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ドラゴンさんのセカンドライフ  作者: いくさや
第二章 街住まいのドラゴン
62/179

61 ドラゴンさん、ショックを受ける

 61


『考察は任せるわよ』


 ノクトがため息をつくと、ちょうど水が止まってしまった。

 もう水は残っていないみたいだ。


 でも、塔の近くにいた人たちは転んでもつれて、すぐには動けなくなっている。

 びしょぬれの人たちを見下ろしたシアンが一度うなずいた。


「なるほど。最低限の行動はできるものの、最大限の能力は引き出せていないようですね」

「そうなの?」


 シアンが指さしたのはギルドナイトの人だ。

 着ている鎧が重いのと、地面がぬれてすべるせいで、起き上がるのが大変みたいでもちゃもちゃしてる。


「ギルドナイトに選ばれる人は闘気法のレベル3まで使えますし、ダンジョンの防衛任務に就くメンバーの中にはレベル4の使い手もいます」


 ええっと、前にノクトが教えてくれたっけ。

 闘気法をどれだけうまく使えるかでレベルが上がるとかで、5が一番上だったような?

 細かいのは忘れてしまったけど、3とか4ならいい方なのかな?


「闘気法を使っていればあんな水ぐらいでああはなりませんし、いくら滑りやすくても起き上がれない程じゃありませんからね。あの蛇女が操るといっても体だけなのかもしれません。つまり、洗脳の類ではない、と。あと、ダメージを受けたり、水を浴びても正気に返らないという点も考えると、催眠術も除外していいかもしれませんね」


 スラスラと言葉をならべていくシアン。

 僕は聞いても意味がわからない。

 ただ、シアンがみんなが操られている原因を見つけようとしているのぐらいは、なんとなくわかった。


「人を操るとしたら後は……脅迫、の可能性は除外できるでしょう。動物とモンスターを操る説明ができませんし。犯罪奴隷に使う魔導契約というのもありますが、これも現実味がありませんね。この数に使うにはあまりに多すぎますし、そもそも魔導の痕跡もありません。だとしたら、やはり、あの時のドラゴンと同じなのでしょうか?」


 あの時のドラゴン。

 上層の主部屋で戦ったあいつの事だ。


「わたしは少ししか見ていませんでしたが、十字架がいきなり現れていましたよね?」


 ああ、そういえばそうだった。

 変な十字架が頭の後ろに出てくると、いきなり見えない何かにかまれてしまうんだった。

 あれは痛かった。


「うん。痛いだけだったけど」

「まあ、あれはレオンがまるっと無視していましたけど、かなりの理不尽だったんですよ? 魔力の働きはありませんでしたからね。どういう理屈なのか、まるで想像できません」


 そういえば、そうだった。

 生命力とか魔力が使われているなら、その気配を感じられたはず。

 それがなかったから、あの十字架が出てくるのに気づけなかったんだ。


「今のこれも同じ理不尽の臭いがします。そう、生命力とも、魔力とも違う。もっと異質な……これ、ちょっと覚えがあるかも?」


 シアンは腕を組んで考え込んでしまった。


 でも、なるほど。

 相手はあの時と同じだけど同じじゃないドラゴンだ。

 似たような攻撃をしてきてもおかしくない。


「うーん。ここまで出てきているんですけど、思い出せませんね。いいでしょう。いま問題なのはその手段と、止め方です」

「止め方。あの時も止められたわけじゃないからなあ」


 噛まれてもそのまま近づいて殴っただけだし。


 となると、やっぱりノクトにヘビな女の人を見つけてもらわらないといけなくなる。

 見つけてしまえば、後はまっすぐに行って、思いっきり殴るだけだ。


「とにかく、今は時間を稼ぎましょう。さっきの水で倒れていた人たちももう起き上がってきていますから……」


 塔の下ではギルドナイトや冒険者の人がまた弓を構えていた。

 あ、ダンジョンですれ違ったおじさんたちもいる。

 おじさんたちの近くにいるのはそのちょっと前に見た、やな感じの冒険者だ。


 目が合った気がして手を振ってみるけど、返ってきたのは投げられた石だった。

 こっちまで届かないけど、嫌われたみたいで悲しくなる。


プラン多数展開マルチ/3・水属性ブルー――水面障壁アクアウォール


 シアンが魔導で水の壁を作る。

 矢が飛んでくるけど、どれも壁を抜けられないで飲み込まれていった。


「しかし、妙ですね」

「何が?」


 次の魔導の準備をしているシアンが首を傾けている。


「いえ、モンスターの襲撃があれからないな、と」


 そういえば、最初のハチを落としてからモンスターは静かだ。

 見ると、塔を囲んだ人たちの後ろに動物たちが並んでいて、その後ろにモンスターが並んでいて……あれ?


「動物たちもおとなしいね」

「それは単純に攻撃手段がないだけでは? 鶏は空を飛べませんし、牛や豚では階段を上がってくるのも大変でしょうし。そもそも、来たところで撃退が簡単ですから」


 それもそっか。

 でも、なんとなく動物が気になるんだけどなあ。


「攻撃の中心が人間なのはわたしたちに反撃させないためとして、問題はモンスターがおとなしすぎる点です。単純に体を操れるのなら、モンスターに攻撃させた方が効率的です。なのに、それをしないのは戦力を温存しているのでしょうか?」


 モンスターかあ。

 上層で戦ったモンスターなら何が来てもへいきな気がする。

 それにモンスターなら倒してもいいから、動物よりも気楽に戦えるよね。

 うん。一番倒しやすい。


「あれぐらいならすぐに倒せると思う……って、あれ?」


 モンスターを見ていて、気づいた。


「なんだか、モンスターが増えているような気がする」

「……そうですか? はっきりと見ていたわけではありませんけど、新手が入ってきた覚えはありませんよ」


 ダンジョンの入り口を見るシアン。

 確かにそこから新しくモンスターが入ってきたのは僕も見ていない。


 だけど、モンスターは最初より増えている。

 数えたりするのは苦手だし、物を覚えるのも得意じゃないけど、今までたくさんモンスターと戦っていたんだ。

 その獲物が増えたりしたら気づける。


「ううん。増えてる。ちょっとずつだけど、増えてる」

「増援はないのに増えているとしたら……まさか!?」


 シアンが人たちから動物の列に目を向ける。

 牛や豚にニワトリなんかが何をするでもなく立っている場所。

 最初は人間といっしょに襲ってきたのに、ずいぶんと静かだなあ。


 シアンはじっとその動物たちを見ているけど、何を見たいのか僕にはわからない。

 そんな僕の目に入ったのは小さな二匹の豚だった。


「あ、トントロとピートロ!」


 牧場で僕になついてくれた二匹の子豚。

 僕たちを見上げているけど、その目は他の動物みたいにぼんやりしていて、やっぱり操られてしまっているみたいだ。

 なんだかピクピクと体を震わせていて、つらそうだ。


「待ってて。絶対に助けてあげるからね」

「……いえ、それは難しいかもしれません」


 シアンがいじわるな事を言う。

 驚いてシアンを見るけど、とても苦しそうな顔をしていた。


「どういう方法かはまるで見当がつきませんけど、段々とわかってきました。少なくとも蛇女が生き物を操る理屈は……」


 だけど、シアンはちっともうれしそうじゃない。

 トントロとピートロを助けられないなんて言ったり、つらそうな顔をしているのはどうしてなんだろう?


「シアン?」

「レオンの言う通りでした。モンスターの数は増えています。でも、増援は来ていません。なら、そのモンスターはどこから来たのか? 答えは来ていない、です。モンスターは新しくこの場で生まれています」


 早口でしゃべったシアンが指さすのは、僕が見ていたトントロとピートロ。

 二匹ともすごい震えていた。

 今にも倒れてしまいそうで、駆け寄りたくなる。

 でも、シアンとノクトを放っていくわけにもいかなくて、どうしたらいいんだろう。


 そんなふうに僕が迷っている間に、トントロとピートロは震えが大きくなっていって、急にガクンと膝をついてしまった。


「トントロ! ピートロ!」

「人間よりも動物。動物の中でも大人より子供。魂魄のなじみが弱くて、マナをうまく処理できない程に症状が早くなるんですね」


 相変わらずの早口でつぶやくシアンだけど、その手は強く握りしめられていて、今にも血が流れそうだ。

 それでも目を二匹に向けたまま、決定的な言葉を口にする。


「レオン。これはモンスター化です」


 起き上がった二匹の子豚。

 トントロとピートロだった・・・モノ。

 かわいい姿はもうどこにもない。

 まるで金属みたいな皮を持った大イノシシがそこにいた。

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