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ドラゴンさんのセカンドライフ  作者: いくさや
第二章 街住まいのドラゴン
54/179

53 ドラゴンさん、観戦する

 53


『来たわ』


 ノクトの短い声。


 足音、それから、強い息づかい。

 それが通路の奥から聞こえてすぐに最初のパーティが見えた。

 向こうにも僕たちが見えたのか、大慌てで足を止めている。


「……ガキ?」

「ちょうどいい。餌にしちまおうぜ」


 冒険者の人がふたり。

 一人は飢えた獣みたいな目で僕たちをにらんで、武器に手を伸ばしかけた。


「やめとけ。奥の女は魔導使いだ」

「ちっ、邪魔だ、どけ!」


 けど、結局はそのまま黙って走っていく。

 うん。すごい嫌な感じだ。


「遅れるなよ。獲物を落としたらわかっているな?」

「はっ、はいっ!」


 その後ろをついていくのは奴隷の人、かな?

 エントランスにいた人たちと同じような服を着ている。

 必死に走っているけど、背中とお腹に抱えた荷物が重いみたいで大変そうだけど、冒険者の人に何度もうなずいていた。


「……忠告もありませんでしたね」

『それどころか、あの気配だとこっちを襲おうとしていたわよ。大方、怪我でもさせて追手の足止めにしようとしたのかしら』


 ノクトは不機嫌そうにしっぽを細かく振っている。

 シアンたちもさっきの人が嫌いらしい。

 僕もうっすらと嫌な気配を感じて、変な気持ちになってしまった。

 人間にもいろいろといるのは知っていたけど、こんな感じは初めてかもしれない。


 けど、すぐに行ってしまった人だから、通路の奥に目を戻す。


『次の、来るわ』

「まともな方だといいんですけど……レオン、前から来る人に声をかけてください。わたしたちは敵じゃない、と」


 次のパーティの後ろにはモンスターがいる。

 シアンは杖を掲げて、魔導を発動させた。


ポイント多数展開マルチ/50・水属性ブルー――」


 最初に見せてもらった魔導だ。

 水の球がたくさんシアンの頭の上に浮かぶ。


 それから僕を見て一度うなずいた。

 声をかけるんだよね。


「僕、レオン! 友達になろうよ!」


 なぜか、シアンとノクトが何もないのに転びそうになった。

 おかしい。

 言われた通り、名前を言って、敵じゃないよって伝えたのに。


『レオンに任せたのが間違いよ。シアン』

「レオン、友達作りはもっと落ち着いた場所でしましょうね!? そっちの方! わたしは魔導使いのシアンです! 援護はいりますか!?」

「頼む! 狩猟蜘蛛ハウンドスパイダーの群れに追われている! 無理そうなら逃げちまえよ!」


 返ってきた声、知っている。

 ええっと、そうだ。

 すぐに知っている顔が通路の奥から見えた。


「やっぱり、あの時のおじさんたちだ」

「『裸捨て』の!? なんで、ここに!?」


 三日前にギルドで声をかけてきた冒険者の人。

 ちょっと臭くなっているけど同じ匂いだからわかった。


『いいから、行きなさいな! 荷物を抱えたままじゃ戦えないでしょう!』


 足を止めそうになったところにノクトが鋭く叫ぶ。

 おじさんたちはすぐにまた走り出した。


「数、多いぞ」

「荷物置いたらすぐに戻るからな」

「無理なら逃げろぉ。いいなぁ?」


 おじさんたちはふたりで大きな荷物を抱えているみたいだ。

 荷物、というか、人間?

 ずいぶんとボロボロだけど……。

 よく見る前に走り抜けてしまった。


『あちらも相当のお人好しのようね』


 ノクトの機嫌が直ったみたいだ。

 僕もあのおじさんたちはいいと思う。

 シアンは黙ったままだけど、それは戦うためだ。


 おじさんたちの後ろにいたモンスターが見えている。


 クモ――狩猟蜘蛛ハウンドスパイダーだ。

 大きいのは立っていなくても僕の膝ぐらいまであるけど、ほとんどはもっと小さくて、拳と同じぐらい。

 だけど、数は多い。

 両手と両足を何回使っても数えられないぐらいだ。

 そんなのが地面や壁や天井を走っている。


水撃重弾アクアバレット!」


 いつか見た時よりもたくさんの水の球が放たれた。

 強い雨が地面にあたる音。

 それをずっと強くしたらこうなるのかもしれない。

 一番前を走っていたクモたちが水に押しつぶされて、吹き飛んだ。


 けど、勢いは止まらない。

 床の連中は遅れたけど、壁と天井はそのまま向かってきている。


再展開リピート――水撃重弾アクアバレット!」


 シアンの魔導は早い。

 さっきと同じ数だけの水の球が今度は天井に。

 潰れて、落ちる狩猟蜘蛛ハウンドスパイダーたち。


再展開リピート――水撃重弾アクアバレット!」


 次は壁。


再展開リピート――水撃重弾アクアバレット!」


 その次は反対の壁。

 魔導が使われるたびに、クモは簡単に倒されている。


 けど、数が多すぎる。

 それに水の球だと大きな狩猟蜘蛛ハウンドスパイダーは倒せていない。

 足を止めるのは少しだけ。

 小さなクモを踏みつぶして、僕たちに迫ってきた。


 近くで見るクモはいくつもの目で僕たちを見ている。

 なんとなく、僕たちを獲物だと決めたように感じられた。

 あんなクモに襲われても僕は平気だけど、シアンとノクトは違う。

 牙にかまれたら大変だ。


 シアンの前に立って、いつでも動けるように準備をする。

 マナを生命力に転換して、クモに向けて威嚇の声を上げようとした。


 そんな僕の隣にシアンが出てくる。


「平気ですよ、レオン」


 まっすぐに前を見たまま、シアンは杖を掲げた。


再展開リピート再展開リピート再展開リピート再展開リピート再展開リピート――」


 静かに言葉が繰り返される。


 その魔力はきれいだ。

 落ち着いていて、澄んでいて、冷たいのにぬくくて、何よりも強い。


 シアンの魔力の気配が床・天井・右と左の壁、それからその真ん中の空中で形になるのがわかった。


水撃重連弾アクアスコール


 最後の言葉と同時。

 今までとは比べ物にならないぐらい大きな音が通路を押し流した。


 いつつの場所からいっしょに、でも、お互いの間をすり抜けるように、水の球が通路を埋めていく。

 前も後ろも右も左も、今そこにいる場所も。

 足が遅くなっていたクモの逃げ場はどこにもない。


 雨なんて遠い。

 これは滝だ。

 上から下に落ちていく滝が、通路を埋めて落ちている。


 たくさんの水が流れていってしまうまでどれぐらいかかったのか。

 重い音がなくなって、後にはしずくがぴちょん、ぴちょんと落ちるだけになった時には、もう勝負はついていた。


 通路を埋めるようだった狩猟蜘蛛ハウンドスパイダーはもう動かなくなっていた。


 肩で息をしていたシアンはそれを確かめて、何度か深呼吸して落ち着いたところで、おでこの汗をぬぐうと僕を見上げてきた。

 杖を持った手で器用に指を二本立てて。


「ふふ、しょーりです」


 いつもの自信たっぷりな笑顔を見せてくれた。

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