59 ドラゴンさん、二匹目のドラゴンに襲われる
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「なに、あれ?」
シアンとノクトに聞いてみるけど、どちらも答えてくれなかった。
とってもおどろいた顔をして、ヘビな女の人を見上げている。
ヘビな女の人。
体の上は人間の女の人の形をしているど、その下はヘビだった。
人の部分もなんだか鱗が生えているし、髪の毛がわさわさと動いているし、口は牙だらけだで、爪も長いしで、あんまり人間っぽくない。
あと、鱗も、髪も、肌も紫色。
けど、間違いなくドラゴンの気配はこの人(?)からしていた。
「僕が人間になったんだから、他の頭が人間っぽくなってもおかしくないのかな」
「いえ、あれを人間と捉えるのはかなり無理があると思いますよ?」
そうなんだ。
人間じゃないなら、話は簡単だ。
「じゃあ、倒すね」
わからない事はたくさんだ。
このドラゴンがなんなのか?
何をしたいのか?
倒れた人たちはどうしたのか?
けど、僕に向けてくる殺気はわかる。
こいつは僕の敵だ。
なら、倒す事に迷いはないし、わからない事は倒してから考えればいい。
生命力で体中を強化。
周りの迷惑にならないように歩くところから始めて、少しずつ、少しずつ強く踏み込んでいく。
地面にひびはできるけど、それだけ。
足の指で土をつかむみたいにして走る。
そうすれば、二呼吸もしないうちに塔の根元まで行けた。
あとはひと跳びで終わりだ。
持ったままだった剣をにぎりなおす。
「SASENAI」
けど、それよりも先にヘビな女の人がつぶやいた。
その直後、静かだったエントランスがいきなり音であふれる。
「え?」
いきなりのできごとに止まってしまった。
別に前のドラゴンみたいに音で攻撃されたわけじゃない。
それはただうるさいだけの音。
たくさんの吼え声がまとめて聞こえただけ。
そう。倒れた人や動物たちが大声で叫んでいるだけだった。
「いきなり、なんで?」
見回せば、ゆっくりと人が立ち上がって、動物たちが身を起こしていく。
それだけならこの人たちは味方だから、いっしょに戦ってくれるようお願いすればいい。
だけど、人も動物も、そのどれもが吼え続けながら、僕を、そして、シアンたちを見つめていた。
まるで汚れた沼みたいによどんだ目で。
目が合っただけで背筋が冷たくなった。
殺意を向けられたわけじゃない。
そもそも、何かを考えたり、思ったりしているようにも見えない。
けど、これは普通じゃない。
「SAA、KOROSHIAE」
「ダメです、レオン! こいつは生き物を操ります!」
シアンの声ににたりと笑うヘビな女の人。
ヘビな女の人がすべるようにして塔の上から下りて、そのまま建物の影に隠れてしまう。
それと同時に起き上がった人と動物が動き始めた。
半分は僕に。
もう半分は――。
「シアン! ノクト!」
いま、来た道を正反対に走る。
空気を突き抜ける少し前の速さで、押し寄せてくる人と動物が近づくよりも先に、立ったままの一人と一匹のところへ。
僕が戻るのと、一番近くにいたギルドナイトの人たちが剣を抜いたのはほとんど同じぐらいだった。
シアンは魔導を使おうとしているけど、間に合わない。
「させない!」
金属の輝きがいっせいに降ってくる。
前も後ろも横も上も下も逃げられる場所はない。
それを、体を回して受けた。
左手の剣ではじいて、右手でへし折って、それでも受けきれなかったものはコートで止めて、シアンとノクトを守り切る。
でも、次々と襲ってくるからきりがない。
だから、一度まず止めてしまえ。
「よいしょ!」
勢いのまま地面を思い切り踏みつけた。
ズン、と地面が沈むみたいに揺れて、立っていた人たちがふらつく。
それと同時にシアンの魔導が放たれた。
「点・多数展開/10・水属性――水撃重弾!」
十個の水の球が後ろ側のギルドナイトの人たちにぶつかった。
いつもよりずっと弱くしているみたいで、ギルドナイトの人たちは倒れただけだ。
大きなケガもしていないように見える。
「多勢に無勢ですし、わたしたちまで操られてはたまりません。ここは一度下がりましょう」
猫耳を揺らしたノクトが爪を立てて、走り出そうとしていたシアンを止めた。
『ダメよ! 奥からモンスターが……いえ、冒険者もいるわね。とにかく、逃げ道を塞がれているわ!』
エントランスは操られているみたいな人と動物たち。
ダンジョンからも敵が近づいているみたいで逃げられない。
「ぅぁぁぁぁぁぁぁ」
「てい――あ」
起き上がったギルドナイトの人が剣を振ってくる。
僕も剣で受けるけど、ちょっと力を入れすぎた。
ギルドナイトの人はグルンと空で回って、ベシンと地面にぶつかってしまった。
「……やりすぎちゃった?」
「ぁぃぃぃぇぇぇぇ」
よかった。
まだ変な声を出しながら起き上がった。
けど、これはいけない。
そのうち、本当に失敗してしまいそうだ。
次々とやってくる人と動物。
背中にシアンたちを隠しながら押し返すけど、すぐに戻ってきてきりがない。
どうするか、僕はシアンとノクトを見る。
「どうやら道はふたつですね。あの蛇女を倒すか……」
『エントランスを突破するかね』
けど、どっちにしてもエントランスにいるたくさんの人をどうにかしないといけない。
その全部をうまく倒せるだろうか?
それにさっき、僕の一撃やシアンの魔導を受けたギルドナイトの人はすぐに起きてきた。
なんというか、よっぽどの事をしないと止められないような気がする。
ノクトが不愉快そうにしっぽを揺らした。
『確実に止めるなら命を奪うしかないわね』
「普通はそうかもしれませんが、わたしは天才ですからね! そういうのとは違う解決策を見つけてみせますよ!」
『言うと思ったわ』
「わたし、こういう相手が大嫌いです! 絶対、負けてやるものですか!」
ため息をつくノクトだけど、しっぽの揺れが止まった。
本当はノクトもシアンと同じ気持ちなんだ。
『けど、問題はこの人の盾よ』
操られた人と動物をどうするか。
逃げるだけなら難しくない。
僕なら、簡単だ。
どんなに攻撃されてもガマンすればいい。
痛いだろうけど、シアンとノクトを守って外まで走れる。
ガマンするのは得意だ。
好きじゃないけど。
「レオン、それはダメです」
ぐっとコートをつかまれる。
びっくりして振り返ったら、すごく真剣な目をしたシアンが僕を見ていた。
「もう、あなたにそういう思いはさせませんよ。わたしは天才ですからね!」
「……うん。わかった」
シアンが友達だからだろうか?
それとも天才だからだろうか?
どうしてか、ストンと信じられた。
できるとか、できないとか。
そんな事がどうでもよくて、ただ任せてみようと思えた。
シアンはマナを一気に魔力に転換すると、それを一気に使い切るように魔導を放つ。
「点・多数展開/100・水属性――水撃重弾!!」
手加減された水の球が降り注ぐ。
それは人と動物たちを押し返して、転ばして、自由な時間を生み出した。
肩で息をするシアンだけど、いつもの自信たっぷりな笑顔をすると、ビシッとエントランスに向かって指さした。
「さあ、この天才魔導使いシアン・ブリューが理不尽を打ち倒してあげますからね! 覚悟してください!」




