68 ドラゴンさん、後始末をする
少し遅れました。すみません。
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「ダメみたいですねえ。モンスター化は解除できていません。あ、起きました。再展開――水閃鋭刃」
丸呑み蛙の様子を見ていたシアンが首を振る。
そして、起きてすぐにシアンに襲い掛かろうとしたカエルに、水の剣を突き刺して倒してしまった。
『これで五回目の失敗ね』
ノクトがカエルを影にしまいながら小さく息をはいてる。
塔から下りた僕たちが最初にやったのは、まず気を失っているモンスターを元に戻せるかたしかめる事だった。
トントロとピートロの時の事を思い出しながら、ダンジョンからやってきたモンスターや、エントランスで飼われていた動物でモンスター化したのを元に戻そうとしてみたんだけど、どうやってもうまくいかない。
それどころか、生命力と魔力をわけてあげたせいで目を覚ましてしまったから、僕とシアンでやっつける事になってしまった。
「どうしてだろ? 角じゃないとダメなのかな?」
シアンにしかられてしまったし、その後に反省したから角は使わないで、今は落ちている石とかを使ったんだけど、それがいけないんだろうか?
『何分、あまりに異例過ぎて判断材料が少なすぎるわね。レオンの角の欠片が重要なのか、それともレオンと相性が問題なのか、それともモンスター化からの時間経過が関係しているのか』
ノクトがモンスターの魂魄を見つめながらつぶやいている。
何を言っているかよくわからないけど、なんとなく僕はトントロとピートロだから元に戻れたんじゃないかなって思ってる。
『ダメね。検証するには時間が足りないわ』
「ですね。そろそろ他の人が目を覚ましてしまいそうですし。レオンは大丈夫ですか? かなりの生命力と魔力を使ってもらいましたけど……」
ぜんぜんへいきだよ。
生命力と魔力を使っても、またマナから転換すればいいだけだし。
『相変わらず出鱈目ね。それだけマナから転換して疲れもしないなんて』
マナから転換したらつかれる……。
そうなの?
いまいち、その感じがわからなくて首を傾げていると、シアンが困ったように笑って、トントロとピートロの方に声をかけた。
「トントロとピートロはどうですか? 慣れない体ですけど、無理はしていませんか?」
「シアンのアネゴ! オイラは元気っす! これぐらい、いくらでも運んでみせるっす!」
「お兄ちゃん、わたくしは、もう、ちょっと……」
僕たちがモンスター化を治そうとしている間、トントロとピートロは倒れた人たちを集めてくれていた。
トントロはなかなか力持ちみたいでどんどん運んでいるけど、ピートロは休みながらつれてきている。
『あら、なかなか働けるようね? やるじゃない』
「ノクトのアネゴにほめられたっす!」
「わたくしはもっと頑張らないと……」
トントロとピートロははりきって残りの人を連れてきてくれる。
これならすぐに他の人も運んでくれそうだ。
僕たちの周りにはギルドナイトや冒険者や商人の人が並んでいた。
「ねえ、みんなだいじょうぶなんだよね?」
『あなたの目にも見えているんでしょう? 汚染されたマナの影響と、無理に体を使われたせいで気絶しているだけよ。魂魄は無事。しばらく体調不良になるかもしれないけど、数日もすれば治るでしょ』
「ケガ人もいますけど、軽傷ですしね」
シアンとノクトがそう言ってくれると安心する。
「では、もう少し頑張ってくださいね」
「うっす! オイラ、やるっす!」
「はい! わたくしなりに頑張ります!」
トントロとピートロを手伝ってあげたいけど、その前に僕たちはヘビ女のところに向かった。
ヘビ女の体は倒した時と同じでそのままだ。
胸に空いた穴も治ったりしていないし、消し飛ばした魂魄も消えたまま。
『……信じられない。魂魄の欠片も残ってないじゃない。本当に魂魄そのものを攻撃したのね、あなた。そんな事、誰にもできないわよ』
じろりとノクトに見つめられながらほめられて、てれてしまう。
「えへへ」
『褒めてないわよ? いえ、感心はしているけど。まったく、規格外もここに極まれりね』
どっちなんだろう?
よくわからない。
「ともあれ、復活の予兆はないんですね?」
シアンはヘビ女を警戒しているみたいで、すぐに魔導を使えるように準備している。
ノクトは相手の魂魄がわかるし、僕もなんでか見えるようになったから、このヘビ女に魂魄が残ってないってわかるけど、それがわからないシアンは不安みたいだ。
「だいじょうぶだよ。何があっても僕がシアンを守るから」
安心してもらおうとシアンの目を見て話しかけると、まっかになってしまった。
「も、もう! レオンはしょうがありませんね! なんですか、今のはわたしを一生守る宣言ですか!? プロポーズですか!? この美少女魔導使いであるわたしのナイトになりたくなってしまうのは宿命でしょうけど、簡単になれると思ってはいけませんよ!」
よくわからないけど、これからもシアンと友達でいたいし、守ってあげたい。
でも、シアンは簡単にできないって言う。
こまった。
どうしたらできるようになるんだろう?
「どうすればいいの?」
「そうですね……これから毎日、わたしの頭を撫でながら、いいところを褒めてください! そうしたら考えてあげましょう!」
うん、わかった。
僕はシアンの頭をなでながら、思いついたことを言う。
「僕はシアンの笑った顔が好きだよ」
「ふぁ……」
シアンがストンと座りこんでしまった。
やっぱりつかれているんだろうか?
とりあえず、いつもみたいに抱えてあげる。
『……天然たらしドラゴン』
「?」
『なんでもないわ。おバカさんたち。とりあえず、この蛇女を梱包するわよ』
ノクトが影から色々と浮かばせていく。
布だったり、ヒモだったり、長い棒だったり。
本当にノクトはいろんな物を影にしまっているんだなあ。
『ほら、指示するから言われた通りに作業なさい』
この前、テントを作った感じで楽しそうだ。
「けど、どうして影にしまわないの? あ、もしかして、おなかいっぱい?」
『お腹……違うわよ。こんな得体のしれない相手をあたしの領域に入れたくないだけ』
「そっか。おなかを壊したらいけないもんね」
『……ああもう。そうね。それでいいわ。とにかく、体を動かしなさいな』
納得したから手を動かす。
ヘビ女をたたんで、布で包んで、ひもをグルグルして、棒をぶす、っと。
なんだか棒の先に丸いかたまりが刺さったみたいになったし、布がうまく巻けなくて中身が見えているけど……うん。
「できた!」
『……まあ、いいわ。なんか、やたらとガチガチに縛り付けられているし。小細工する手間が省けたし。ほら、持って来なさいな』
片手にシアン、片手にヘビ女巻きを持ってトントロとピートロのところに戻る。
二匹ももう倒れている人たちを集め終わったみたいだ。
エントランスには倒れた動物とモンスターしかいない。
『さて、準備はいいわね。ほら、シアン。寝たふりはそれぐらいになさいな』
「はひ!? 寝たふり? な、なん事だかわかりませんね! あー、よく休みました!」
ノクトが声をかけると、腕の中のシアンがビクンとはねた。
まっかな顔でワタワタしながら立とうとしているから、ゆっくり下ろして上げる。
「ええ、休んだおかげで疲れも吹っ飛びましたよ!」
『そんなにレオンの腕の中が心地よかったのかしら?』
「アネキ様……大胆です」
女の子たちが元気だ。
僕とトントロには何がなんだかわからなくて、二人で首を傾げてしまう。
まあ、元気なのはいい事だよね。
『もう、それでいいわ。それより、しっかり狙いなさいな。茹った頭で魔導を失敗なんてしたらお説教よ?』
「誰に言っているんですか、わたしは天才ですよ? 失敗なんてしません」
何度か深呼吸をしたシアンは、マナを魔力に転換していく。
かなり魔力を生み出しているけど、どうするのかな?
「さて、操られただけかもしれませんが、モンスターを放っておくわけにはいきませんからね。ここでわたしたちの糧になって下さい」
掲げた杖で天井を差す。
「線・多数展開/20・水属性――水閃鋭刃」
ごっそりなくしてしまった天井の鍾乳石の代わりみたいに水の剣が生まれる。
数はとってもたくさん。
それでもシアンは魔導を止めない。
「再展開・再展開・再展開・再展開」
くりかえして四回。
魔導具の光を受けてキラキラ光る水の剣。
「――水閃針樹林!」
いっせいに降る水の剣が倒れたモンスターを貫いていく。
倒れたままの動物は避けて、モンスターだけに刺さってはただの水に返っていた。
たくさんの水が散ったせいで霧ができて、それが風に流された後にはもう、生きているモンスターは残っていない。
「さて、帰りますか」
『影にしまうから、その間にその子たちも梱包してしまいなさいな』
あっさりと言うシアンとノクト。
その目が見ているのはトントロとピートロ。
「アネゴ!? オイラたちもエサにするっすか!? オイラ、おいしくない……いや、おいしいかもしれないっす! アニキ! オイラ、どうすれば!?」
「ダメだよ、シアン! トントロとピートロは僕の家族だよ!」
僕はトントロとピートロを抱きしめる。
けど、僕を止めてきたのは腕の中のピートロだった。
「あの、アニキ様。お兄ちゃん。たぶん、違うと思いますよ?」
そうなの?
ふるえるトントロを抱きしめながら見れば、シアンはこまったように笑っていて、ノクトは深くため息をついていた。
「違いますからね? いえ、そのポジションはわたしの場所なんて思ったりしていませんからね?」
『当たり前でしょ。その子たちを外に連れていくための小細工よ』




