74 ドラゴンさん、デート?する
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「ふふふーん、ふふん、ふーん♪」
シアンはとってもごきげんだ。
鼻歌を歌いながら、ぴょんぴょん歩いている。
ちょっと前まで先に行って、くるりと回って僕が追いつくのを待って、それからまた前に行ってしまう。
「ほら、レオン。早くしないとお店がしまってしまいますよ」
それはいけない。
僕はちょっと歩くのを早くしてシアンに追いつく。
でも、シアンの体はちっちゃいからそのままだとおいていってしまいそうだから、シアンといっしょになるように歩いた。
「ふふ、レオンは精進しないといけませんよ。こういう時、男の子がエスコートするものなんですからね!」
こういう時ってお買い物する時?
なるほど、シアンは僕を知らない事をたくさん知っているなあ。
「エスコートってどうやるの?」
「そうですねえ。ええっと、道を歩く時に荷物を持ってあげたり、危なくないように注意したり、行き先を案内したり?」
なんて事だ。
僕、どれもやってないよ。
けど、シアンは荷物を持ってないし、危なくないようにって……敵はいるの? いないよ? 案内も僕はできない……。
「ねえ、シアン! 他には? 僕にできるえすこーとって何?」
「ええ!? えっと、わたしも経験者じゃないから詳しくはありませんけど……」
シアンはぶつぶつ言ってから、自信がなさそうに続けた。
「デートプランを考える、のはレオンにはまだ難しいですねえ。ちょっとした気遣いもいけそうな、いけなさそうな……無意識にやりそうですからわたしはドキドキですけど」
たくさん考えてくれているけど、僕があまりにできないダメドラゴンだから、シアンでもいいのが思い浮かばないみたいだ。
しゅんとしていたらシアンがあわて始めた。
「ああ、そんなに落ち込まないでくださいよ! ええっと、じゃあ、はい! わたしの手を握ってください! 優しく! 愛情をこめて!」
手をにぎる。
うん。それなら僕でもできる。
よわよわのシアンの手をつぶしてしまわないように、そっと手をにぎりしめた。
細くて、やわらかくて、ぬくい手だ。
僕のとはぜんぜん違うし、ノクトの肉球とも違うし、トントロとピートロとも違う。
どうしてかシアンは下を見たまま顔を上げない。
髪の間から見える耳がまっかっかになっているけど、何か僕は失敗しているのだろうか?
「シアン? 僕、ちゃんとできてる? いやじゃない?」
「嫌なんて言ってませんよ! ええ、その、なかなかいい感じじゃないですかね! ……改めて手をつなぐとなかなか恥ずかしいんですねえ」
いろいろと言っているシアンの顔は赤いままだけど、機嫌はとってもいいみたいだ。
僕の手を引いて、どんどん進んでいく。
冒険者の街が終わって、あの弓聖像の辺りまで来ると街の感じが変わってきた。
「なんだか、この辺りの建物は大きいし、キラキラしているね」
「中央街ですからね。お金持ちしか住んでいませんから」
いやそうな顔をするシアン。
お金を持っている人がきらいなのかな?
僕も弓聖像がきらいだから、同じかもしれない。
弓聖像の足元には一番大きな建物があった。
高い壁と、鉄の柵があって、周りには戦える人たちがいっぱい歩いていて、その奥の庭の向こうにはとっても大きくて高いお家。
シアンが教えてくれたけど、ここが弓聖さんの子供の子供の子供の子供の……シソンという人たちがいるんだって。
「レオンは思うところがあるかもしれませんが、弓聖には関わらない事をお勧めしますよ」
「うん。僕は弓聖さんの像がいやなだけだから、弓聖さんはどうでもいいよ」
「どうでもいい、ですか。レオンは器が大きいですね」
よくわからないけど、ほめられた。
やった。
それからお話しながら北の方に行くと、また街の様子が変わってきた。
中央街より人がいっぱいになって、なんだか話し声もたくさんで、いろんな匂いがあって、にぎやかな感じだ。
道には馬車が行ったり来たりしていて、道の奥では荷物をのせたり下ろしたりして、とてもいそがしそう。
建物は中央街より小さくなっているけど、きれいなのは同じぐらいかもしれない。
この道から見えるどれもが人の住む家じゃなくて、商人さんのお店なんだ。
「ここの辺りからが商人街です。商人の方の店舗が多いですから、その近くにあるのは商売に関するお店が多いのが特徴ですね」
シアンはトールマンからもらった紙を見ながら歩いていく。
大きな道からひとつ曲がった先の道。
そこを少し歩いていたら、まわりよりちょっと大きい店が見えてきた。
「さて、目的地はここみたいですね」
シアンがそのお店の前で止まる。
ピカピカの白い壁の建物なんだけど、なぜか壁の向こう側がすけて見える部分がたくさんあった。
向こう側には服を着たたくさんの……人形?
「ガラス張りの店舗ですか。さすがはボルケン商会の高級路線の服屋ですね」
ガラス……向こう側が見える部分の事かな。
中にはきれいな服を着た人たちがいっぱいいて、人形の着ている服を見ていた。
そして、お店の前にはかっこいい服を着ているけど、戦える人が四人。
その人たちの一人――女の人が僕たちに近づいてくる。
「失礼。当店に御用でしょうか? 当店は然る筋からの紹介状をお持ちでなければ入店をお断りさせていただいておりますが……」
むずかしい言葉を使う人だ。
戦える人はちょっとだけマナを吸って、生命力に転換しながらお話しているけど、なんだろう、この人は僕たちの敵なの?
シアンに危ない事をするなら止めないと。
僕もちょっとだけマナを吸って、生命力と魔力に転換しておく。
それに気づいた女の人がビクッとなって、他にいた三人の戦える人もカチーンってかたまってしまった。
「――っ、お、お客様!?」
「ああ。もう、レオン。大丈夫ですから」
「そうなの?」
だいじょうぶらしい。
シアンが言うならいっか。
僕が生命力と魔力をまわりに流すと、戦える人たちが何度も深呼吸を始めた。
そんなにマナを吸っても、ちゃんと転換できてないから意味ないよ?
「紹介状はこちらです」
「は、はい」
シアンはトールマンからもらった紙を渡した。
女の人はちょっとまだふるえていたけど、指先に生命力を集めると、爪を強化して紙を少しだけ切る。
紙の中から出てきた紙をさっと見ると、それから深々と頭を下げてきた。
「当商会のトールマンからの紹介状、確かに拝見いたしました。高位冒険者と存じ上げなかったとはいえ、先程は大変な失礼をいたしました。平にご容赦を」
「? なんのこと?」
女の人が僕を見る目はまだ怖がっている感じだし、むずかしい言葉はよくわからないけど、心からあやまっているみたいだからうなずいておく。
でも、なんであやまられたんだろう?
「レオン、こちらの方はお店で悪い事をする人がいないか調べるお仕事をしているんですよ。だから、わたしたちがどこの誰かわかるまで、警戒していたわけです」
そっか。
女の人も僕たちが敵かどうかわからなかったんだ。
敵かもしれないから生命力を準備していたんだね。
「そこにレオンが生命力を集めたからびっくりしてしまったんですよ」
「そうだったんだ。ごめんね。おどろかせちゃって。ただ、僕はシアンを守りたかっただけなんだ」
悪い事をしちゃったら、あやまる。
「も、もう。レオンってば過保護なんですから。わたしが大切なのは仕方ないですけど、他の人に迷惑をかけてはいけませんよ」
「うん。気を付ける。お姉さん、本当にごめんね?」
「い、いえ。とんでもございません。では、こちらへどうぞ。ご案内いたします」
急にふんわりした感じ、というか、力が抜けた感じになった。
生命力も普通に戻っている。
女の人に何があったんだろう。
女の人に連れられてお店の中に僕たちは入っていった。
女の人(28歳・独身・恋人なし)
バカップル来店→内心は隠しながら通常通りに警戒しつつも接客→警戒に対して数十倍の威嚇(当人に自覚なし)→誤解が解けて安心したら惚気られる。
彼女のこの時の心理を答えよ。




