69 ドラゴンさん、帰り支度を終える
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「痛くない? きついとこない?」
「へいきっす! オイラはいつかアニキみたいな強くなるオスっすから!」
「あの、すみません。わたくしはちょっときつくって。もう少し緩めていただけると……なんだか縄が色々と食い込んじゃって」
ヘビ女よりも気を付けてトントロとピートロを毛布とひもでグルグルにした。
どうしてかわからないけど、とってもおいしそうな感じがしてちょっと困る。
ぷにぷにのお肉に食い込んでしまっている部分をゆるくしてみるけど、なかなかうまくいかない。
「ああ、背中が出てしまっていますね。ちゃんと毛布で隠してあげないと見つかってしまいますよ」
そう言ってシアンが手伝ってくれた。
シアンは他のモンスターを縛っていたみたいだけど、もうそっちは終わってしまったみたいだ。
「まずは結び目をほどいて、ちょっと紐を長く残して、もう一度……うっ!」
けど、途中で手を押さえて丸まってしまう。
びっくりしてのぞきこむと、顔色が悪い。
「シアン!?」
「う、腕が、腕が……つりました」
『貧弱すぎなのよ、あなたは』
涙目で腕を押さえるシアンに、ため息をつくノクト。
ノクトはもうエントランス中のモンスターを影にしまってしまったらしい。
体がよわよわなシアンはつかれているからしかたないよね。
今日はいろいろあったもんなあ。
ダンジョンをずっと歩いて……ない。ほとんど僕がだっこしていた。
魔導をいっぱい使った……けど、もう魔力は戻っている。
戦いは……やっぱりずっと僕が抱えていたし、なんか猫っぽくなった時はよわよわじゃないから、そんなに関係なさそう。
今日のシアンが一番体を動かしたのって、ダンジョンの階段を下りた時?
「すみません、レオン。わたしはここまでのようです。後は任せました」
「うん。シアンは絶対に外まで連れて帰るから。任せて」
『そんな悲壮な覚悟はいらないわよ。後は帰るだけなんだから』
「アニキ、カッコいいっす!」
「アニキ様とアネゴ様の愛を感じます……」
『……あたしの味方はいないの?』
なんだかノクトがぐったりしている。
ノクトはだいたいキリってしてるけど、たまにぐでんってなるよね。
『はぁ。もう、帰るわよ。レオンは荷物を持ちなさいな』
「レオン、わたしもおんぶしてもいいんですよ?」
『シアン、そんなだから体力がないままなのよ』
「うん。わかったよ」
言われた通りに荷物――ヘビ女を巻いたのと、トントロとピートロを包んだのと、モンスターを何匹かまとめたのを持ち上げて、それからシアンを背負う。
ちょっと持ちづらいけど、重くはないからだいじょうぶだ。
『まったく。レオンはすぐにシアンを甘やかすんだから。って、その前にレオン。その腕と角。なんとかならないの?』
言われて思い出した。
そういえば、腕がドラゴンっぽくなったままだし、折っちゃったけど角も残っている。
これがあると調子がよくなるし、闘気法を使ってもだいじょうぶだけど、このままじゃ街に入れないんだよね。
なんとかって、前はどうしたんだっけ?
翼は押し込んだら戻ったから、角も戻るかな? あ、引っ込んだ。
腕も……うん。
鱗が落ちて、爪もちぢんでいく。
「なんとかなったよ!」
『本当にどういう原理なのよ、それ。生物としての在り方が理解できない……』
「ああ、かっこよかったのに……」
「アニキ、よくわからないっすけど、なんだかすごいっす!」
シアンとトントロがお話していたけど、最後はノクトが肉球でぐにっとふさいでしまった。
「ほら、お兄ちゃん。静かにしていないと。お外に出るまではしゃべっちゃダメだよ?」
「おう、オイラに任せろ、ピートロ!」
「もう! だから、しーっ!」
『ピートロ、トントロをお願いするわ。あたしはこっちの問題児だけで手いっぱいだから。あなただけが頼りよ』
そう言ってからノクトは倒れたままのギルドナイトの人の方に歩いていく。
あのギルドナイトの人はダンジョンに入る時にお話した人だっけ?
その人はほっぺをぐいぐいと肉球で押されると、小さな声をもらしながら目を覚ました。
「っつう――ぁ、あ? なんだか幸せな感触が……」
『寝ぼけていないで目を覚ましなさいな。仕事はどうしたの、ギルドナイトさん?』
「仕事……あ!」
ノクトが声をかけるとばっと跳ね起きた。
あちこちを見回して、倒れた人とか、壊れた建物とかを見てびっくりしている。
「これは……一体何が?」
『さあ、それを調べるのがあなたたちの仕事でなくて?』
それだけ言って、ノクトは近くにいた冒険者のおじさんを起こす。
おじさんはギルドナイトの人よりもすぐに目を覚まして、バババッと起き上がると剣を抜いて身構えた。
「――あ? なんだ、こりゃあ」
『それはこっちの台詞なんだけど、現場検証とか後始末ぐらいはお願いできないかしら? こちらも疲れているから戻りたいのよ』
「お前ら無事で……って、そうじゃねえ。俺らは擦り付けのクソどもを絞めようとしたら、連中の荷物から化け物が出て……覚えてねえな。それがこのありさまで、検証に始末……ちっ、わけがわからねえ。わからねえが、こりゃあもう終わっちまった後か?」
剣を手にしたまま頭をかいて、おじさんは苦そうな顔をする。
たくさん抱えている僕を見てびくっとした後、ノクトみたいにため息をついた。
「……道連れ兎と同じだな」
『察しが早くて助かるわ。もう喫緊の危険はないはずだけど、エントランスがこのままだと危ないでしょ?』
「はあ。面倒事を……まあ、いい。代わりに上から応援を呼んでくれ。おい、ギルドナイトのあんちゃんもそれでいいよな?」
「あ、はい。そうですね。これは緊急事態想定の第三事項です。隊長か副隊長を呼ばないと。すみませんが、これを持って上がってもらえませんか? 本来なら私が行くべきなのですが、この状況で離れられませんので。もちろん、少額ですが報奨も出します」
『ええ、それぐらいなら構わないわ』
ギルドナイトの人が差し出したナイフをノクトは影にしまった。
ツンとした言い方をしているけど、しっぽが幸せそうに揺れている。
それで話は終わったみたいで、ノクトはこっちに戻ってきた。
おじさんとギルドナイトの人は周りの人を起こして回るみたいだ。
いろいろとあったけど、後は任せていいのかな?
『じゃあ、帰るわよ。わかっていると思うけど、外に出たらレオンは黙っている事。トントロとピートロは一切口を開かない。シアンはレオンのフォローを』
僕たちにだけ聞こえる声でノクトが伝えてくる。
この前といっしょだね。
難しいのはシアンとノクトがやってくれるから、僕は聞いていればいい。
『今回はギルドに長居しないわ。『迷宮の狭間亭』に逃げ込むわよ』
トントロとピートロを見られないようにするんだよね。
女将さんはびっくりするかなあ。
するよなあ。
でも、なんとなくだいじょうぶな気がするからいっか。
うなずいていると、最後にノクトはシアンを見た。
僕の肩に頭をのせてふんにゃりしているシアンは、ノクトがとってもやわらかくて、優しそうで、でも、とっても怖い顔をしているのに気づかない。
『それで、疲れているのを理由に早く撤退するから……シアン』
「え、あ、はい? なんです?」
『階段、上がって戻りなさいな』
シアンは声もなく背中からずるりと落ちてしまった。




