39 ドラゴンさん、英雄を聞く
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僕の事を『英雄』とかいう変な人が見つめてきている。
ちょっと、怖いというか、戸惑うというか、なんだろう。
「その自慢げな顔やめてくれませんか? レオンが気味悪がってますから」
腕の中のシアンが代わりに言ってくれた。
そうだ。
正直に言ってしまえば、このギルマスという人はきれいだけど、気持ち悪いんだ。
「いやいや、ボクもキミにだけは言われたくないかな、そのセリフ」
「わたしはいいんですよ。わたしは美しく天才な大魔導使いですからね!」
『その理屈はあたしにもわからないわ』
僕にはわかる。
理屈はわからないけど、本能で知っている。
何度もうなずいているのが伝わったみたいで、シアンがとってもニマニマしていた。
「あー、なんだか言うだけ無駄な気がしてきたよ」
「それよりも、ギルマスー。レオン君の魂魄鑑定の結果がわかるんですよねー? それって本当に本当ですかー」
マリアの目はじとっとしていて、ギルマスを疑っているみたいだ。
ギルマスはやっぱり大げさに肩をすくめてみせて、僕たちを順番に見まわしてくる。
「本当だとも。いいかい、マリア君。この鑑定石は人の魂魄を調べる魔導具なわけだが、本来の役目は冒険者のレベルを調べる事じゃないんだ。レオン君のような『英雄』クラスの人間を探すためなのさ」
「『英雄』クラス?」
英雄っていう言葉は僕も知っている。
人間の中ですごい強かったり、かっこよかったり、頭が良かったりする人の事だ。
たとえば、『あの人』とかがそうだと思う。
「それって初代弓聖の事ですかー?」
「まさかまさか。あんな紛い物の守銭奴と一緒にしては本物に失礼だ」
マリアを否定するギルマスは変わらない話し方なのに、目は怖いぐらいに真剣だ。
その迫力にマリアは何も言えなくなる。
ギルマス、弓聖さんが嫌いなんだな。
『じゃあ、本物ってどんな人の事なのかしら?』
「そうだね。初代皇帝とか、かな?」
初代皇帝?
ええっと、皇帝って帝国で一番えらい人、だよね?
その最初の人が英雄?
「名前のない女皇帝、ですか。なるほど、確かに英雄にふさわしいかもしれませんね」
「シアン、知ってるの?」
「この国で知らない人はいないでしょうね。女性ながら多くの人々を従えて、一代で帝都――今の旧都を築き上げた立志伝のヒロインですから。わたしも認めるのはやぶさかではありません。今はどこぞの巨大像が目立っていますが、街の大聖堂にはその彫像が今もあるんですよ?」
シアンが認める初代皇帝。
女の人だったんだ。
足元のノクトがじっと僕の顔を見ているけど、なんだろう?
「どうしたの?」
聞いてみるとノクトは僕の肩まで登ってきて、そっと耳元にささやく。
『いえ、ちょっと思っていたのよ。その初代皇帝こそがレオンの約束した『あの人』なんじゃないかしらって。初代皇帝が活躍したのって五百年前ぐらいだもの』
「なるほど。時期は合いますね」
『あの人』が初代皇帝?
その答えならすぐ答えられる。
「違うよ。『あの人』は男の人だったから」
『あら、そう。深読みしすぎたかしら』
あっさりと肩から飛び降りたノクトは、視線をギルマスに向けた。
『それで、結局のところレオンの鑑定結果はどうなのかしら?』
そういえば、さっきから関係ない話ばかりで結果を教えてもらってない。
ギルマスは腕を組んで、体をひねったポーズで考え込んでいる。
「言葉にするのは難しいね。そもそも、鑑定石がその形になるためには魂魄が生命力も魔力も最高値相当であるのが最低限なのさ。そんな冒険者っているかい?」
「どちらかが最高値ならいますがー、両方はいませんねー。じゃあ、レオン君は……」
「その遥かに上なのは間違いないね。事実上、世界最強と呼んでも過言じゃない」
どうやら僕は世界で一番らしい。
ほめられたみたいな気もするけど、戦うのが得意って言われてもあんまり嬉しくない。
「あえて、数値にするなら、そう。生命力量が500の、質は極光といったところかな? 苦手の魔力でも量は50前後で、質は何物でもない無色」
シアンの生命力が1の紺。魔力が8の銀。
僕は500の極光。魔力が50の無色。
なんだか、ピンとこないけど、すごい差があるのはわかった。
「本当に規格外なのねー。レオン君、やっぱり冒険者にならないー? 伝説に残る冒険者になれるわよー」
「さらっと勧誘しないでください。そういうのはレオンがゆっくり考えて決めるんですから」
マリアの僕を見る目が怖い。
なんというか、肉食のそれだ。
部屋の隅っこにいるから逃げ場がなくてちょっと困った。
その間に立ったのはギルマス。
「そうだね。無理強いはいけない」
ギルマスが僕の味方をした。
意外だったのは僕だけじゃなかったみたいで、シアンもノクトも、マリアまでびっくりしている。
「ギルマスー? 優秀な冒険者は多い方がいいんですよー?」
「だが、我々ギルドが強制する事はできないよ。違うかい?」
「違いませんけどー、ギルマスなら口先で騙して手元に置くと思いましたー」
「ボクをなんだと思っているんだい?」
マリアはにっこりと笑っただけだった。
ギルマスは苦笑して、それから僕たちに向き直る。
「さて。魂魄鑑定に関しては以上。なかなか興味深い物を見させてもらった。礼を言わせてもらうよ。それから無断でボクが君の結果を知ってしまった詫びをしておこうか。何かボクに望むことはあるかい? ボクに可能な事ならなんでも聞こうじゃないか」
ギルマスにお願い?
シアンやノクト、マリアもとってもおどろいている。
ギルマスがこんな事はあまり言わないのかもしれない。
『ギルマスはこんなだけど、迷宮都市の冒険者ギルドマスターは帝国の大臣職と同等以上といわれるわ。その彼の『可能な事』はかなりに及ぶの』
「つまり、なんでも願いを叶えてくれるって言っているんです」
ノクトの話は難しいけど、シアンが説明してくれるのはわかりやすい。
「ただー、ギルマスはギルマスですからー、お願いからその人の性質を読み取ろうとか考えているかもしれませんよー?」
「マリア君。ボクはキミの上司なんだが?」
なんでも?
そんなことを言われても困ってしまう。
僕が叶えたかった人間になりたいという願いはもう叶っている。
友達はほしいけど、このギルマスに友達になってほしいとは思えない。
マリアとギルマスまで言い合ってしまうから、ますます混乱してしまう。
「あ」
あれはどうだろ?
ギルドに来てから色々と話を聞いて、考えていた事をお願いしてもいいのかな?
「ほう、どうやら何かあるみたいだね? 聞こうじゃないか」
ギルマスが興味深そうに僕を見ている。
やっぱり、この人はなんだか気持ち悪い。
そんな人に話してもいいのか悩んでいると、誰かが扉をノックして入ってきた。
「マリアさん、お邪魔します! 素材鑑定の見積もり持ってきました――ってギルマス!? なんで、ここに!? っていうか、鑑定石がかっこよくなってやがる! って、レオンのあんちゃんはどうしてシアンの嬢ちゃんをお姫様抱っこしてんだ!?」
「ディックさーん……空気を読んでくださいねー?」
「ひぃっ! すんませんでしたーっ!」
ディックだ。
手には紙を持っているけど、部屋の中を見回して忙しく叫んで、マリアに叱られてしょんぼりしている。
あの紙が見積もりなのかな?
「レオンが倒したモンスターの買い取りですね。ノクトが運んだ分はもらいますけど、その他はレオンのお金ですよ。ええ、レオンのです。決してうらやましくなんてないんですからね!」
『あたしはうらやましいわ。それなりに金額になっているでしょうから。状態は悪かったけど、数が数だったもの。一生とはいかなくてもしばらく生活するのには困らないぐらいの大金よ』
「ぐぬぬ」
お金がほしいらしいシアンとノクトは何とも言えない顔をしている。
お金。
お金か。
人間にとって大切なのは知っているけど、僕にはそう思えない。
でも、使い方なら知っている。
初めてドキドキするけど、なんでも最初は初めてだ。
勇気をもって使ってみよう。
「ギルマス?」
「なんだい、お願いを言う気になったかい?」
気持ち悪いのをがまんして、僕はうなずいた。
「あのお金を使ったら、道連れ兎のせいで帰ってこれない人を助けられる?」




