52 ドラゴンさん、再びダンジョンに
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トントロとピートロとお別れしてから向かったのはエントランスの一番奥。
途中で何度も何度も商人の人に声をかけられて、いろいろと買い物しないかと言われたけど、全部シアンとノクトがいらないって断った。
必要な物はノクトの影の中にあるけど、それを知らない人には僕たちが準備不足に見えるみたいだ。
それで声をかけてくるらしい。
いつもの事みたいだから、シアンもノクトも慣れているんだって。
そうして、やってきた奥にあったのは壁の裂け目。
天井に届きそうなほどのそこから先は、この前に見えたダンジョンの通路そのものだ。
「ここから先がダンジョンの上層ですよ」
冒険者の人たちがその前で話したり、座り込んでたりしている。
ダンジョンから戻ってきたのか、これから行くのか、最後の確認をしているのだとか。
そんな人たちの間を抜けて、シアンがギルドナイトの人に声をかけた。
亀裂の前にもギルドナイトの人がたくさんいるけど、シアンが話しかけたのは机に座っていた人。
「すみせん。前のパーティが入ってからどれぐらい経ちますか?」
ギルドナイトの人は机の上の置物を見てから答える。
この置物はなんだろう?
透明な筒になんか水みたいなのが入っているけど。
「規定時間は過ぎています。今は他に待っているパーティもいませんので、いつでも入れますよ」
「ありがとうございます。では、すぐに入ります」
シアンが手招きするのについていっしょに亀裂に入る。
通り過ぎる時、ギルドナイトの人が置物をひっくり返していた。
魔導具の灯りがなくなって、鍾乳石の青白い光だけのダンジョンの通路を歩きながら僕はシアンにたずねる。
「さっきの人、何をやってたの?」
置物を回して遊んでいたのかな?
『あれで時間を計っているのよ。基本的にダンジョンに入るパーティは一定時間置きだから。色々な対策のためにね』
「自己責任なのをいい事に、獲物の横取りをしたり、他のパーティを襲撃したり、そういう輩がいますからね」
この前の金斧さんとかの事か。
お金がほしいなら、悪い事なんかしないでがんばればいいのに、人間は変な事をするんだなあ。
よくわからないと首をひねっていると、シアンがノクトを持ち上げた。
「ま、わたしたちは心配いりませんけどね! ノクトが警戒してくれていますから!」
「そうだね! ノクトがいるからだいじょうぶだよね!」
周りの生き物の魂魄を感じ取れるノクトは頼もしい。
だけど、シアンの手から飛び降りたノクトはため息をついた。
『あまり過信しないの。近づいてくる魂魄はわかるし、それが綺麗かどうかもわかるわ。でも、汚い魂魄をした人間の全てが即座に罪を犯すわけではないのよ。証拠もなしに告発なんてできないのは当たり前。犯罪予備軍だからと訴えるなんてこちらが名誉棄損になるわ』
難しい話みたいだ。
でも、ノクトでもわからない事はあるのはなんとなくわかった。
「じゃあ、どうすればいいの?」
『そうね。とりあえず、ダンジョン内ではモンスターだけじゃなく、パーティ以外の人にも注意しておきなさい』
「とはいえ、助けを求められる事もありますし、こちらが助けてもらう事もあります。その辺りをしっかり見極めないといけませんね」
やっぱり難しい。
けど、嫌な感じがする時は気を付ければいいんだと思う。
シアンを守るのは僕なんだから、気を付けないと。
最初はまっすぐだけだったダンジョンの通路だけど、しばらく歩いているとふたつやみっつに分かれたりし始めた。
たまに薄暗くてわかりづらいけど、壁の暗がりの奥に道が続いていたりもする。
シアンもノクトもこの辺りは何度も来ているから道がわかっているらしい。
迷わずに進んでいる。
「ちなみに、上層では左側の道に入らないのが鉄則です」
『正しい道を知っているなら別だけど。入った先が行き止まりならいいけど、ほとんどが最終的に道連れ兎の巣につながっているのよ』
ギルドで見せてもらった地図を思い出す。
地図の下の部分が道連れ兎の巣だって言っていた。
えっと、だから、僕たちが通った入り口は地図の右側だったのかな。
あまり自信がない。
あの地図を見ながらならわかりやすいのに。
「シアンは地図を持ってないの?」
「正確な地図は高いんですよ。かといって安物に手を出しても内容がでたらめで役に立ちません」
とても悔しそうな顔だ。
そういえば、前にも安い地図で嫌な思いをしたみたいな事を言っていたような気がした。
悪い事を聞いてしまったかもしれない。
『だから、できるだけ道は覚えているのよ。地図を描ければいいのだけど』
「単純に右左だけじゃありませんからね。上層の中でも立体的になっている場所もありますから」
地図はないみたいだ。
でも、シアンもノクトも頭がいいなあ。
ダンジョンの通路は似たのばかりだから見ただけだと違いがわかりづらい。
なんとなく臭いが違うから僕も通った道ぐらいはわかるけど、それをずっと覚えている自信はない。
ため息をついているシアンとノクトに感心しながら、通路を見回していて気付いた。
その奥からいろいろと近づいてくる気配がする。
「……あ。何か来る」
『あら、ちゃんと気づけたみたいね。シアン、人間が三人。その後ろからしばらく離れてもう六人。そこから間を置かずにモンスターね。どうやら追われているようよ』
僕にはそこまでわからなかった。
シアンはすぐに杖を構えると、通路の右端に身を寄せる。
「モンスターの種類と数は?」
『これは狩猟蜘蛛の群れね。親蜘蛛が一体と小蜘蛛が……数えきれないわ』
「人の気配が分かれているならパーティがふたつですね」
『巣に手を出したパーティと巻き込まれたパーティかもしれないわ。魂魄の気配を考えると先に逃げている方が汚いわね。後ろの方にも二人ほど汚いのが混ざっているのが気になるところだけど』
本当にすごいなあ。
離れていてもそんな事までわかるんだ。
『それで、どうするのかしら? 適当な横道に入れば今なら避けられるわよ?』
ノクトはシアンに決めさせるらしい。
じっとその顔を見上げている。
シアンは迷わずに息を吸って、マナを魔力に転換した。
「もちろん、助けます。わたしは天才魔導使いですからね! 助けられる人を見殺しにはしませんよ!」
『そういうと思ったわ、お人好しさん』
「レオンもいいですか?」
「うん。任せて。シアンは僕が守るから」
魔導を使うシアンにモンスターは近づけさせない。
剣を抜こうとして、うまく抜けなくて、何度か失敗してもダメだったから、あきらめて鞘といっしょに剣を持つ。
『不安になる光景なのだけど……』
「レオンなら大丈夫です。それに、レオンの手を借りるまでもありませんよ。これぐらいわたしだけで対処して見せましょう」
シアンの魔力はもうすごい高まっている。
いつでも魔導を使えるみたいだ。
「二組のパーティが抜けた後、先制で大きな魔導を使います。いいですね?」
『レオンは魔導の間を抜けたのがいたら、それを止めるのよ。いいわね?』
「わかった」
最後に今日のルールを思い出す。
シアンがモンスターを倒す。
闘気法の奥義は危ないから使わない。
あと、せっかく武器があるんだから使ってみる。
よし、ちゃんと覚えているぞ。




