60 ドラゴンさん、上から眺める
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「レオン、まずはわたしたちを抱えて跳んで下さい!」
僕に両手を広げて見上げてくるシアン。
「跳ぶってどこ?」
「とりあえず、あの塔の上で!」
さっきまでヘビな女の人がいたエントランスの真ん中。
あそこなら操られている人たちも簡単に上がってこれないし、近くにヘビな女の人がいたなら倒してしまえる。
「うん。わかった。けど、シアンはへいき?」
「わたしは大丈夫ですから。レオンは遠慮なく跳んで下さい!」
シアンはちょっと顔色が悪いけど、僕を見つめる目の力は強い。
その腕の中のノクトもあきれたみたいな顔で、でも、うなずいた。
僕は両手でシアンを抱えて、生命力を足に集めて、おもいきり地面を蹴る。
「よいしょっと!」
厚い空気を押しのけて、勢いのままに空を飛ぶ感覚。
足元には人と動物たちが僕たちをぼうっと見上げて動かない。
「ぐにゅぅぅ、へいき、ですっ!」
『お人好しの意地っ張りを選んだのはあなたなのだから、我慢なさいな』
「えへへ、へいきでひゅよ。へいきでひゅ」
腕の中で一人と一匹が言い合っている。
思ったより元気そうで安心だ。
空を飛んだのはほんの少し。
すぐに塔が近づいてきた。
てっぺんで光っている大きな水晶みたいなのは照明の魔導具。
その平らな部分に右足を思い切り突き立てる。
こうすればすべりやすい水晶の上でも落ちないはず。
ちょっと光がチカチカしたりもしたけど、しばらくしたら元に戻った。
よし。うまくいった。
「着いたよ!」
「ふふふ。ふっ、ふぅぅ。どうってことなかったですね!」
『強がりは程々にして、これからどうするか教えてもらえるかしら? ここにいても何も進展ないわよ。ダンジョンから脱出できないかと期待したけど……』
ノクトが外に通じる階段の方を見るけど、そっちにも操られている人間と動物たちがいっぱいだった。
さっきまでいた場所を振り返ってみると、ちょうどそこもダンジョンから来た冒険者とモンスターが流れ込んできた。
やっぱり、この人たちもモンスターも操られているみたいで、エントランスの人と同じ感じがする。
『こんな事をする相手だけあって手は打ってあるわね』
「どの道、この人たちを放っておくなんてできませんよ。ここで決着をつけないと」
操られた人と動物とモンスター。
エントランスから出られる場所をふさぐ分だけ残して、バラバラの生き物たちがケンカする事もなく、僕たちがいる塔の方に集まってくる。
青い顔をしていたシアンは何度か大きく息をして、そんな人たちを見下ろした。
「ここに運んでもらったのも情報を集めるためですよ。まずは情報収集。次に考察。そして、対策です」
エントランスを見渡すシアンの目はいつもよりずっと真剣だ。
「蛇女は見当たりませんね」
『あの中に紛れ込んでいるのか、それとも建物に潜んでいるのか……ダメね。魂魄の場所がつかめないわ。エントランス中に不快な気配が漂っていて紛れ込んでいるのね』
何度も猫耳を動かすノクト。
ダメと言っているけど、あきらめていないみたいだ。
「ノクトは引き続き蛇女を探してください。レオン、わたしたちはあの人たちを止めます」
「うん。だけど」
それが僕には難しい。
敵を倒すだけなら簡単だ。
でも、死なせてしまわないようにするのは自信がない。
弱く叩いても殺してしまいそう。
そんな僕の考えている事がわかっているみたいで、シアンは自信たっぷりに笑った。
「心配いりません。何も直接あの人たちを止めなくてもいいんです。操られている絡繰りを解いて、それを止めてしまえばいいんです」
そっか。
それなら僕もできる……かな?
こういう頭を使うのは苦手なんだよなあ。
いや、でも、がんばらないと。
「やってみる」
「ええ。お願いします。どうやら操られているのはエントランスにいた人たちと、動物に、それから……上層のモンスターですね」
たしかにモンスターの中には今日倒したモンスターがいる。
あれは丸呑み蛙で、あっちは狩猟蜘蛛だっけ。
狼は双角狼で、あのハチは……あ。
「そっか。飛べるモンスターもいたんだ」
あっちこっちから飛んでくるハチ。
ええっと、人食い蜂とかいうやつで、針で刺してくるんだよね。
冒険者になったばかりの人はこれに襲われて大けがをしたり、殺されてしまう事が多くて、注意しないといけないらしい。
けど、僕ならだいじょうぶ。
大きく息を吸って、生命力を声に乗せる。
「あっちいけ!」
エントランスに声が響いて、飛んでいたハチがビクンと大きく体を震わせると、どんどん地面に落ちていく。
わりと高いところから落ちたせいで、もう一度飛んでくるやつはいなかったし、そのまま動かなくなるハチもいた。
「相変わらず、レオンのそれは便利ですね」
「あ、これで他の人も止められないかな?」
弱くやればケガさせないかもしれない。
「いえ、それは最終手段で。レオンが加減を間違えたらかなり酷い結果になってしまうでしょうからね」
言われて思い出す。
人間になったばかりの時、やりすぎて威嚇のつもりがモンスターの群れを全滅させてしまったんだっけ。
たしかに、ちょっと危ないかもしれない。
パーンってしちゃうかも。
「しかし、ここも絶対に安全とは言えませんね。どうやら塔を登ってくるみたいですし」
下から冒険者やギルドナイトの人たちが塔の周りの階段を上がってきている。
それの他にも弓矢を持った人が僕たちを狙っていた。
『とりあえず、流しておくわよ』
静かにしていたノクトが言うと、その足元から影が広がっていく。
その中からあふれてきたのはすごい量の水だ。
まるでどしゃぶりの雨みたいになって、下の人たちに降り注いでいった。
すごい勢いのせいで階段を上がっていた人たちは足を止めているし、飛んできた矢も流されて落ちていく。
それにしても、本当にすごい量の水だなあ。
どんどん出てくる。
『シアンの後始末が役に立つとは、何があるかわからないものね』
「こんな事もあろうかと、という奴ですね。さすが、わたしは天才です!」
「そうだったんだ。シアン、すごい!」
『幸せな子たちね……』




