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ドラゴンさんのセカンドライフ  作者: いくさや
第二章 街住まいのドラゴン
38/179

37 ドラゴンさん、魂魄鑑定する

 37


「こっちよー。いらっしゃーい」


 最初の所よりも奥に連れていかれて、僕たちはマリアに続いて部屋に入った。


 あまり広くない。

 人間が三人に、猫が一匹入るとちょっと多いぐらい。

 窓がひとつもなくて、天井から降ってくる光しかない。

 あと、中もほとんど物がなかった。

 正面の壁に変な形の石? 岩? があるぐらい。


 最後に入ったシアンが扉を閉めながら説明してくれる。


「本当ならここに入るのはギルドの方と、冒険者が一人ずつですからね」

『冒険者なら魂魄の情報は秘密にするものよ。たとえパーティメンバーであってもね。レオンも余程、親しい間柄でもなければ隠しておきなさい。今回はマリアと二人だけにすると色々不安だから、あたしたちも立ち会わせてもらうけど』


 それで狭い部屋だし、外から中が見えないようになっているんだ。


「じゃあ、シアンとノクトにだけ教えるね」

「ふふふ。そうですか。レオンにとってわたしは余程親しい相手なんですね? わかっています。安心してください。レオンの情報は誓ってしゃべりませんよ! ええ、レオンにとって大切なわたしですからね! レオンも心強い事でしょう!」

「うん。ありがとう、シアン」

『わかっていたわよ。あたしが警戒すればいいのよね。ええ、二人分ね』

「子守り、お疲れ様ですー」


 シアンがイキイキしていると、僕も嬉しくなる。

 足元でノクトがため息をついているのはよくわからないけど、マリアがなぐさめているかだいじょうぶっぽい。


「では、さっそく始めましょうかー」


 ポンと一度手を叩いたマリアが、変な形の石の前で僕を手招きしてくる。

 シアンとノクトがうなずいたから、近づいてよく見てみた。


 台に置かれているせいで僕の目の高さぐらいまである石。

 やっぱり変な石だ。

 表面がなんだかキラキラと光っているし、ふたつに分かれたとがった石の形も変だけど、それ以上に見ていると首の後ろがぞわぞわする。


 これ、自然の石じゃない。

 ううん。その前に、本当に石なのかな?

 いや、金属とか、植物だなんて話でもなくて、なんというか、もっと別の存在のような気がするんだけど……。

 なんだ、これ?


「魂魄鑑定は簡単よー。この鑑定石に手を当てて、マナを一呼吸分吸うだけだからー。でも、大切に扱ってねー? 冒険者ギルドにも少ししかない貴重品なんだからー」


 鑑定石って言うんだ。

 何だかよくわからないものだけど、やり方は簡単で安心した。

 けど、この変な石に触るのはちょっと怖い。


「あ、マリアさん。ここはまずわたしを鑑定してもらってもいいですか?」


 後ろからシアンがやってきて、僕の前に立った。


「レオンの結果だけ見るのはフェアじゃなりませんからね! もちろん、料金はお支払いします……」

『まったく、この子は……安くないのに』

「いいわよー。中層から帰ってきたシアンさんの成長を見せてねー。ギルドカードの更新もしちゃうから預かるわー」


 僕がなかなか手を出さないから、先にやって見せてくれるんだ。

 なんだか自分が情けなくなってしまう。


「ありがとう、シアン」

「レオンにはたくさん借りができてしまってますからね。気にしないでください。では、いきますよ!」


 シアンがぺたんと鑑定石に手を置いた。

 そして、大きく深呼吸。

 すると、石が下から光り始めていく。

 石の左側がグングンと下から上に向かっていって、半分を超えたところでゆっくりになって、てっぺんを残した所で止まった。


 光が動かなくなったところで、マリアがシアンのギルドカードを鑑定石に当てる。

 それから次々とカードの上で指を動かし始めた。


「うーん。魔力量がまた上がっているわねー。とうとうランク8よー。おめでとうー。魔力質が『銀』なのは変わらずかー。それから……」


 そこでちらりとマリアが見たのは鑑定石の右側。

 なんというか、下の方がちょーーっとだけ紺色に光っていた。

 すごい弱々しくて、今にも消えてしまいそう。


「生命力量、ランク1ね」

「ちょっと! そこで素の声にならないでくださいよ! いいじゃないですか! ほら、光が紺から青に寄っていますでしょ!?」

「素ってなんのことかしらー? そうねー。生命力質は最低の『紺』とー」

「青です! これは青ですって! 濃い目の青に違いありません!」


 何度も言い張るシアンだけど、これは紺色だと思う。

 そんなシアンにマリアは笑顔でギルドカードを渡して見せた。


「はいー。シアンさんの更新終了よー。総合ランクB。生命力1-紺。魔力8-銀。数値は隠しておいてねー? それにしても、本当にピーキーな魂魄よねー」

「わたしは深窓の令嬢でしたからね! まだ体力がないのは仕方ありません! これからですよ、これから!」

『育て方、間違えたかしら……』


 ノクトが猫耳としっぽまでうなだれてしまっていた。

 えっと、元気出して?


「こんな感じかしらー。鑑定石の光る場所と色でわかるのよー。レオン君はギルドカードを持ってないけど、なくても調べられるから安心してねー」

「うん。やってみる」


 まだ鑑定石の変な感じは怖いけど、これで嫌がったらかっこわるい。

 僕は何度か深呼吸をしてから、シアンが開けてくれた場所に立つ。

 えっと、まずは手を当てて。


 石はひんやりしていて、つるつるしていた。

 ただの石みたいだと思ったのは最初だけ。

 手のひらから僕の胸に向かって何かがつながった感じがする。


「私までドキドキしてしまいますねー。はーい。じゃあ、そのまま深呼吸ー」


 マナを吸い込む。

 変換はしなくていいんだよね?


「あらー?」

「何も起きませんね?」


 鑑定石はちっとも光らない。

 どうしたんだろう?

 シアンが試してくれたから壊れていないと思うんだけど、やっぱりこれって僕の魂魄がドラゴンだから?


 僕が不安になっていると、目を細めていたノクトが叫んだ。


『いえ、これは……シアン、マリア! 下がりなさい!』


 その声にマリアがすぐに動いた。

 音も立てないでシアンに近づいて、そのまま彼女を抱きかかえて僕の後ろへと飛び下がる。

 それとほとんど同時。


「あ、れ?」


 鑑定石が変形した。

 ぐにゃりっていきなり。

 まるで生きているみたいに動き出す。


 手を放した方がいいのかな?

 後ろのマリアに聞いてみる。


「これ、動くの?」

「何が起こって、こんなの、聞いた事もない……魔導具の暴走? そんな、なんで? Sランクの冒険者でもこんな事はなかったのに……」


 ぶつぶつ独り言でいそがしいみたいだった。

 でも、マリアも知らないみたいなのはなんとなくわかった。

 シアンとノクトは口を開けたまま動かない。


 そうしている間も鑑定石は変形を進めていた。


 石の底はそのままなのに、右と左の部分が上へ上へと伸びていって、その間を枝みたいに細い棒がつながって、そこにコブを生みながら成長していく。

 いや、成長なのかな?

 よくわからない。


「あ、止まった。止まったよ、みんな」


 変形が終わるまでどれぐらいかかったんだろう。


 結局、鑑定石は部屋の天井に届くぐらいまで大きく伸びてしまっていた。

 右と左の石が同じぐらいに伸びて、その間に何本かの棒でつながっている形。


 光は……たくさん。

 右は下から緑・青・灰に光っていて、それ以外だと一番下の根っこの部分が淡い黄色。

 左はうっすらと全体的に光っているけど、これってどういう感じなのかな?


 えっと、光る場所と色でわかる……って、シアンと違いすぎて何もわかんないよ。


「ねえ、マリア。これってどんな感じ?」


 マリアはいつもの笑顔ですごい汗を浮かべていた。

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