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ドラゴンさんのセカンドライフ  作者: いくさや
第二章 街住まいのドラゴン
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57 ドラゴンさん、狩りを終える

 57


「ふふふふっ! さすがはわたし! 天才ですね! 天才ですからね!? 再展開リピート――水閃鋭刃アクアブレード!」


 シアンが腕を振ると、その先に水の刃が伸びる。

 横から僕たちに飛び掛かってきていたカエルのモンスターはそれに自分から刺さって、そのまま死んでしまった。

 シアンよりも大きなカエルが跳んでくるのにはびっくりしたけど、何度も見ているから慣れてしまった。


 体を動かすのが苦手なシアンが水の剣を振ってもうまくいかないかもしれないけど、向こうから突撃してきたならだいじょうぶみたいだ。

 それに空に浮いている水の剣をシアンが直接支えているわけでもないらしい。

 力の弱いシアンが持っているように見える水の剣だけど、しっかり空に浮いていて、カエルにつぶされる事もなかった。


 刺さったままのカエルを僕は剣の先っちょで下に落とす。

 その下にはもうノクトの影が広がっていて、落ちたカエルを飲み込んだ。


「シアンはすごいね。一撃だよ」

「ええ! わたしは天才ですからね!」


 僕が抱えて走り始めた時はさけんでばかりだったけど、途中からとっても元気になってくれた。

 さっきから天才だっていうのと、魔導の名前しか言っていないような気もするけど、元気なんだからだいじょうぶ。

 目がグルグル回っているきもするけど、きっと。


『レオン、あなたから見て左の方向。三十メトル先の角に二体よ。今のと同じ丸呑み蛙ジャイアントフロッグね』


 このカエルは体当たりに気を付けないといけないらしい。

 大きな体をしているから人間はかんたんにつぶされてしまう。

 そうなると、後は押さえつけられたまま頭から飲み込まれて、そのままゆっくりと食べられてしまうのだとか。


 けど、何も心配ない。

 今みたいにシアンが倒してくれるし、間に合わないなら僕が剣で止めるだけだ。


「うん。いくね?」

「任せてください! わたしは天才ですから!」

『あたしは心配になってきたわね。効率はすごいいいのだけど』


 ノクトは何が心配なんだろう?

 僕はいつも通りだし、シアンは調子がいい。

 カンペキだ。


 首を傾げながら言われた通り通路を走って、そのまま壁を蹴って、逃げようとしていたカエルの後ろに着地した。

 逃げようとしていたカエルだけど、見つかったらすぐに飛び掛かってくる。


再展開リピート――水閃鋭刃アクアブレード!」

「んっと」


 右側はシアンの魔導に刺さって止まって、左側は僕が剣で止めた。

 うん。

 しっかり止められたぞ。

 お腹に入った一撃でカエルはべたんと地面に落ちる。


 剣を握った拳にあたったんだから当然だ。


「うん。剣を使えるようになってきたかも」

『ないから。そんなの剣を使ってるなんて言わないから』


 そうなの?

 剣を持っていると、拳が当たらなかった時でもモンスターに引っかかるから止めやすいと思っていたのに。


 でも、そうなのかも。

 何度も使っているうちに剣がちょっと変な形になってきてるのって、僕がちゃんと剣を使えていないせいかもしれない。

 僕が握っていたところが細くなってるし。


 そんなふうに悩みながら、剣の先っちょでカエルのお腹を押して止めておくと。


「天才のー再展開リピート――水閃鋭刃アクアブレード!」


 起き上がろうとしていたカエルはシアンの次の魔導で倒された。


 シアンとノクトを抱えて走って、モンスターに追いついたらシアンが倒す。

 そんな感じに繰り返してどれぐらいになるだろう?


 倒したモンスターの数はけっこう多いと思う。

 ここに来るまでに今のカエルの他にも、狼とか、ハチとか、いろんなモンスターをやっつけた。

 少なくとも、僕の手と足を使っても数えられないぐらいだ。


「ノクト、次は?」

『いいえ、ここまでよ。レオン、止まりなさいな』


 いい感じだったのに、ノクトはやめようと言う。

 どうしたのかと思っていたら、ノクトは僕の腕から飛び降りてしまった。


『最初にあたしたちから逃げていたモンスターは今ので最後なの。少なくともあたしが感じ取れる範囲内に、妙な動きをするモンスターはいないわ。そもそも、近くのモンスターは倒しきった感じよ』


 そうなんだ。

 ちょっと狩りに集中しちゃっていて、目的を忘れてかけていたけど、他の冒険者に迷惑をかけなくなったのならいいかな?


「シアンはどうする? シアン?」


 シアンはどうなのかなって聞いたけど返事がない。

 さっきまではあんなに元気だったのに、今はだらーんと手足を伸ばして、青白い顔をしている。

 ノクトは深くため息をついた。


『その通り、そろそろ本当にシアンが限界よ。休憩にするわよ』


 おかしい。

 前にシアンがきつかったと言っていたから、今回は闘気法もほとんど使わないで、ただの体だけで走ったのに。

 壁を走るのもダメみたいだから、壁は蹴って曲がるだけにもした。


 シアンがあんなに元気だったのも、それがうまくいったからだと思っていたんだけど。


「人間って難しいね」

『……あなたに剣を使わせるより前に覚えるべき事が多かったようね』


 他の冒険者と組ませるべきかしらとか、ぶつぶつとノクトは言いながらも、その影からいろいろと物を浮かび上がらせている。

 毛布とか、コップとかだ。

 コップにはお水が入っていた。

 僕は毛布の上にシアンをそっと下した。


『シアン、起きなさい。ほら、水よ。飲める?』

「う、うう? わたしはいったい? レオンに抱っこされて、それから……うっ、頭が!」


 つらそうなシアンの背中をなでてあげると、ゆっくりと息が落ち着いていった。

 ノクトが用意したコップの水を飲んで、大きく息を吐くと、シアンはおでこの汗をぬぐって、首を傾げる。


「あれ? ここはどこですか? モンスターを追跡するはずじゃあ……」

『いいのよ。それはもう終わったの。思い出さなくていいわ。シアンも頑張ったわね』


 頭のいいシアンでも忘れてしまう事はあるみたいだ。

 でも、ノクトが思い出さなくていいと言っているのだから、教えなくてもいいのかな。


 シアンはしばらく首を傾けていたけど、すぐに切り替えたみたいだ。


「追跡は終わった、んですね? まるで、覚えていないのですけど、ノクトが嘘を言うわけありませんね。では、今は一休みといったところですか?」

『ええ。この後、どうするか決めましょう』


 ノクトは自分の影をじっと見てから、僕たちを見上げてくる。


『今日の目的としては十分すぎるぐらいよ。シアンのリハビリなら問題ないようね?』

「ええ。ランクが上がったのもありますが、絶好調ですね。もう少しで領域エリアもものにできそうな気がします。それに体力もまだまだ……あれ? おかしいですね。疲れていないのに、膝が笑っていますよ?」


 うん。

 シアンは限界みたいだ。

 帰りも僕がだっこかおんぶしよう。


『想像していた以上にモンスターも狩れたわ。命石と魔石の価値が落ちていても、後半の素材はまあまあ期待できるでしょう』


 お金も手に入るなら、いい感じだろう

 僕はもっと剣の練習をしてみたいけど、シアンに無理をさせるのはいけないし、練習ならダンジョンじゃなくてもできる。


「じゃあ、帰る?」

「そうしましょうか。何故かわたしも疲れて? いますし」

『ええ、無理する場面じゃないものね』


 そうして、僕たちはダンジョンから帰る事にした。


 シアンとノクトを抱えて、本当に軽く走る。

 帰り道はしっかりノクトが覚えていてくれていたから、迷う事もなかったし、モンスターも倒していたから、戦いもなかった。


 今日の夜のご飯をどうしようかなんて話しながらの帰り道。


「あれ?」

『まったく』


 僕とノクトが同時につぶやいて、足を止める。


 そろそろダンジョンのエントランスかなってところで気づいた。

 冒険者たちや、商人の人や、ギルドナイトの人たちがいるはずのエントランス。


 そこから、とても嫌な感じの気配がしている事に。


 その気配を僕はもう知っている。


「これ……ドラゴンだ」


 上層の主部屋で戦ったドラゴン。

 それとよく似た、つまり、人間になる前の僕の気配だった。

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