73 ドラゴンさん、ひとりでできるもん?
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「……服を魔導装備にしたい、だあ?」
「うん」
ダンジョンから帰った次の日、僕はトールマンに会いに来ていた。
昨日と同じ服なのは赤いコートだけ。
下のシャツとかズボンは新しいやつだ。
トールマンにほしい物を教えたら、すごいすっぱそうな顔になってしまった。
変な事を言ったつもりはないんだけど、ちゃんと伝わらなかったのかもしれないから、しっかり話す。
「ボロボロになっちゃったから、新しいのを買いたいんだ」
「冒険者なら当然だな。だがよ、そういうのは消耗品だろう」
消耗品。
難しい言葉だ。
とりあえず、トールマンが売ってくれそうにない感じなのはわかった。
「けど、戦うとボロボロになるからもったいないよ」
「もったいないって。いや、普通は魔導装備なんて高級品を集める方がよっぽどもったいねえだろう」
そうなのかな?
でも、僕はちゃんとおぼえている。
魔導装備は銀貨10枚ぐらいだって。
それなら買える。
「昨日、お金もらえたから」
シアンとノクトがマリアといっぱいお話して、お話して、オハナシして、お金をもらえる事になったんだ。
そのお金を今日の朝、持ってきてもらえて、僕とシアンで半分っこした。
だから、お金はある。
「もらえたって、あの後のダンジョンで稼いできたのか? なんか大騒ぎだったみてえだが、お前らは平気だったのか? 商人の情報網でも何もわからねえんだがよ」
うん。いろいろとあった。
けど、どこもケガはしていないから、だいじょうぶ。
「へいきだよ」
「そうか、巻き込まれなかったんならいいがよ。んで、稼げたってどれぐらいだよ。俺も商人だからな。金を払えるっていうなら売るのはいい。だから、予算を聞かせてくれ。話はそれからだ」
予算。
えっと、物を買うためのお金の事、だよね?
僕はお金の入った袋を渡した。
数えるのがたいへんだからじゃないよ?
「はい。これ」
「って、また無造作に渡して――おい。待て」
トールマンが手のひらを向けてくる。
よくわからないけど、とりあえず、僕の手を当ててみた。
「ハイタッチじゃねーよ! こっちだ、こっち! さらっと金貨なんか出すんじゃねえ!」
「ダメなの?」
「金貨が5枚とか、心臓が止まるかと思ったぞ」
そういえば、朝のシアンとノクトもそんな感じだった。
声も出ないで、ふたりで手をつないでグルグル回っていたっけ。
あれ、楽しそうだったなあ。
ダンジョンで倒したモンスターはあまりお金にならなかったみたいだけど、ヘビ女がすっごい高くなったんだっけ。
あと、お礼と……昨日の事をお話しないぶん、だっけ?
思い出していると、トールマンが太い腕を組んで、それから周りをにらみながら顔を近づけてきた。
「こんな路面のテントで扱う額じゃねえし、そう気やすく持ち歩く額でもねえ。落としたりとか、盗まれたりとか考えねえのか?」
「取られたら返してもらうよ?」
「お前、そうは見えねえが本当に強い冒険者なんだな。こんな大金を一日で稼ぐって事は高ランクの冒険者なのか?」
「うん。ほら!」
もらったばかりのギルドカードを見せてあげる。
「ランクもレベルも見えねえよ。どんな冒険者だよ。ったく。で、こいつを全部使うつもりなのか?」
「えっと……」
魔導装備がひとつ、銀貨10枚で。
銀貨は50枚で金貨になって。
金貨が5枚あって。
だから、魔導装備が、ええっと、いっぱい買える、よね?
「どれぐらい使えばいいの?」
「それを俺が聞いているんだよ。なんなんだ、これは。商人として試されているとしか思えねえ。どこかで誰かが見張ってんじゃねえだろうな……」
見張っているというのはよくわからないけど、『迷宮の狭間亭』からずっとシアンがついてきているのは知ってる。
買い物に行きたいって言ったら、なんだかグヌヌヌヌみたいな顔をしながら『いってらっしゃい』って言ってくれたんだけどなあ。
かくれようとしているみたいだから、話しかけない方がいいのかなって思って、そのままだまってるけど。
いっしょにお買い物した方が楽しいと思うんだけど……。
「あー、俺で見積もるぞ? レオンが必要としているのは冒険用の服が一式で魔導装備。まあ、シャツとズボンとブーツってところか。後は小物類、と」
トールマンはぶつぶつとつぶやいてから、袋の中を見た。
それからまた少し考えて、そのまま返してくる。
「ダメだな」
「え、どうして!?」
トールマンがいじわるな事を言う。
「お金、足りない!?」
「足りてるよ。余り過ぎるぐらいだ。そんだけありゃあ、豪邸のひとつだって買えちまうぐらいにな」
……あれ? 家、買えるの?
衣食住の家、買えちゃうの?
あ、でも、今はそっちよりも衣の方だ。
「じゃあ、どうして?」
「俺の管轄は武具屋だからよ。そのコートみたいな戦闘服は扱ってるが、普段着となると管轄が違う。だから、ボルケン商会の専門店を当たりな。紹介状と地図は書いてやるよ」
そう言ってトールマンはテントの中に入ってしまった。
どうしよう。
トールマンの話がむずかしくてよくわからなかった。
僕がこまっている間にトールマンはすぐに戻ってきて、なんだかきれいな紙と、絵の描いている紙を渡してきた。
「ほらよ。そこは高級志向の店でも貴族専門店じゃねえ。冒険者の相手もしてくれる。入り口の店員にそいつを渡せば悪いようにはされねえだろ」
トールマン、ついてきてくれないかな?
そんな事を考えながら見てみるけど、トールマンはもうテントに戻ってしまうところだった。
妹の天使とお話しているみたいだ。
とっても、とっても、とっても甘くて、しあわせそうな声をしている。
あれをジャマしちゃうのは悪いよね?
テントの前にいてもしかたないから歩き始めるけど、どっちに行けばいいかわからない。
地図を見てみるけど、ここがどこなのかもわからないよ。
たぶん、この赤い丸い所がお店なんだと思うけど。
「ええっと、方向。方向って、あの弓聖像を見て……見たくないなあ。でも、ガマンして……わからない。どっちがどっち?」
紙をひっくり返したりしていると、後ろから声をかけられた。
「まったく、レオンは仕方ありませんね! わたしがいないと一人でお買い物もできないんですから!」
「シアン?」
あれ、かくれてないでいいのかな?
聞いてみたいけど、シアンはとてもキラキラした顔をしているし……まあ、いっか。
「どうしましょうかねえ。優しいわたしは困っている人を放っておけませんからねえ。レオンがどうしてもって言うなら、一緒にお買い物してあげない事もありませんよ! ええ! 決して誘ってもらえなくて残念だなんて思っていませんし、隠れてついてきていたわけじゃありませんよ! 散歩していたら偶然見つけてしまっただけですから!」
たくさん言っているけど、どうやら散歩をしていたらしい。
ついてきているんだって思っていたけど、たまたま同じ方を歩いていたんだね。
それにしても、シアンがいっしょに行ってくれるなら安心だ。
「シアン、僕といっしょに買い物してくれる?」
「へ、へへ。そ、それは、どうしても、ですか?」
「うん。どうしても。シアンがいっしょじゃないとやだ」
シアンの手をにぎって、お願いする。
シアンはほっぺをちょっと赤くして、それからいつもの自信満々な笑顔を見せてくれた。
「仕方りませんね! このわたしに任せてもらいましょう!」
そうして、僕たちはトールマンに教えてもらったお店に向かうのだった。




