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ドラゴンさんのセカンドライフ  作者: いくさや
第二章 街住まいのドラゴン
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41 ドラゴンさん、依頼主になる

 41


 その後はマリアたちが忙しかった。


 僕の依頼を紙に書いたり、どんな冒険者が帰っていないのか、それともケガをしたのか調べたり、どれだけお金がかかるのか計算したり、依頼を受けてくれる冒険者を探して話をしたり。

 受付の人たちがみんなで頑張っていた。

 マリアはいろんな人に指示していて、一番忙しそう。


「マリアに悪い事しちゃった」

『いいのよ。あれがマリアの仕事なんだから。ちゃんと仲介料も取っているし、これだけの大型の依頼よ。臨時のボーナスがあってもおかしくないんじゃないかしら?』

「レオンは依頼主なんですから、どーんと構えていればいいんです」


 依頼主。

 何だかすごそうだ。

 きっと階層主みたいな感じだと思う。


「それにしても、まだかかるんですかね?」

『さあ。あたしたちも依頼は受けても、依頼なんてしないもの。それにしても、応接室じゃなくてこっちがいいなんて、レオンも変なところでこだわるのね』


 ギルマスに最初の部屋を使っていいと言われたけど、そうしたらギルマスがいっしょに来そうだったから違う所で待つ事にした。


 僕たちはロビーの隣の机と椅子がたくさんある場所で待っている。

 さっきの素材の買い取り窓口とは逆の端っこ。

 ここは冒険者の人が食事をする場所で、食堂というらしい。

 あの食事をできると思うとワクワクしてしまったけど、今はまだ準備中みたいで食べられないみたいで悲しかった。


 食べられないとわかると、なんだかお腹まで悲しくなってしまったみたいで、シクシクしてきた。

 ぐぅーとお腹から変な音が鳴ったりする。


「そういえば、朝ご飯を食べ損ねていましたね」


 シアンがお腹をさすりながらつぶやく。

 早とちりして飛び出した僕を追いかけてくれたから、シアンたちもご飯を食べていないみたいだ。


「ごめんね」

『いいのよ。食べないのには慣れているわ。水だけあればシアンは三日いけるのよ』

「伊達に貧乏していませんからね!」


 自信いっぱいで微笑むシアン。

 よくわからないけど、自信のある人はかっこよく見える。


「でも、今日はお金が入るわけですし、約束通りにお昼はわたしがおごりましょう! 今日ぐらい少しいいお店に入ってもいいですよね?」

『たまにはいいんじゃないかしら? ちゃんと食べないと体に悪いし』


 約束。


「覚えていてくれたんだ」

「当たり前じゃないですか。わたしはできる女ですからね!」


 ダンジョンを出たら、いっしょにご飯。

 なんだかずっと前の事のような気がするけど、昨日の約束だった。


「あらー、お昼ご飯のお話ー? 私もお腹ぺこぺこよー」


 そっと近づいていたマリアが話に交じってきた。


「マリアさん」

「これが契約書よー。ちゃんと確認してからサインしてほしいんだけどー」


 置かれた机の上の紙。

 これって、なんて書いてるの?

 サインってなに?


『あたしが読むわ』

「では、わたしが代筆を」


 僕が首を傾げていると、ノクトが机の上に飛び乗ってくる。

 そのノクトがうなずくと、シアンが棒みたいな物で紙をいじって、文字を書いてくれた。


「いいですか、レオン。ちゃんと覚えてくださいね。サインは自分の名前を書くんですよ。それで、これが『レオン・ディー』です。あなたの名前ですからね」


 僕の名前。

 こう書くんだ。

 人間の言葉は知っていたし、文字という物があるのは知っていたけど、くわしくは知らなかった。


「他の文字も覚えないとですね。まあ、それまでは優しくかわいいわたしが読んであげますから安心してください! レオンも嬉しいですよね?」

「うん、シアンがいてくれて嬉しい」


 ニマニマするシアン。

 僕よりもシアンの方が嬉しそうだ。

 ノクトとマリアはため息をついているけど、どうしたんだろう?


『これでいいわね?』

「はーい。ばっちりですよー。あー、私も彼氏ほしい」


 なんだかマリアの目がどんよりしている。

 まるで底なし沼みたいに深くて、どろどろ濁っていて、見ているだけで飲み込まれそうな気がしてきて怖かった。


「マリア?」

「いーえ? なんでもありませんよー?」


 にっこり笑うマリアだけど、なんだか疲れているみたいで心配だった。

 それでも机の紙を手に取って、確認するみたいに読んでいるマリアは今までと変わらない雰囲気だ。

 疲れていてもお仕事をしていてえらいと思う。


「じゃあ、これでー、レオン君の依頼は受理しましたー。お金は今回の素材から引いておきますねー?」

『ええ。それでいいわ』

「もう冒険者の準備も始まっていますしー、結果は期待してくださいねー?」


 やった。はじめての依頼ができた。

 次は僕がサインできるように練習しておかないと。


「それで、実際はどうなんですか? もうあれから数日が過ぎてしまっているわけですけど……」

「そうねー。全員が無事なんて保証はできないけどー、本当の本当に絶望的ではないと思うのー」


 シアンが聞くと、マリアが机の上に持っていた紙を広げた。

 それには文字なかくて、絵みたいなのが書いてある。


「秘密ですよー。これが上層の地図ですー」

『有料なら見ないわ』

「そんな阿漕な商売はしませんからー。それより、これが冒険者の通常の移動ルートや狩場なんですけどー」


 マリアがスッと指を動かして、ゆがんだ丸を描いた。

 それは地図の下の方だけを別にして出来上がる。


「誰も道連れ兎ジョイントラビットの巣には近づかないですよねー。おいしいモンスターもいませんからー」


 最後はトンと下の部分の真ん中に指を立てる。

 どうやらそこが道連れ兎ジョイントラビットの巣らしい。

 ここにモンスターが集まったんだから、ここに近いほど危なかったんだね。


 って、あれ?

 他の冒険者の人たち、近くにいなかったの?


「もしかして、集団暴走アバランチに巻き込まれたのってわたしたちだけ、ですか?」

「全員がまったくの無事ではないけどねー。でもー、本当にどうしようもないぐらい大量のモンスターに襲われたパーティーはそこまで多くないと思うなー。道連れ兎ジョイントラビットの臭いに引き寄せられているモンスターはー、進路に入らなかったら襲ってこないからー」

『やっぱりね。だから、言ったじゃない。レオンが責任を感じる必要はないって。帰ってこれないでいる冒険者なんて、欲に目がくらんでちょっかいかけたか、そもそもギリギリの準備でダンジョンに入った連中なのよ。実際、手慣れた冒険者は帰ってこれているじゃない』


 ダンジョンで起きた事は、冒険者なら自分でなんとかしないといけない。


「えっと、自己責任、ってやつ?」

「ですねー。でもでもー、レオン君の優しさはー、お姉さん的には高評価かなー? ご褒美ほしいー?」


 マリアがぐいっと僕に顔と胸を近づけてくる。

 シアンとはまたちょっと違う香りがして不思議な感じだ。


「だ・か・ら! レオンを誘惑しないでもらえませんかね!」


 すぐにシアンが間に入ってこようとして、でも、引き離す力が足りないみたいで顔を真っ赤にしていた。

 マリアはくすくす笑ってすぐに離れてくれたけど、シアンは僕の前に立ったまま動かない。


「シアンさんは本当に楽しいなー。それでー、報告はどちらにー? えっとー、レオン君の滞在先ってありますー?」

『当面はあたしたちと一緒でいいわ。色々と事情があるのよ』


 ノクトとマリアが見つめあって、それから笑いあう。


「その色々って興味ありますけどー……教えてもらえないみたいですねー」

『わかっているなら口に出さないの』


 笑っているけど、笑っていない感じが怖い。

 たまにノクトとマリアってこうなるよね。

 人間って大変なんだな。

 僕もいつかできるようにならないと!


「いえ、レオンは今のままでいいですから。マリアさんもお仕事ご苦労様です。あと、心配をかけてしまって、改めてすみませんでした」


 シアンが頭を下げたから、僕もいっしょにマリアにぺこりとやってみる。

 遅れてノクトもちょっとだけ、頭を上と下に動かした。

 マリアはやっと普通に笑ってくれて、シアンの頭を優しくなでる。


「本当よー? 色々あるからー、私が信用できないと思うかもしれないけどー、それでもー、シアンさんが無事でいてほしいっていうのは絶対だからー、専属の私をもっと頼ってくれたら嬉しいなー」

「はい。次からは、必ず」


 シアンがしっかりとうなずくと、マリアは納得したみたいだったけど、次に僕を見た時は少しだけ真剣な感じになっていた。


「ここまでは依頼主のレオン君のお話だったけどー、ここからはレオン君個人にお話ねー? シアンさんやノクトさんだとー、甘やかしちゃいそうだからー」


 何気なく伸びてきた手が僕のほっぺを挟んでくる。

 じっと正面から僕の目を見つめてきた。


「レオン君が本当に『裸捨て』された元奴隷なのか、あの道連れ兎ジョイントラビットを殺したのかはわからないし、それがどんな状況だったのはわからないけど」


 ぐっと目に力が入った。


「考えなしに脅威度Aのモンスターには手を出しちゃダメよ。討伐するなら他の冒険者に根回ししないといけないの。そうしないと、今回みたいに余計な被害が出ちゃうでしょ? 『大地の斧』がシアンさんたちにした事と同じよ。偶然なら、事故なら、冒険者は自分で解決しないといけない。でも、もしもそれが意図して起こした事なら許されない。だから、ちゃんと覚えていて」


 知らなかったし、道連れ兎ジョイントラビットを殺してしまったのも事故だったけど、それでもダメな事はダメなんだ。

 マリアはそれを僕に伝えようとしている。

 その真剣さに負けないぐらい、僕も本気でうなずいた。


「わかった。もう間違えない」

「うん。約束ね」


 気持ちが伝わったのか、マリアはすぐにいつもの笑顔に戻る。


「じゃあー、今日はここまでー。なんだか大変そうだけどー、落ち着いたら受付に顔を出してねー?」


 小さく手を振って受付の方に戻っていってしまった。

 これでギルドの用事は終わった、のかな?


「じゃあ、さっそくお昼を食べに行きましょうか?」

「おう、あんた、レオンっつったか?」


 シアンについていこうと立ち上がったら、後ろから声をかけられた。

 マリアと交替するみたいにやってきたのは、他の冒険者の人たちだ。

 一人、二人、三人、四人。

 四人とも僕より縦にも横にも大きい人ばかりで、小さいシアンは囲まれたら見えなくなってしまいそうだった。


「うん。そうだよ」


 うなずくと四人は顔を見合わせて、それから肩をすくめた。


「……ガキじゃねえか。これが道連れ兎ジョイントラビットを狩って、生きて帰ってくるとはなあ」

『なによ、文句でもあるのかしら?』

「ねえよ。冒険者は結果がすべてだかんな。できて、結果が出てんだ。なら、そうなんだろ」


 ちょっと攻撃的なノクトに、男の人は首を振る。

 それから、僕の頭の上に乱暴に手を置くと、ぐりぐりとしてきた。

 痛くはないけど、あまり気持ちよくもない。


「今回の救助依頼、お前が出したんだってな。最初は周りの迷惑も考えねえろくでなしかと思ったが、ちげえみてえだ。『裸捨て』された若い冒険者にしちゃあ、やるじゃねえか。そういう奴は儲からねえけどよ、俺らは悪くねえと思うぜ?」


 これって、ほめてくれてる?


「じゃ、それだけだ。行ってくるぜ」


 首を傾げていると、男の人たちは僕の頭や肩を軽くたたいてくる。

 なんだか、これは悪くない気がする。

 というか、いい気がする。


「あ、ねえ!」

「あん? なんだよ」


 声をかけると、不思議そうな顔で振り返る男の人たち。


「ありがとう!」

「なんで、お前が礼を言うんだよ。変な奴だな」


 変なんだ。

 間違ってしまったみたいだ。

 でも、そのままギルドから出て行った男の人たちは笑っていたから、大失敗ではないと思うんだけど、どうだろう?


「いいんじゃないですか。わたしはレオンらしいと思いますよ」

『まったく、揃いも揃って、本当にお人好しなんだから。今のだってレオンの強さを宛てにして、仲間にしようとしていたのかもしれないのよ? 二人ともそのうち、騙されやしないかってあたしは心配で仕方ないわ』


 シアンは嬉しそうで、ノクトもあまり怒っているみたいじゃない。

 なら、ダメじゃなかったの、かも。


「さあ、今度こそ行きましょう。レオンにおいしい物を食べさせてあげますからね!」


 シアンがわからないままの僕の手を取ると、くいっと引っ張ってくる。

 力が弱すぎてぜんぜん動かせないけど、僕が立ち上がるとそのまま歩き出した。


「さあ、人間の街を案内しましょう!」

すみません。来週はお休みです。

お盆休みというか、風邪をしっかり治したいので。

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