがぎゅっと自分のスカートのはじっこをにぎりしめた。


「こ、こら! それはいけませんよ、ピートロ! こ、こういうのはレオンにとって一番大切な存在の役割といいますか……とにかく、ダメです!」

「あらあらあらー、それはー、誰の事なのかしらね? ねえ、レオン君の一番大切な存在ってだーれ?」

「うーんと」


 いろんな人の顔が思い浮かぶ。


「『あの人』かな?」

「ぬぬぬっ!」

「シアン? やめて、ほっぺ突っつかないで」


 痛くはないけどくすぐったい。


「別に、わたしは悔しくなんてありませんけどね! ええ、レオンにとっての恩人なのですから、当然なのでしょうね! だから、わたしは嫉妬なんてしてませんよ!」


 言いながらもシアンは突っついてくる。

 シアンはとっても悲しそうな顔をしていた。


『というか、レオンの言う『あの人』は男なのでしょう?』

「そ、そうでした! レオン、女性で! 女性で一番大切な人は誰ですか!? 人間になってから出会った人で、名前に『シ』がついて、魔導の天才で、一緒に冒険をしている人とかじゃないですかね!」


 ノクトに言われたら、急に元気になったシアンが聞いてくる。

 とりあえず、最初に思い浮かぶのは一人だ。


「それはシアンだね」

「そうですよね! ええ、そうでしょうとも! ふふ、ちゃんとわかっているじゃないですか、レオン! ふふ、ご褒美に頭を撫でてあげます!」


 よくわからないけど、ほめられたからうれしい。


『まったく、このおバカさんたちは緊急事態にお花畑な事を』


 いっしょになでられそうになって、頭の上から下りたノクトがため息をついている。

 そんなノクトを抱え上げたマリアは笑っていた。


「でもー、緊張してガチガチよりはいいと思いますよー?」

『それが目的でからかったのかしら?』

「いえいえー、見ていて楽しいだけですよー」


 やっぱりわからない。

 いろんな事を考えて、考えて、僕はニコニコと頭をなでてくれているシアンに聞いてみた。


「僕はシアンのスカートの中を見ればいいの?」

「な、なにを言うんですか!? ふ、ふしだらですよ、レオン!」


 まっかっかになったシアンにぐにーっと顔を押されてしまった。

 ダメだ。

 人間ってむずかしすぎる。


 普通の人間になるにはまだまだ道が遠そうだと考えていると、外から誰かが部屋に入ってきたのが見えた。


「やれやれ、にぎやかだね。キミたちは」


 そう言えって大げさに肩を持ち上げて笑ったのはギルドマスターだった。


「元気そうだな、坊主」


 その後ろからついてきたのは何度かお話もした冒険者のおじさん。

 おじさんの仲間の人たちも入ってきて、声をかけてくれる。


 トントロとピートロの事を隠さないといけないかと思ったけど、誰も二匹の事を見てもおどろかない。


「さあ、これからの事を話そうか」


 椅子のひとつに座って、ギルマスが僕たちを見回した。

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